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3/3

3,盗難被害

 

 盗まれた物がひとつだけある。


 アーサーウィルは自分の荷物をあらためた結果、そう告げた。


 テレポトの杖。


 勇者パーティーにのみ与えられる、世界で限定4本しかない便利アイテムだ。


 杖は手にして使うと、パーティー全員で瞬時に一度訪れたことのある場所に移動できる。魔力の消費もなく無制限にだ。時間短縮、経費削減、体力温存と、いいことづくめの逸品といえる。


「絶対に、そこにあったんだな」


「間違いない」


 念を押す俺に、アーサーウィルはチェストの中の物を全部出し尽くして、自信をもって言い切った。


 杖とはいうものの【テレポトの杖】は大きめのペンくらいのサイズしかないアイテムだ。どこかに紛れているだけの場合も否定できなかった。


 結果、床には色々なアイテムが投げ出され散乱している。


 中には見覚えがある物もあった。アーサーウィルが冒険者になったばかりの頃に装備していた【青銅の剣】だ。こんなもの、いまだに捨てきれずに持っていたんだな。


 俺の初装備の【ダガー】なんて、次に【シミター】に持ちかえたときの資金に売ってしまったが。


 そうかと思えば、そっちに落ちているのは1瓶で3万ゴルドルする【プレミアム・エリクサー】じゃないか。しかも、シスフォレシア王国建国500年記念パッケージ版だ。


 昔から整理のできない男だったが、こうしてひっくり返して出てくると薬草や茸、魔物の革なんかのナマモノから貴金属、宝石類まで何でも気にせず、ある意味分け隔てなく詰め込んであったのが分かって飽きれさせてくれる。


「他に無くなったものは?」


「何も。金貨ですら揃っている。28万ゴルドルあるのに、少しも手をつけられていない」


 28万も所持金があるのに、たかが5~10ゴルドルに過ぎないこの近辺での宿代をケチっていたのか。


 まあそういう節約が馬鹿にならないのも事実だが。


 無くなっている【テレポトの杖】は正真正銘の稀少品で価値あるアイテムだが、これは値段がつけられなく商店では売りさばくわけにいかないブツでもある。


「少なくとも金が目あてじゃないってことははっきりしてるな」


「犯人の目的は【テレポトの杖】を手にいれることだった?」


 アーサーウィルが、彼にしてはまともな思考を口にした。


 犯人の狙いは勇者の殺害ではなく、勇者のアイテムを入手することにあったかもしれない。


 他にも価値のある物が少なからずそこにある状況で【テレポトの杖】だけが奪われている。


 普通に考えたならばアーサーウィル殺害が主目的で、杖を盗んだことはついでだったとはならない。


 杖のみか、あるいは杖と殺しの両方が目的だったと推測するのが自然だろう。


「可能性はあるな。だが仲間の誰かなら【テレポトの杖】をアーサーウィルに貸してくれと頼むだけでもよかったんじゃないか」


「そうだな。たしかに貸すけどな。なんでだろう……秘密で使いたい理由でもあったのかなあ」


「それになぜ犯人は殺しをする必要があった? 杖が目的ならアーサーウィルが寝ているあいだに盗むだけでもできたと思わないか」


「そうだな。僕は一度寝たら朝まで絶対に起きないもんな」


 アーサーウィルは首を捻る。


 こいつは昔から異常に寝つきがよく、ベッドに入った途端にすぐさま就寝するし、朝がきたらパッと起きる。


 本人からすると睡眠している時間というのはいつの間にかサラッと終わっている感覚だそうだ。なんとなく短くて優しげなメロディを聞いていたくらいの。


「いずれにしても犯人は勇者パーティーにかかわりのある者と考えていいだろうな」


 犯行現場の状況が、犯人をアーサーウィルのパーティーメンバーか、かつてのパーティーメンバーに絞らせている。


 もちろん勇者パーティーの不和を狙った者の仕業という可能性を捨てるわけにもいかない。そのためにパーティー内の誰かでなければ勇者殺しができない状況をつくりだしたのだ。


 だとしたら一見、パーティーメンバーにしか殺人ができなかったと思わせるこの状態を突き崩す何かを見つけ出さねばならないが。


 まずはパーティーの連中を当たるのが妥当だし順当だ。


 人数は多くはない。


 現在の勇者パーティーは、勇者アーサーウィルの他は【聖女】【剣聖】【賢者】の3名。過去の仲間は【魔術師】と【盗賊】だ。


 この中の誰かが、少なくとも犯行に関係している。


 犯人かもしれないし、犯行にグローイングベリー号の暗証番号を教えたかもしれない。


 考え難いことだが、アーサーウィルが考えておくべき可能性として勇者殺害とアイテムの盗難は別人によるものという線も捨てられない。


「それで、お仲間は今どこにいる?」


「四天王を倒したあと、僕らは2ヶ月の休暇をとることにしたんだ。パーティーも今は解散している。みんなはそれぞれ別々のところにいるよ」


「ふん。面倒だがひとりずつ会いに行くしかないな。盗賊ギルドに情報料を払えば、ある程度は足どりが掴めるだろう」


 ギルドの情報網は伊達じゃない。


 必要に応じてゴルドルさえ積めば、たいていの人間の居場所を教えてくれる。


「いったい誰が僕を殺したんだ?」


 チェストの中身を片付けながら勇者が自問する。


 だがしかし、シリアスな顔で【炎の投げ槍】と【消えずのランタン】を無造作に同じところに押し込むのはやめようか。火事になるやつだそれ。


「確かめればわかる。全員に質問することだ。アーサーウィルを殺さなかったか。あるいは誰かに、グローイングベリー号の暗証番号を教えたことがないかを」


「そうか、絶対に仲間に殺されたとは限らないんだよね」


 アーサーウィルの顔が明るくなる。


 あい変わらず、お人好しなやつだ。だから勇者の資質があったのかもしれないが。


「だとしても番号を漏らした時点で裏切りともとれる」


「う、うん……だよね」


「アーサーウィル、ひとつ聞いていいか」


「なんだい?」


「自分を殺したやつを見つけてどうする。そいつのことを殺すのか?」


 勇者は静かに首を横に振る。


「いや。そんなことはしないよ。ただ知りたいんだ……どうして僕は殺されないといけなかったのか。何が目的なのかを」


「……いずれは分かるだろう。ここにいても仕方がない。会いに行こうじゃないか。容疑者たちに」


「うん。そうだね」


「まずはあいつだ。近くに【魔術師】がいる」


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