俺をイカせたのはバナナかよ!?~ミッションは異世界救済?生き返りをかけ転生します~
俺をイカせたのはバナナかよ!?~ミッションは異世界救済?生き返りをかけ転生します~3(完結編)
前回のあらすじ
突如舞い込んだ魔王討伐のチャンス。果たしてミッションの行方は?
詳しくは作者ページより1話,2話をご覧ください
誰一人、言葉を発する者は居ない。自分達の置かれた状況にただ呆然とするしかなかった。俺一人を除いて。
俺達が飛ばされた場所は薄暗い通路。壁に灯るろうそくの火以外に頼る物は無い。そして目の前には自分の倍以上もある扉がそびえている。
ーー魔王城最深部ーー
間違い無く扉の先には魔王が居るはずだ。引き返したとしてもここは最深部。言わば敵の本拠地であり、モンスターの質も数もこれまでの比では無いだろう。到底脱出できるとは思えない。進むも地獄、引くも地獄なのだ。
三人とも項垂れ、立ち上がる事も出来ないでいる。そんな空気の中、なんとかクリスが口を開いた。
「ごめん……なさい……ちゃんと、私がもっと、ちゃんと止めていれば……」
ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。こんなときどう言葉をかければ良いのか分からない。クリスのせいで無いことは明らかなのだが。ただチームワークのために肯定しても否定してもいけない気がする。ここは話題を逸らす意味も込めサクッと本題を切り出した方が良いと判断した。
「とりあえず聞いてくれ、皆。俺はこのまま魔王に挑もうと思う」
一斉に視線が集まる。さすがに驚いた様子だ。
「正気か、B.N.N? 相手は魔王だぞ!」
「そうさ。まだ引き返して手下共を攻略して脱出する方が現実的だよ、B.N.N!」
「やめて、B.N.N! 死んじゃうわ!」
俺はクスクスと笑って見せる。
「良かった。誰も諦めてはいないな。この状況でも人の心配ができるし、何より元気もありそうで安心した」
再び皆は言葉を失う。しかし、顔を見合わせると誰からともなく笑いが起こった。
「不思議だな!絶望してたはずなのに、死にたくも無いときた!」
ジョニーも豪快に笑う。
「あぁ、どう足掻いても無茶なのに、それでも生きる道を探していた」
マイケルもニヤリと笑う。
「うん。生きて帰ろう! どうせ無茶なら、最後までやれる事しよう!」
クリスも満面の笑みで答える。
三人は立ち上がり、それぞれアイテムの確認や装備の手入れを始めた。立ち直ってくれて良かったと心から思う。これで良い。自分が巻き込んだ三人を死なせられない。みんなの姿を見て俺はある決心をし、そっとあのチケットを使った。
準備も整い、俺は改めて魔王討伐を進言する。最初とは違い、みんなも冷静に話しを聞いてくれたので助かった。
まず脱出する場合、逃げ場の無い空間で長期戦になることに加えて城内の作りも分からず無駄な労力が生じる可能性を指摘する。そして魔王一人なら必ず何とかなる事も伝えた。
手持ちのアイテムや食料から、先の見え無い出口探しより魔王に集中して使った方が良いのも確かだ。
みんな最後は俺の提案に乗ってくれた。これで全てが終わる。さぁ、ラストバトルと行こう。
四人で扉に力を入れる。ギギギと鈍い音を立て開かれて行く。警戒しつつ中に入ると薄暗い部屋にそれは居た。
再び扉が閉まり、真っ暗になろうとも、圧倒的な存在感とプレッシャーは隠せない。
「魔王……」
絞り出した言葉に反応するように部屋全体に明かりが灯る。
「っ!!」
「……!!」
「うっ……」
三人も息を呑んだ。目の前に現れたのはこの世界を脅かす魔王。まず3メートルはあろう巨体に足が竦む。その姿は絢爛なマントに身を包み、手には装飾鞘の大剣。黄金の鎧を纏い、ミノタウロスの頭蓋のような面を被った……
「……意外と派手やね」
三人は静かに頷く。何かイメージと違うよね。
「ふん。俗物に我の高尚な美意識を理解出来るとは思っておらぬ」
あ、聞こえていた。
「しかし、よくぞ参った。人間なんぞ揃いも揃って牛飼いに身を落とした連中ばかりだと思っておったが、そうでも無かったと言うことか。どれ、遊んでやろう。来い。」
ここからはおふざけ無しの真剣勝負だ。
「クリス! よろしく!」
「はい!」
俺の合図で全員にクリスの防御強化魔法が付与される。マイケルがクリスの護衛に入り、俺とジョニーが同時に突っ込む。
スラリと剣を抜いた魔王は、すかさずジョニーに一閃。ジョニーもそれを予期して盾とランスをガシリと構える。しかしガチンと言う金属同士の衝撃音と共にジョニーの体は弾き飛ばされ、そのまま壁へと激突した。
「がはっ!」
ズルリと床に倒れ込むジョニー。だが心配している暇は無い。攻撃の隙を狙い、剣を突き出す。タイミングはバッチりなはずだ。
が、その攻撃も片手一つで掴まれ、ブンと床目掛け投げ付けられてしまう。
「ジョニー! B.N.N!」
クリスの不安そうな声。俺は衝撃に備えたのだが、咄嗟にマイケルがガードに入ってくれた。それでも二人して結構吹っ飛ばされたと思う。
「あ、ありがとうマイケル。助かった」
「ああ、無事で良かったよ。っと、ジョニー!」
マイケルの呼びかけにジョニーは手挙げた。
「な、何とか生きてる……。防御強化が無けりゃヤバかったぜ」
「待って、動かないでね」
クリスの魔法でジョニーの治癒が始まる。その間にマイケルと急ぎ、情報の共有を行った。
「マズいな。思った以上に一撃が重い。リカバリーの早さも厄介だよ」
「よもやダメージを与える以前の問題か。で、当たればどうだ?」
「いや、俺の攻撃を受け止めた手も、かすり傷すら付いていない。こう言う場合弱点があって、そこを狙わないとダメージは与えられないと思うよ」
回復を終えた二人も合流し魔王に向き合う。マイケルが二人に今の話しを伝えてくれる。ジョニーはやれやれと溜め息をつき切り出す。
「俺の防御力でもあの有様だぞ。出来るだけ踏ん張るが、弱点見つけるまで持ち堪えられるか分からないぜ?」
確かにジョニーの防御がギリギリなのは痛い。当初の予定ではジョニーが魔王の攻撃をいなしつつ、俺とマイケルが交代でダメージを与え、クリスは回復に専念すると言う方向だったのだが。
仕方ない。茶番は終わりにしよう。
「なぁ、みんな。これから俺の言う通りにしてくれないか?考えがある……」
みんなは一瞬戸惑うが、クリスは何かを感じてくれたらしい。
「分かった。気を付けて……」
マイケルとジョニーも頷いてくれた。俺も三人に頷き返す。みんなを背に魔王へ向け歩き出した。
「ようやくか。待ったぞ、俗物」
律儀にありがとうさん。よほど余裕と見える。今からその鼻っ柱をへし折ってやるから覚悟しな。
「なぁ、マイケル、ジョニー、クリス……実は俺……」
ボウっと体から火が灯る。熱くはない。
「本当の名前があるんだ。氷上英雄、覚えておいてくれ!」
後ろで三人が慌てて駆け寄る音がする。火はどんどん大きくなり全身を包む。
魔王も危険を察して動き出した。もう遅いよ!
ありがとう。短い間だったけど楽しかった。ダンジョン攻略に必死だったのもあるけど、もっと色々話しをしておけば良かったな……もっと一緒に冒険したかったな……。でも俺はここまでだ。三人は絶対に護る!
「照準、魔王……!」
自分の躰が爆ぜる。リンクするように目前に迫った魔王も粉々になっていく。
消え行く意識の中、最後に願った。
さよなら また いつか 会えると良いな……
こうして俺、氷上英雄の異世界を巡る旅は終わった
『もうちょっと続くんじゃよ!』
お読みいただきありがとうございます
最後にエピローグもありますので、よろしくお願いします