石工とチョコレート
――雪山の中にそびえていたのは、見事な白亜の城だった。
なるほど、観光名所というのもうなずける。素晴らしい史跡だ。
「おや? あの壁の所に、何か像のようなものが備え付けられているけど」
私の問いに、案内を買って出てくれた地元の友達は、ああ、とうなずいた。
「あれはこの城を造った石工の像だよ」
「へえ。何でまたそんなのが」
「あの石工は、優秀なんだけど甘いモノに何より目がなくてね。
あるとき、城を組み上げる石材が足りないことに気が付いて、自分で作って溜め込んでいたホワイトチョコレートを使うことにしたんだ。王様に内緒で。
……ほら、白亜とホワイトチョコなら、見た目似たようなもんだろ?」
「そうか?……そうかな」
「取り敢えずはそれで、王様にバレることもなくお城は完成したんだけど、何せチョコだろ?
雨で溶けたりしないか、アリにたかられたりしてないか、とにかく心配でたまらない石工は、年がら年中、チョコの壁に気を回すことになった。
もちろんそこばっかり気にしていたんじゃ秘密がバレてしまうから、他の壁も見回りながらだ。
それは端から見れば、城のことを誰よりも気に掛ける、素晴らしい勤労ぶりに映った」
「まあ、事情を知らなきゃなあ」
「その話は、もちろん王様の耳にも入った。王様もその働きぶりにいたく感心して、石工を大層褒めたたえた。褒美も与えた。
そんなわけで、石工も王様にさらに恩を感じるようになって、ますます秘密を守る必要に迫られた」
「……なんか、皮肉だな」
「しかしあるとき、隣国と戦争が起こって、城がすっかり包囲された。
しばらく堪え忍べば助けも来るだろうが、何より王様が疲労で元気がなくなっていた。
それで見かねた石工は、そんなときは甘いモノだと、ついに城の壁の一部がチョコであることを明かし、切り取って王様に献上した。恩義ある王様のためにと」
「結果、戦に勝ち、お咎めもなかった――と」
「……まさか。真逆だよ」
友人は、したり顔でうなずいた私をせせら笑った。
「怒り狂った王様は、石工を処刑してしまった。戦にも負けた」
「なんでまた。
……あ、もしかして、チョコの壁を切り取ったから、城が大崩壊したとか……」
「それならこんな史跡が残ってるわけないだろ?」
「……じゃあなんで」
「マズかったんだよ、単純に。
王様も大層甘いモノ好きでね、石工の語る美談に心躍らせ、それはさぞかし美味いものに違いないと期待に胸を膨らませていたら、出てきたのはびっくりするほどクソマズいチョコレートだったわけだ。
――ふざけるな、って話だ」
「……で、後世、あんな像が造られたわけか?」
「そうだよ。まあ、色んな学びがありそうな失敗談の象徴としてね」
得意げに語る友人を見ながら私は、まあ、チョコを野ざらしにし続けるのはやっぱり良くないよな、などと考えていた。
それぐらいの結論で済ませないと、何だかやるせなかったからだ。