020 シーダはかんちゃんと仲良くしたい
一行は先へと進んでいた。まだ回復しきっていないシーダはヴェゴーが肩に担いでいる。僧侶の回復魔法は神の洗礼を受けたものしか使えないが、その基本精神は奉仕であるため、自分に対しては使用することが出来なかった。かんちゃんの自己回復促進魔法なら有効だが、足を止める必要があるため、先を急ぐ以上、その場で使うわけにもいかなかった。
かんちゃんは経費で買った最新型の全身鎧をすでに着込んでいた。この先は突然戦闘が始まる可能性が高くなるからと、ヴェゴーが提案して着せたものだ。
「ギルド長」
「んー?」
「この先10分程進むと、広場みたいになってる場所があるんですが……」
「ああ。昔、斬った石を下ろす時に中継点になってた所の一つだな」
「そこに生命反応1、動体反応が多数」
「……なんで分かるの?」
「鎧の探知魔法です」
「……そんな機能付いてたっけ? その鎧」
「いえ」
かんちゃんは全身鎧フル装備のため、その表情は外からは分からない。が、さっきの会話よりはいくらか声が明るくなっていた。
「仕込んでおいたんです。空いてる魔法拡張スロットがあったので」
「自分と鎧の性能アップ。かんちゃんがうちに出向した成果よ」
そう言ってナンが笑う。
「戦うことは出来ないから、せめて支援に徹底したいって」
「楽術士としてもまだまだなので、最低足を引っ張らない位にはならないとと思いまして」
「かんちゃん……」
「ギルド長さぁん……」
ヴェゴーの肩に担がれたシーダが、半べその様な声を出した。
「おう、なに泣いてんだお前さんは」
「かんちゃんがぁ……」
「うん?」
「かんちゃんが良い子だよおぅ……」
「シーダさん?」
「かんちゃんは良い子よー」
「ごめんよぉう、冷たくして距離とったりしてごめんよぉう」
もはや号泣に近いシーダに、かんちゃんは優しく話しかけた。
「いいですよ、気にしてません。冒険者のみなさんが頑張ってるのは、私も冒険者になって身をもって知りましたし」
「ごめんよぉう、かんちゃんの情報を“貧乳友の会”に売りつけてごめんよぉう」
「……あ?」
「ヒッ」
「かんちゃんの魔力が増大してる……」
「……あんただって変わらないでしょうが。ほんとのスリーサイズばらしましょうか!?」
「あうう、かんちゃんが酷いよう……大体なんでボクのサイズ知ってるのよぉう……」
「書類関連全部私が管理してるんだから当たり前でしょう」
「でもでもだってぇ……」
「そこの角曲がると中継点が見える。……さて、誰が待ってんだろうな」
ヴェゴーの言葉にかんちゃんが応じた。
「死霊王、じゃないんですか?」
「死霊王には生命反応はないだろ。自分をゴーレム化してるんだからな。あるとすれば、ザマンか……」
「カント博士かしらねぇ」
「カント博士?」
「まぁ、情報がそこからだとすれば可能性はあるなぁ」
角を曲がるとヴェゴーの言った通り、中継点の広場が見えてきた。その中央付近には十体近いグール・ゴーレム、以前ヴェゴーと腕相撲をした、カント博士のゴーレムもいる。
更に一際大きい金属製のゴーレムがもう一体、集団の後ろに構えていた。
「……ビンゴかぁ」
「嬉しくないわねぇ」
「ギルド長さぁん、ボクはかんちゃんと一緒に待ってるねぇ」
「シーダさん?」
「……それが良さそうね。かんちゃんはシーダちゃんに自己回復促進魔法を」
「はい」
かんちゃんが三重奏の準備をする。
その間に、ナンはシーダに向かって言った。
「シーダちゃんはかんちゃんの護衛。いいわね」
「はぁい!」
「かんちゃんと仲良くなるチャンスよ。……本当はそうしたかったんでしょう?」
「うっ」
「まったく、不器用すぎなんですよ、そういうとこ……」
「うぐっ」
「三重奏を使ってる間、私は動けなくなります。シーダさん、お願いしますね。……信頼してますから」
「! ……まかせてっ!」
そんなやり取りを聞きながら、ヴェゴーはゆっくりと中央のゴーレム軍団に近づいた。
広場は円形をしており、その半径は50メートル程といったところか。
「いるんだろ、カント博士。――出てこいよ」
ヴェゴーが呼びかける。
後ろに立っている鉄製ゴーレムの胸が、下から上へと大きく開く。その中からカント博士がゆっくりと現れた。
「……ふん」
「ふんじゃねえよ。あんた、倒してくれまで言ったくせに、情報横流ししやがったな?」
「……」
「あら、ここでだんまり? それはあまりいい選択肢じゃなくてよ?」
「……死霊王の全戦力、その2割が今ここにいる」
「これで2割!?」
「大分戦力増やしてるじゃねえか。……死霊王の目的は結局なんなんだよ」
「目的などない」
「……どういうことだ」
「やつは自分の魂の情報を魔法陣に封じ、自分の魔力でゴーレム化した。やつの記憶は全てそのまま、死霊王に生きておる。……だが、やつは自分の持つ情によって研究を妨げられるのを嫌い、そこに封をした」
ぼそぼそとカント博士が喋り始めた。その間ゴーレム達は微動だにせず、ヴェゴーとナンもまた、大人しく話を聞いている。
「……やつは情の深い男だった。だからこそ、不慮の事故や殺人で行き場のなくなった魂を、再構築した肉体に入れることで蘇らせようとしたんじゃ。それがやつの研究じゃ」
「……」
「だが、儂はそれを良しとしなかった。それは神のみならず、魂や肉体自身への冒涜じゃと散々説得した。しかしやつがそれを聞き入れることはなく、結果的に本人もゴーレムになりおった。情を以て研究を推し進めた男が、情を封印した。……今の状況を作った原因の全てがそこにある」
「酷い矛盾ね……」
ナンが眉をひそめている。ヴェゴーもまた、話を聞きながら苛立ちを隠せずにいた。
「じゃがやつはそれを矛盾だと気づくことはなかった。そして今は本能のままに、研究の成果を世に知らしめようとしている」
「……で?」
「む?」
「それをあんたがここにいるのと、何の関係がある? 止めろといったり邪魔をしたり、やってることの矛盾はあんたもだろう、カント博士」
「……止めて欲しいといったのは本当じゃ」
「じゃあなんで」
「じゃが、倒して、殺して欲しいとは言っておらん」
「あ?」
「やつが封印した、やつの情。感情を、取り戻したい」
今回は短めですが、次回の更新は明日!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
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