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010 かんちゃんはコディラの歴史を習います

「……」

「うわ、広いですね」

「……どういうことかしらね」


 ヴェゴー達三人は、カタコンベの地下へ降りた。地上は瓦礫で管理棟までの道が塞がっているため、下から辿り着いて登ろうという作戦である。

 地上でゴブリンの集団を撃退した一行は、さて地下には何があるのかとほくほくしながら降りたのだが。


「……何もなさすぎる」

「ここ、なんの部屋だったんですかね」

「死体安置所よ。王の側近達が王に寄り添って殉死するの。当時は主にトリカブトなんかを煎じて呑んでたみたいね」

「以前来た時は石棺がずらっと並んでてな。割と壮観な眺めだったんだが……」

「空っぽねぇ……」

「石棺すらないって、どういうことなんでしょう」

「丸ごと持っていった、のか……?」

「それ意味ある?」

「知らねえよ。でもそれくらいしか思いつかねえだろ」

「そうねぇ。ま、ここで足止めするわけにも行かないし、先に進みましょうか。何が出てくる気配もないしね」


 三人はのんびりと、それでも周囲を警戒しつつ先に進む。

 と、かんちゃんがぽそっと呟いた。


「……でも、なんでこんなヤカラ街の真ん中に、王族の墓所なんて」

「まぁ、最初はこんな街じゃなかったらしいからな。元々このコディラは、城下町だったってのは知ってるだろ?」

「ええ、でも千年も前の話ですよね」

「だな。その頃は国で一番栄えた大都市だったそうだ。だが千年前、共和制を求めるクーデターが起きて、王国は無くなった。王は追放され、城は解体された」

「はい。それは学校で習いました」

「じゃ、その先は?」

「え?」


 ナンの問いに、かんちゃんが答えられないでいると、ヴェゴーが休憩を提案した。


「少し休憩しよう。話もちょこっと長くなりそうだ」


 三人は車座になると、ナンが紅茶を入れてくれた。

 かんちゃんのは勿論、ダダ甘である。

 しばしのティータイムを楽しみつつ、ヴェゴーが続けた。


「答えは“何も出来てない”だ。王は倒されて国は解体したが、その後共和国が出来ることはなかった。なぁ、かんちゃん」

「はい」

「今の国、ダーマ共和国は、いつ出来たか知ってるか?」

「たしか……150年前、でしたっけ」

「そうだ。今年は建国150周年祭なんかもやるよな。……その間、この土地には国が存在しなかったってのは知ってるか?」

「え……」


 かんちゃんは絶句した。


「これ、学校じゃやらねえんだよなぁ」

「ま、自国史じゃなくなっちゃうからねぇ」

「どういうこと、ですか?」


 地下のなにもない空間に、かんちゃんの声が小さく響く。


「王国が倒れてから、ずっとね。色んな国の植民地だったから」

「そんな……」

「ま、今の共和国にとっては忘れたい過去だしね。今は他の国との交流もほとんどないし、知らない方が幸せ、みたいな酷い状況だったみたいだけれどね」

「で、まぁ150年前に、共和制を敷いて、晴れてダーマ王国はダーマ共和国になるわけだ。……各ギルド主導でな」

「木工ギルドなんかの職人系ギルドは、植民地の頃からあったのよ。そのギルドが手を組んで、独立宣言をしたのが200年前」

「それから独立までに50年かかってる。その内訳はお察しだ。……そして、このコディラは、共和国が出来る時、国から(・・・)見捨て(・・・)られた(・・・)んだ」

「え……」


 かんちゃんは信じられない、という顔でヴェゴーを見た。


「なんで、て思うだろ? ……答えは、この街が王国の象徴だったからだ」

「正確にはここ、中央墓所がね。コディラの街は元々、墓所の墓守や、王族の近親者が住む、城下町の中でも特に重要な街だったのよ」

「城下町になっていたのは4つの街だ。コディラ、キョセ、ムザスイ、ガーネイ。それぞれの街にギルドがある。ちなみに、この国の中で、こんな狭い地域に4つも冒険者ギルドがあるのは、このあたりだけなんだ」

「自治のためにね。このあたりは、警察も軍もないから……」

「王政が崩れて無政府状態、800年待ってようやく国が出来ても無法地帯。まぁ、グレるのも分からなくはないわな」


 ヴェゴーは軽くため息をつき、モクを咥えた。


「つまりね。ヤカラ街の真ん中に王族の墓所があるんじゃなくて、墓所があったから結果、ヤカラ街になっちゃったわけ。長々と話したけれど、ぜーんぶご先祖様のお話よ。今を生きる我々若人は、今ある現実を受け入れて、なんとかしていくしかないわけよ」

「……若人?」

「なにか」

「……いいえ」


 一部ツッコミたくなったヴェゴーだが、ナンの一睨みですごすごと引き下がった。


「……さて、そろそろ行くか」

「あ、はい。……あの、ギルド長」

「んー?」

「もしかして、うちのギルドが潰れない理由って……」

「ん、まぁ他にもあるけどな。かんちゃんの考えは多分間違ってねえよ。集まってくる行き場のない馬鹿共の監視と、古き良き(・・・・)過去の産物のお守りだ」

「この10年で、やっと半分くらいはまともな人が集まってきたしねぇ。もうしばらくはなんだかんだ、潰れちゃ困るのよね、協会本部としても」


 身支度がすみ、三人は再び歩き出した。上への階段は既に見えている。

 いるのだが。


「なぁ姐さん」

「……何かしら」

「あの階段のとこ、なんかいるな」

「いるわねぇ」

「あれ、ゴーレムですよね」

「動きがカクカクしてるしな」


 階段の下には、身長3メートル程の巨大な人形の影があった。ランタンの範囲外なので詳しくは良く見えないが、大きさとしてはオークや竜人などの大型亜人くらいある。

 だがその動きは、まるで操り人形のように不自然で、直線的だった。


 やがてランタンの光がゴーレムに届く。

 そこにいたのは、古の神をモチーフにした、金属のゴーレムであった。


「なんか……硬そう」

「パーツごとに色々混ざってんな。……あれが番人ってことになるのか?」

「ぽいわねぇ。タイマンになるけど、こちらはどうするの?」

「付き合ってやる義理はねえな。一気に畳み込んでさっさと上に行こうぜ」

「あら、意外。旦那なら喜んでバチバチ殴り合うかと思ったのに」

「ギルド長、そんな武闘派だったんですか?」

「やらねえよ。今はそんな暇はねえし」

「あったらやるのね……」

「あったらやるんですね……」


 言いつつも、二人の魔道士は戦闘の準備をする。

 が、ヴェゴーがそれを止めた。


「ちょっと待て、……あいつなんか誘ってねえか?」


 見るとゴーレムの横にはテーブルがあり、そこに右の肘を置いている。そして首をこちらに向け、左の掌を上に向け、ちょいちょいと手招きをしていた。


「……あんにゃろ」

「なんですか、あれ?」

「あれよ、力自慢の冒険者が酔うとやりたくなっちゃうやつ。馬鹿よねぇ」

「……腕相撲? でもあれ、鉄のゴーレムですよ?」

「そうよねぇ。どうするの、旦那……あ」

「なぁ、勝ったら上に行くってことでいいのか? いいの? よぉし、じゃあやろうじゃねえか」

「早速交渉してますけど」

「つまるところ、旦那も馬鹿ってことなのよねぇ……」


 ほくほくしながらテーブルに向かうヴェゴーを眺めながら、ナンはやれやれと苦笑していた。

次回、ヴェゴーの鉄腕が炸裂、するか!?


これからも応援よろしくお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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