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017 そろそろ計画が動きます

 ザマンのレンタル移籍が決まったその翌朝。


「さっみぃ……」


 3月だというのに、冒険者ギルドコディラ支部の窓には霜がびっしり降りていた。それどころか、外は白いものがちらちらと舞い降りている。


「おいおい、雪かよ……」


 ギルドの中は魔導空調装置が利いているので、実際に寒いというわけではないのだが、その様子を見たヴェゴーはぶるっと身体を震わせた。

 その時、やたらと元気な声と共に、ザマン=フォーミュラが戸を開けて入ってきた。

 今日も今日とてピンクジャケットにしましまズボンである。


「おっはようございまーす!!」

「うるせぇ……」

「ひどい!?」

「おはよう。あと戸閉めて。雪入ってきてる」

「あ、すいません」

「コーヒー飲むかい?」

「あ、ありがとうございます。……と、かんちゃんは?」

「ああ、かんちゃんなら」


 コーヒーを入れながらヴェゴーが放った一言は、ザマンを落胆のどん底に叩き落とした。


「直行直帰で“遊び人”だよ。言わなかったっけ?」

「聞いてませんよ!」

「そうか。じゃあ今言った。あっはっは」

「ぐぬぬ……」

「まぁそう落ち込むなよ。ランチタイム終わりには行くことになるからさ」

「そうなんですか?」

「おう。今な、死霊王討伐のプランを立ててるとこなんだ。……まだ2人行方不明だけど」


 ヴェゴーがため息と共に肩を落とす。


「グレイ=ストークさんとシーダ=フォックスさん、でしたっけ。どんな人たちなんですか?」

「そうだなー、ある意味お前さんに似てるな」

「え、ピンクの方ですか?」

「違う」

「じゃあしましま……」

「それも違う。……まぁ、言っちゃえばソロでA級になったんだよ、あいつらも」


 そう言いながらヴェゴーはごそごそとデスクの引き出しをまさぐり、2枚の書類を出してきた。


「まぁ、クセが強いのよ。……見てみ」

「あ、はい……うわ、なんですかこれ」


 ザマンに出された書類は、グレイとシーダの冒険者登録書だ。そこにはジョブなどのスペックと共に、これまでの獲得報酬や賞罰などが記載されている。


「グレイ=ストーク……。A級冒険者、侍、通称“スピードジャンキー”。所属パーティなし。超高速戦闘という文字通り“他の追随を許さない”特技をもつ。パーティが現地に到着する頃には全ての敵を倒しているため、パーティを組む意味がない。……すごいじゃないですか」

「続き読んでみ」

「……目的以外に興味を持たず、どんな影響があろうと意に介さない。結果、報酬や冒険者保険で補填出来ないレベルの被害が出ることも少なくないため、常に1000万エン以上の借金を抱えている。えええ……」

「だいぶ教育したけどな。今では目的が殲滅じゃないかぎり、戦闘で音速は出すなって言ってある」

「被害ってソニックブームのせいなんですか!? えぇ……」


 最初は尊敬の念すら感じている様子のザマンだったが、読み進めるうち眉間に縦線が入ってきた。


「ちなみに、“自称”貴族だ。だからグレイ卿ってよばれてる」

「え、本当なんですか?」

「冒険者は出自を問わないからな、自分がそうだって言ってんだからそうなんだろ。まぁ、こまけぇこたぁいいんだよ。……もう一枚も読んでみ」

「あ、はい。……ええと、シーダ=フォックス。A級冒険者、僧侶、通称“ケダモノ僧侶”、所属パーティなし。……なんすかケダモノって」

「まぁ読んでみ」

「はぁ……。獣人としては最年少で僧侶として冒険者となる。ソロとしての能力も高いが、僧侶ゆえ本来はパーティのヒーラーを得意とする。……何も問題ないじゃないですか」


 そこまで読んだザマンは、率直な感想をヴェゴーに向けてきた。

 獣人などの亜人が冒険者になることは多くはないが、特に珍しいわけでもない。基本的な身体能力の高い獣人が後衛、しかも回復役になっていることは稀ではあるが、前例がないわけでもない。ザマンには、シーダの何が問題なのかが理解出来なかったらしい。


「成人だが、少女に間違えられそうな見た目の愛らしさに加え、獣人特有の魅力値の高さで、数々のパーティメンバーを男女問わず虜、に、し……!?」

「まぁ、本人悪気はないんだけどな。能力も高いし、見た目もいいしで、パーティのメンバーで取り合いみたいなことになっちまうらしい。それでついた最初のあだ名が“パーティクラッシャー”だ。それに尾ひれが付いて、最終的には手当たり次第に美味しくいただく“ケダモノ僧侶”なんてことに」

「ひどい……」

「と思うだろ? それがなぁ、これ本人がなぜか気に入っちまってな……」

「なんで……」

「“ケダモノ”て所に、野性味やらなんやらを感じてるらしい。肝心の噂の方は全く気にしてないみたいでな」

「……なんていうか」

「ちなみに性別不明」

「なんで!?」

「教えてくれないから」


 ザマンはなんとも言いようのない表情で、力の抜けきった様子だ。


「個性的ですねぇ、コディラ支部は……」

「いや、お前さんも大概だけどな。……で、まぁそのシーダ嬢から、久しぶりに連絡が入ったんでよ。遊び人のランチタイムが終わったら、討伐までの流れをどうするかって話し合いをしにいくぞ。パーティ分けも考えねえと……」

「はいはいはいはいっ!! 俺はかんちゃんと一緒がいいですっ!!」

「……まぁ、言うと思ったけどさ。まだ考えてないからなんとも言えん。ジョブの相性なんかもあるしな」

「……分かりました。で、それまでは何してればいいんですか?」

「そうなぁ……」


 ヴェゴーはふと外を見た。さっきまで小ぶりだった雪は本降りの様子で、十字に入っている窓枠の縁にはもう、窓の半分ほどの雪が積もっていた。


「ま、コーヒーでも飲んでたら?」


――――


「まーた随分と乗っけてきたわねー……って、誰その雪だるまは」


 ランチタイムの終わる頃合いにPUB“遊び人”にやってきたヴェゴー達は、今日もまた裏口から控室に入った。そこには客足が落ち着き一服するナンの姿があった。


「ザマンだよ。来る時、魔導除雪車の排雪モロに被っちまってな。まぁ近いし死にゃしねえだろと思ってそのまま持ってきた」

「ももんも、ももおおもお」

「何言ってんのか全然わかんねえ」

「タオルってレベルじゃないわね。……ちょい、と」


 ナンがさっと軽く手を振ると、ザマンに被っていた雪が瞬時に消滅した。


「あっちぃっ!! ……あ、ナン姐さん、お疲れ様です! かんちゃんは!!」

「早速!? 今片付けしてるから邪魔しちゃだめよ」

「じゃ、じゃあ手伝って……」

「だぁめ。呪縛(ドントムーブ)


 声は優しく、行動は厳しく。

 甘く優しげな声で制されたザマンは、四肢を一切動かせなくなった。


「なっ!? ちょ、離してくださいよっ!」

「かんちゃんは今、お店の片付けを利用した新スキルの修行中なの。邪魔したら……」


 ナンはザマンの耳元で囁いた。


「もぐわよ」

「!!」

「うわえげつねぇ……」


 しゅんとなったザマンをそのままに、ナンはかんちゃんの様子を見に行く、と言い残して店に戻っていった。


「……あの」

「なんだよ」

「これ、解いてくれませんかね……。金縛りみたいになってるんですけど」

「魔道士の術を俺が解けるかよ。戻ってくるまで待ってなさいよ」

「無理ですよっ……! これ、地味に足の親指だけで立たされてるんですよっ!」

「姐さん容赦ねえなぁ」

「はい、お待たせー。ザマンくんは大人しくなったかしら?」

「それどころか泣きが入ってるんだが……」

「あ、ギルド長お疲れ様です。……ザマンさんも」

「なんでちょっと嫌そうな顔!?」


 ようやくナンに魔法を解いてもらったザマンだったが、ソファに座っている今も膝の内側がぴくぴくと痙攣している。


「酷い目にあった」

「なんかねぇ、いじりたくなるのよねぇ」

「まぁ、分からなくはないが」

「私なら届きそうで届かない位置に放置しますが」

「鬼か」


 ザマンをいじりつつヴェゴーが懐から書類を出した。数ページの冊子になっているそれの表紙には、“SS級クエスト【死霊王討伐】計画書”と書かれている。


「来がけにちょっと考えてみた。とりあえず3人ずつの2パーティでいくつもりだ。組み合わせはまだ仮な」


 そう言って見せた組み合わせ表には

【Aチーム】

ヴェゴー(前衛)

かんちゃん(中衛)

ザマン(斥候)

【Bチーム】

ナン(後衛)

シーダ(中衛)

グレイ(特攻)


 と書かれていた。


「えー……」

「え、なにちょっとかんちゃん、不満!? ヴェゴーさんと一緒なのが不満!?」

「いえ、ザマンさんが」

「ごふっ!」

「はしゃいで撃沈とはオイシイな、ザマン」

「ねえ、私二人のこと知らないけど、大丈夫なのかしら?」

「ああ、心配ねえよ。特攻は文字通り特攻だから、突っ込ませてもろとも吹き飛ばしちまえ」

「シーダさんは?」

「シーダ嬢は」


 その時、店の扉に付いたベルが来客をカラコロと知らせた。


「ごめんくーださいっ。こちらにギルド長さんいらっさいまーすかっ」

「……今から会わせるよ」

ようやくシーダ嬢登場!


これからも応援よろしくお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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