性格
閻魔は、何とも言えない表情で俺を見ていた。というか、表情の変化が乏しすぎて、感情が読めない。
「さて、そろそろ刑の執行を開始させるが、その前に聞きたいことはあるか?」
これは既に執行されているに等しいのではないかというツッコミを必死で堪えつつ、俺は閻魔に訊ねた。
「刑はどれくらいの期間執行されるんだ。」
「お前の場合は約80年だ。」
長すぎっ。
「はぁ?頭おかしいだろ!」
「人間の感覚ではな。冥土の住人は、いつか命が尽きるにしても、その寿命はとてつもなく長い。人間のそれとは比べようがない程だ。80年なんて、これから始まる長い時間に比べたら、生きてる人間の1日にもならない。」
まぁ、そんな答えが返ってくる気はした。
「もう質問はいいか?では本時刻をもって、罪人、村澤健太の刑の執行を開始する。しっかり償ってこい!」
すると獄卒キヨは、どこからか手錠を取り出して俺の手首にかけ、先ほどキヨが出てきたドアへと連れていった。
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キヨが連れてきたドアの先は長い廊下に繋がっており、両サイドには、鉄格子のかかった部屋がズラーッと並んでいた。
部屋の中には、俺のように白装束を着ている男と、キヨのように如何にも悪そうな格好をした獄卒が、二人一組で入っていた。
ところでこの廊下に入った瞬間に、「オラァァァ!」やら「フンッ!フンッ!」やら「アァァン」やら色んな声が聞こえて来たのだが、ここはあれか。一種の養豚所なのか。
キヨは、手錠をもって俺を強引に引っ張り、しばらく廊下を進むと、人が入ってない部屋を見つけた。
「おいゴミ、入れ」
キヨはそう言って、俺の背中を鞭で軽く叩いた。
俺は鉄格子のドアを不安げに開け、ゆっくりと中に入り、続いてキヨも部屋の中に入り、ドアを閉めた。
部屋は6畳位の大きさで、5面をコンクリートで覆われていた。
もちろん、残りの1面は鉄格子だ。
キヨはおもむろに鞭とサングラスを外して、コンクリートの地面に置き、両手を広げて、呪文のようなものを唱え始めた。
すると、透明な青い膜のようなものが部屋をおおうように張り巡らされた。
「認識阻害です。これで周りの人からは、私がちゃんとあなたを指導しているように見られているはずです。」
キヨはそう言いながら、閻魔の前で俺にかけた手錠を外した。
うん。誰だお前。
この部屋には俺とキヨしかいなくて、先の言葉はキヨの口からキヨの声で出たものであったから、キヨが喋ったのだろうが、口調やらトーンやらが最初のものと違いすぎる。
「先ほどは数々のご無礼、申し訳ございませんでした。改めまして、私は今日からあなたの獄卒として担当します、小鬼のキヨです。よろしくお願いします。」
キヨはペコリと一礼した。
あ、今のキヨは普通に可愛い女の子だ。
こりゃギャップ萌えしてまうぞ。
「うーんと、何だ?さっきまでのお前は、悪霊か何かが憑いていたのか?」
「いいえ。どちらも私の意志による行動ですよ。ただ先ほどまでは、獄卒としてのキヨを演じていました。」
「つまり、今のキヨは獄卒以外の、別の何かってことか?」
「はい。具体的に言えば、あなたの監視役です。」
それは、俺の存在が高貴すぎて、ボディーガード的なものとしてキヨがついたんだろうな。
「監視役と言っても、ボディーガード的なものではありませんよ。」
心読まれた!?
「あなたにお伝えすべきことが沢山あるのですが、その前に一つ聞いておかなくてはいけないことがあります。」
「あなたの死因を教えてください。」
「えっ?」
俺は戸惑った。