干渉
「えっ…?」
俺は戸惑った。
また閻魔の時のように、首を思いっきり絞められるのではないのか。
もしかしたら今度こそ意識が無くなってしまうのではないか。
もし霊界で意識が無くなったらどうなるんだ?
80年間の刑の後にやってくる自由な時間。やり直すための時間。そのチャンスすらも無くなってしまうのではないか。
色々な考えが、俺の頭をよぎった。
「あ、今なら言っても大丈夫です。認識阻害がかかっているので、言ったら首が絞められるみたいなことはないはずです。」
ん?
なぜキヨは知ってるんだ?
その事は誰にも言ってないはずだが…
「何でお前が知っているん…
「いいから答えて下さい」
被せ気味にキヨが言った。
また首を絞められるのではという恐怖もあったが、意を決して俺は言った。
結局俺は自分の死因を言い切ることができた。
俺は今のこの状況を全く飲み込めずにいたが、それを察したかのようにキヨが口を開いた。
「えーと、とりあえず私はあなたにいくつか伝えなくてはいけないことがあります。まず私は、本来は獄卒ではありません。あなたを監視するために獄卒を希望しました。」
キヨは一息ついて二の句を継いだ。
「あなたが亡くなるころ、現世とも冥界とも違う異世界が、現世へ干渉したことが確認されました。私が所属する団体は、現世と冥界の監視が主な仕事なのですが、異世界干渉が発生した時間だけ現世の監視ができない状態になってしまったのです。」
「じゃあ、俺が死んだのは、その異世界干渉が原因だというのか?」
「多分そうです。そして団体は、あなたが異世界干渉の鍵を握っていると考え、監視役として私を冥界に送りました。」
「どうして異世界とやらは俺を殺したんだ?」
「それは現在調査中です。」
キヨの話を聞けば、少しは疑問が解消されるかと思ったが、むしろ増えてしまった気がする。
「そしてもう一つ、これもあなたが何らかの形で関係しているであろうことがあります。」
「…まだあるのか。」
死んで、周りの環境がガラリと変わっただけでもパニックなのに、その上、数々の不可解な現象を俺のせいだと言われるのは耐えられない。
地獄初日からハードすぎるぜ。
キヨはしばらく間を溜めてから、静かに言葉を発した。
「『霊魂均衡課』が、異世界干渉の前後で、この世界の霊魂の総数が5体減っていることを確認しました。」
キヨが何の事を言っているのか、いまいち分からなかった。
「…それがどうした。」
「これは天地開闢以来の一大事なんです!」
突然キヨが声を張り上げたので、俺は一瞬驚いた。
「霊魂が現世から冥界に迷い込んだり冥界の霊魂が勝手に現界するというのはよくあることです。それでも必ず、現世と冥界にいる霊魂の合計は一定でした。しかし今回は、霊魂がポツリと消えてしまったのです!まるで神隠しのように!」
キヨは畏れというものを顔で分かりやすく表現していた。
目や口、瞳孔など、色々なものが大きく開いていた。
「霊魂は、普段から互いに影響しあって存在しています。とりあえず今は、霊魂が現世と冥界を行き来できないようにしていますが、今後残された霊魂がこの世界にどのような影響を及ぼすかは、私達の力では想像すらできません。」
「行き来できないようにするとかできるのか?」
「『照間』って覚えてますか?亡くなった後に送られた、虹色のモヤがかかった空間です。そこは『照間管理課』が管理しているのですが、霊魂が現世で意識を失ってから照間で意識を得るまでに、霊魂は『霊魂箱』に預けられます。とりあえず失われた霊魂を取り戻すまでは、霊魂は霊魂箱に待機してもらうことになります。」
固有名詞がかなり多いキヨの説明を、頭をフル回転させ必死に理解しようとしたら、俺はある一つの例えにたどり着いた。
「あれかな。漏電遮断機みたいな感じなのかな。」
俺はちょっと上手い例えをしたつもりだったのだが、キヨは小さく口を開けキョトンとしている。
「なんですか、その例えは?」
あ~~~。この例えは失敗だったか~。
「そんなくだらないボケをしてる場合ではないんですよ。」
ド直球でくだらないと言われ、俺の心は80のダメージを負った。
今のキヨは気がたっていて、笑うゆとりはないらしい。
「あなたには頼み事、というか命令があります。私達のメンバーに加わって一緒に霊魂さがしの旅に出ましょう。」
命令ということは俺に拒否権はないのか……?