死因
閻魔から俺の罪の所以を諭され、改めて自分の罪深さを実感したところで、閻魔が口を開いた。
「ところで、貴様の死因は何なんだ?」
「そんな事ぐらい、閻魔ならお見通しなんじゃないのか?」
「普通ならDVDの映像の最後に出てくるはずなのだが、貴様の場合は死ぬ一分程前以降の部分がなくなっているんだ。」
そんなはずは、と言いかけたが、そんなはずがあるかもしれない。確かにあの死に方は変だった。
死ぬ前に首や腰が締め付けられるような感覚になるだけだったらあり得るかもしれないが、実際に千切れてしまうのは不自然だ。
少なからず俺の知る限りで、突然頭や下半身がもげて死んだ人はいない。
ところで俺の死体はどうなっているのだろうか。
交通事故でもないのにバラバラになった死体が、閑静な住宅街に落ちているというのは、何ともえげつない光景だ。
それを目にした人は相当パニックになるだろう。
親だって驚くだろう。
この前まで元気だった息子が、突然バラバラになったなんて。
いや、驚きというより、何がどうなってこうなったのか分からないという恐怖に襲われそうだ。
俺は死因を伝えるために口を開いた。
「見…」えない糸に締め殺された。と言おうとした途端に、急に首が締められるような感覚に襲われた。
「うっ……あ……」
死ぬ前と同じような感覚だ。
「おい貴様、一体どうしたんだ!」
突然苦しそうな表情になった俺に向かって閻魔が問いかけた。
糸による絞首は止んだが、俺の意識は朦朧としていた。
死んでも意識が朦朧とすることあるんだな。
「だ…大丈夫。何でも…ない。死因は…よく覚えてない。」
本能が、死因を誰かに言っては駄目だと伝えてきた。
「まあいい。本人が死因を覚えてないというのはよくあることだ。映像が観られないのも機械の不具合だろう。後で技術課に問い合わせてみるとしよう。」
冥界に技術課なんてあるんだ。
「では、今から早速、刑に服してもらおう。」
「え、刑なんてあるのか!」
「当たり前だろ。何のための審判だ。おいキヨ、出てこい。」
閻魔の呼び掛けで、木製のドアが開き、中から人が1人出てきた。
「お前が今日から俺が担当するクソか。ハッハァァァーッ!見た目からしてゴミくずそうな雰囲気出てんな!どうせ生きてる間は周りから煙たがれる害悪でしかなかったんだろうな!ハァァァ!見ててイライラする!今すぐこの鞭で拷問したいわぁ!」
発言内容や一人称はチャラチャラした男っぽいが、実際はそうではない。
簡潔に言うと、低身長の女の子だ。
髪は短く橙色、サングラスと黒い革ジャンを着ていて、いかにも悪そうな雰囲気を出している。
右手で鞭を持ち、左手にペシペシと叩きつけていた。
「こいつはキヨ。この間入ったばかりの新人獄卒だ。地獄では死人1人につき獄卒1人がつくことになっていて、キヨがお前の専属獄卒だ。」
「ん、あ、よろしく。」
俺がそう言うと、突然キヨが鞭を大きく振りかぶって、俺の背中に鞭を叩きつけつけた。
「ァフン!」
何とも恥ずかしい声が口から出てかた。
「なめとんのかオルァァア!見た目ロリだからって子供扱いすんなボケ!お前よりはよっぽど長く生きて来たんだ!『よろしくお願いします』だろぉ!」
冥土の住人が『生きて来た』というのもおかしいと思いつつも命令に従う。
「よろしくお願いしますぅっぅぅん!」
途中でまた鞭を打ってきた。
「よろしくお願い『致します』だるぉぉお!」
なんだこいつは。
さっきと言ってることが違うと分かってるのか。
こいつ見た目だけじゃなくて精神年齢も小学生、もしくはそれ以下なんじゃないのか。
それはそうと、罵声を浴びせられて、鞭で叩かれて、ここはそういうお店なのかと錯覚してしまう。
「ところで俺はどんな刑に処されるんだ?」
「強姦、強盗、殺人などの重犯罪の場合は、別の部署に送られて、永遠と酷い責め苦を味わうことになるが、貴様はそれほどではないから、獄卒マニュアルに定められた範囲内で、キヨの裁量に任せられる。」
「例えば?」
するとキヨは目を光らせる。
「こんなのとか、こんなのとか、こんなのだ!」
そうか理解した。高速で鞭打ちしたりだとか、亀甲縛りにされて吊るされた状態で鞭打ちされたりだとか、溶けて熱々になったろうそくのろうを背中に垂らしたりだとかか~。
なるほどなるほど。
って絶対おかしいだろ!
完璧にそういう店に寄せにいってるだろ!
というか実際に俺でやるな!俺の背中苛められすぎてもうキャパオーバーよ。
「ハァァァァッ!!気持ちいいぃぃッ!獄卒天職過ぎんだろぉ!」
なんだこいつただのドSか。
こんな獄卒に当たるだなんて、俺死んでからもついてないな。