回想
目を覚ました。
辺り一面に淡い虹色のモヤが広がり、その中に俺は浮いていた。
下に身体は無かった。
しかしこれは斬首されたが故の現象では無いことは直感的に分かった。
多分、今俺の意識を支えているものは、俺の魂だ。
俺は無限空間をさ迷いながら、生前の行いを振り返っていた。
俺の小学生の頃の夢は裁判官だった。
厳正中立な立場から社会に根付く悪を根絶する、そんな姿をカッコイイと思っていた。
しかし夢はあくまで夢で終わった。
中学に上がってから、勉強は疎かになり、ゲームに熱中するようになり、初めは1日1時間のルールを守っていたスマホも、次第に昼夜問わずいじるようになった。
トイレでも食事中でも。
中3になり、裁判官になるという夢は頭の中からすっかり消え去っていた。
代わりに、人気になって金を儲けたいという欲が出て来た。
作曲をしたり、プログラムでゲームを作ったり、絵を描いたりし、それらをネット上に上げてみたが、反応は皆無だった。
ネットで有名になった人はただ運が良かっただけだと自分の無能さから逃げ、またゲームに走った。
そうして遂に高校デビュー。
本音を言えば高校行かずに引きこもっていたかったが、親が高校行かなきゃ後悔するよとうるさかったのでとりあえず受験はし、偏差値52の高校に合格した。
いったん高校に入っちゃえばあとはラクショー。
ほとんど毎日ゲーセン通い。
カラオケも週一のペースで行き、その金は全て親にねだった。
そんな自堕落生活を送り、辿り着いたゴールが高一留年。
留年が俺を更に助長させ、最終形態引きニートへと俺は進化した。
その頃俺はあるゲームのランキングバトルで、無課金で世界ランク97位を獲得していた。
1年後、案の定高校から除籍処分を受け、心置きなくゲームに専念できると思っていたが、丁度その頃アップデートによって課金勢に優しい仕様となり、340位まで転落し、そのゲームから卒業した。
ある夏の日、18歳になった次の日、親が俺の部屋に入ってきた。
このままずっと私達と一緒、いや私達に扶養されて暮らして行ったらあなたはホントに駄目になる。あなたは独り暮らしするべき。
と無責任な言葉をかけられ、その1週間後、実家の近くにある都内のボロアパートで独り暮らしを始めた。
独り暮らしといっても定職にはつかず、アルバイトと親の仕送りで一日一日をしのいでいた。
段々アルバイトも面倒くさくなり、結局は親の仕送りだけで生活することになった。
そして今日、三日後が毎月の仕送り日で金欠だったので、コンビニに寄るついでに親の所に行って、追加の金をせびるつもりだった。
中々クズい人生送ってたんだな、俺。
親の期待に背き、努力もせず、不精で怠け者で金遣いは荒い。
我ながら情ねぇや。
あぁ、胸が痛い。
ことわざとかではなく本当に痛い。
まるで心臓が千切れるようだ。
これも天罰なのだろうな。
俺はもう戻らない過去を悔いた。
行き場のない感情は塩水に変わり、目から水晶のように流れ落ちた。
俺の魂はだんだん薄れていき、最後は消えた。