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027 ヴェゴーと死霊王が相対します

 そこから湖までは何事もなく進んだ。

 多少の妨害なりトラップなりが仕掛けられてると踏んでいたが、どうやら死霊王は残りの戦力を全て、自分のところにかき集めたらしい。


 一行は今、死霊王が根城にしているダムから少し離れた岸にいた。


「残り2割って話でしたけど……本当でしょうか」


 かんちゃんがぼそりと呟く。ヴェゴーがそれに、ボリボリと頭をかきながら応えた。


「正直に言えばわからんな。ここまでも事前情報とだいぶ違う。死霊王自身がどうなってるかも、実際見てみないとなんとも言えないだろうな」

「例の自分の記録を移すっていうアレね。ザマンくんもいいとばっちりだわねぇ」

「しくったなぁ。そういう技術を既に持ってるって判ってりゃ、ザマンを斥候に立てるなんてことしなかったんだが……」

「でも、適性は高いんですよね? ザマンさん」

「職業適性はな。だが、今回は相手との適性が悪かった。身体能力の高い、若い人間の身体ってのは、狂った科学者には格好の材料にしか見えねえだろうよ」

「今回は特に、肉体だけ欲しいんだものね。むしろ身体は丁重に、出来るだけ傷つけずに手に入れたかったはずだわ」

「どういうことですか?」


 聞いてくるかんちゃんに、ナンとヴェゴーは少しだけ言い淀む。


「……鮮度が大事なんだとよ。昔そんなことを言った錬金術師がいた」

「一番鮮度の高いのは、生きている状態だものね。だからザマンくんは生命の危険だけはないんだけれど……」

「でも、それなら若いっていう条件はなんなんです? 身体を乗っ取るみたいなことなら、若い人の方が抵抗力が高いんじゃ」

「そうでもないのよ。確かに身体的にも強いし、意志の強さもある。普通に考えれば抵抗力は強いんだけど……」

「脆いんだよ、メンタルがな。だから簡単に言いくるめられるし、肉体から引き剥がすことも出来る。ましてや相手は自分の身体を捨ててまで研究に固執した男だ。まだ発展途上の若いやつから精神だけ引き抜いて肉体を空っぽにするなんざ、下拵えみたいなレベルなんだろうな」

「そんな……」


 絶句するかんちゃんに、ヴェゴーはそれでも明るく声をかけた。


「とはいえ、その下拵えには時間がかかる。わっち達みたいなのをほっといて出来るような簡単なもんじゃない。ゆえにザマンはまだ無事っていうことね」

「でも状況が良いわけじゃないからなぁ。さっさと行っちまいたい所だな」

「どうする旦那? 湖渡るなら凍らせるけど……」

「ど真ん中で襲撃されるのも面白くねえな。このあたりは道もある程度整地されてる。歩いて行こう」


 一行は岸に沿ってダムへと向かう。

 バクダマー湖のダムは今では放棄され、機能はしていない。ただの水たまりのフタのようなものだ。とはいえ施設自体はまだ残っていて、死霊王はそれを根城にしているらしい。その周りには背の高い木が何本も生え、壁面にはツタが這い、苔むしている。角ばったシルエットで、辛うじてそれが建造物だと判別出来る程度には自然に馴染んでいた。


「……動体反応多数。生命反応……2。ですが、片方は動きません」

「拘束でもされてるのか? だとしたらそっちがザマンの可能性は高いが」

「そうねぇ……。まぁここまで来ちゃったし、このまま行っちゃいましょうか」

「だな。俺が先頭になる。三人は少し距離を取ってついてきてくれ」

「はーい」

「わかりました」

「気をつけてね」


 ここまで岸を伝って歩いてきた一行である。死霊王に気づかれているのは織り込み済みだ。

 ことさら隠す必要もない。ヴェゴーは歩きながら叫んだ。


「冒険者ギルドコディラ支部のヴェゴーだ! 死霊王はいるか!」


 施設の周りの地面がざわり、と蠢いた。


「あれ全部ゴーレムかしらね」

「みたいですね。……ただ、動きが単調です。自律型のゴーレムはいない、もしくは少ないかと」

「防壁代わりっていうところかしらね」

「あんなにも……死者を冒涜して……」


 シーダから殺気が漏れ始める。それをヴェゴーは手で制した。


「シーダ嬢、まだだ。合図したら存分にやっていい。だが、その前にいくつかやることがある」

「うう……わかったよぉ……」

「死霊王! 姿を見せねえと埒があかねえ! さっさとツラ出してもらおうか!!」


 蠢くゴーレム達の中から、一際大きな身体が身を起こした。

 それは明確な意志をもつ眼で、ヴェゴー達を見つめている。

 巨大な身体である。

 身長は恐らく、5メートル近い。顔は人間のものだがその首から下は、人間に似たまるで違う生物のようだった。

 腕はアンバランスに長く、左右に二本ずつ生えている。メインの腕は異様に太いがもう一本は細く、メイン腕の奥に畳まれている。

 異形である。

 本来の目的 ―自律型ゴーレムの研究開発― を考えれば、人間から離れれば離れるほど不都合が生じるはずだが、そんなことをまるで無視しているかのような怪物がそこにいた。

 ヴェゴーはそれに、なにか理由があると睨んだ。


「タドリツイタカ……」

「わざわざ道案内ご苦労だったな。あれだけわかりやすいトラップがありゃ、それを伝って来れば場所なんざすぐに分かる。……さぁ、とりあえずザマンを返してもらおうか」


 戦闘になれば恐らく、ザマンを救出する暇がなくなる。そのまま討伐をしたとして、隠されていたらどうにもならなくなる。

 だからこそヴェゴーは、ザマンの救出を最優先に考えていた。


「ザマン、トイウノハ、コノオトコカ」


 そういうなり、死霊王は畳んでいた副腕を広げた。

 そこには気を失ったザマンが掴まれていた。


「! ザマンさん!」

「ザマンくん!」

「見た通りの力じゃあないってことか……」

「……ねぇ、まだ? もういいでしょ?」


 シーダが獰猛な気配を隠そうともせず、死霊王を睨んでいる。

 いつ飛び出してもおかしくない、そんな体勢で力を溜め込んでいるようだった。


「……もう少しだ」


 ヴェゴーは呟き、再び死霊王に向かい合った。


「死霊王。俺たちはお前さんの討伐クエストを受けている。SS級だとよ、だいぶ箔の付いた案件だ。だが、それより優先することが1つある。……そいつを離せ」

「……」

「そいつを攫ったのは、あんたの次の依代にするためだろう。だったら俺たちとの決着をつけねえと何も出来ないのも判っているはずだ。俺たちを完全に排除しない限り、お前さんはこいつに乗り換えることは出来ない。……だからよ」


 ヴェゴーは笑っていた。

 死霊王。彼の討伐クエストをきっかけに、ヴェゴーは冒険者に復帰した。手持ちのクエストを全て受注し、ギルドで働く事務員のかんちゃんを引き入れ、かつての仲間であるナンを巻き込み、かんちゃんのコアファン、ザマンに協力を要請し、希少な“まともに結果を出す冒険者”シーダがそこに加わった。

 その死霊王と、今こうして対峙している。

 ともすればこの戦いの結果次第では、ギルドの存続も含め、様々な状況が変わっていく。


 まさに正念場。

 そのギリギリの今が、ヴェゴーを笑顔にさせたのだった。


「だから、勝負だ死霊王。……俺とお前さん、生き残った方の勝ちだ」

次回、決戦!


これからも応援よろしくお願いしますー°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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