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021 爆炎女帝が復活します

「……どーにも学者ってのはめんどくせぇな」


 そう言いながら、ヴェゴーは腰のナイフを二本とも抜いた。


「こっちは討伐依頼を受けてる。言ってることは分からんじゃないが、こっちも受けた依頼は遂行せにゃならん。……どけ。どくなら見逃してやるよ」

「……いいじゃろう。ここのゴーレムに倒されるならば、これ以上話す意味もない」

「まどろっこしいこと考える癖に、結論はシンプルなんだよな、学者さんは。……まあいい、話は後で聞いてやるよ」

「……そうか」


 カントがそう呟くと、彼の乗っているゴーレムのハッチが閉じた。魔導回路が接続され、青白い魔導光が関節から漏れる。


「ここで死ぬなら、こちらも用はない」

「……殺さねえように気をつけるよ」


 ヴェゴーとナンがカント博士の率いるゴーレム達と対峙する。

 もしもカント博士が魔道士であれば、そうでなくとも魔力そのものを感じ取る力を持っていれば、ナンの発する魔力が全身から噴き上がっている魔力に気付いただろう。

 ナンもまた、臨戦態勢であった。


「場を作るわね」

「おう」

「――炎の壁(ムゥロディフィアンマ)


 詠唱し、両腕を広げる。広げた指先から大量の炎が広場の外周に沿って伸びていく。外周にたどり着いた炎は壁となり、一気に燃え広がった。


「逃さないわよ」

「……周りに木がなくて良かったなぁ」


 ヴェゴーとナンが正面のゴーレム達に向き直った。

 ナンは腰の杖を抜き、前に突き出している。


「……どうする?」

「あのガラクタは俺がやる。……今度は遠慮なしだ」

「――じゃ、あの子達はいただくわね。……炎の連弾(ラピドフィアンマ)


 杖の先から矢となった炎が次々に撃ち出される。

 狙いは特に定めない。命中率は下がるが、“大体あのへん”で撃ち出された炎は予測が出来ない。

 着弾した炎はそのまま火柱となり、相手の動きを制限する。

――が。


「……あら、やるじゃない」


 ゴーレム達は足元をぶすぶすと焦がしながらも、火柱をまるでないものの様に踏みにじり、ナンに向かって動き出した。


「おいおい、大丈夫か」

「わっちを誰だと思ってるのよ。いいから旦那は旦那の仕事やってらっしゃい」


 そう言いながら、ナンは次の魔法の準備を終わらせている。


「――ごめんね、次が詰まってるの」


 ナンを中心に、周囲の空気が熱で歪む。湧き上がった蜃気楼が次々と上書きされ、ゆらぎが(ゆが)みへ、更に歪みが収束され、それは空間を(・・・)歪ませた(・・・・)まま、ナンの杖の先に集まっていった。


「――再構成。風属性を付与。豪熱疾風魔法(サヴスパズィオ)!!」


 杖に集まった灼熱の空間が、風に乗って散っていく。

 それは無作為に暴れまわっているようにも見えるが、その全ての攻撃をナンは完璧に操っていた。

 数百度の熱を持ったカマイタチが次々にゴーレムに襲いかかる。

 感情や痛みの感覚を持たないゴーレムにとって、一発の強さはない。だが、全く同じ場所(・・・・・・)に何度も攻撃を受けると、組織そのものが壊れていく。

 結果ゴーレム達は動きが鈍り、更にナンのコントロールで誘導され、一処に集められていった。


「鈍ってねぇな、姐さん」

「当然でしょ?」


 更にナンは、ゴーレムたちを誘導する傍ら、トドメとなる魔法の術式を同時に展開していた。

 術式の並列処理。

 かんちゃんが得意とする技術である。


 ナンは、控えめに見積もっても“天才”の部類に属する魔道士である。冒険者になった当初から、火・風・土・雷・闇など様々な属性の魔力を使いこなしていた。聖・重力属性は使えないが、そもそも洗礼を受けている訳でもないので、聖属性を使いこなすこと自体意味がない。重力に至っては、そのほとんどが自己強化に使われる属性なので、魔道士である彼女が持っていなくても大して問題ではなかった。


 “死角なき大魔道士”。

 ナン=イヤーテの、かつての異名だった。


――かつてのZ級クエスト対象、ベヒーモスの討伐に参加するまでは。


「……さて、本気でいくわよ。悪いけどあなたたち」


 ナンの目が妖しく光る。にい、と吊り上がった口角の端から、小さな舌がちろりとのぞき、唇を舐めた。


「ここで消えなさい」


 ゴーレム達は全く対処が出来ていない。自律行動が可能とは言え、その行動原理は単純で、しかも自己判断からの行動決定は、並の人間に比べても数倍遅い。ましてナンのレベルともなれば、その差は数十倍どころではなかった。


 今、そのナンの眼の前には、彼女の持つ魔導書が浮かび、パラパラと気ぜわしく自動でページがめくられている。


「死んでなお怪物となり使役される哀しいあなた達に、わっちからプレゼントをあげるわ。喜んでくれるといいのだけど……」


 そういってナンが詠唱を始めた。炎の壁内の空気がナンの杖に引っ張り込まれていく。その代わりに外気が流れ込むため、炎の壁はどんどんその高さを増していった。

 ナンは杖を高らかに振り上げ、正面のゴーレムたちに笑いかけたまま、唱えた。


「炎の章、第六位魔法。……炎獄(ゲヘナ)


 次の瞬間、集められたゴーレム達に炎の塊が降り注いだ。それは、急に空気が入り込み膨張した炎の壁から剥がれ落ちたものである。

 炎はゴーレム達を着火し、赤から紫、青へと、熱が上昇するごとに見た目を美しく変化させていった。

 それにともなって、ゴーレム達の身体が、文字通り“消えて”いく。

 蒸発しているのである。


 火炎魔法を好み、息をつかせる間もなく次々と魔法を撃ち出し、更にそれらを組み合わせて、攻撃力の最大値を叩き出す。


 かつて、Z級クエスト“ベヒーモス討伐”の際に使用したこの戦い方にちなみ、それを見たり聞いたりした仲間の誰かがボソリと呟いた一言。

 それ以降、彼女の異名は、その一言に変わった。


――爆炎女帝(スペルハッピー)


 それがこの大魔道士、ナン=イヤーテの今の二つ名である。


 ごうごうという空気の震える音と共に、ゴーレム達は蒸発していく。

 炎の壁も、もうかなり高さがなくなっている。そのまま消えるのも時間の問題だろう。

 壁の向こうで待機していたかんちゃんたちの顔は、もはや驚愕としか言いようのないものだった。


 全てが収まり、最後に残ったほんの少しの灰は、穏やかに吹く自然の風に飛ばされ、やがて見えなくなっていった。

次回、ヴェゴーVS鉄ゴーレム+ドライブゴーレム(カント博士付き)!


これからも応援、よろしくお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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