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11話:少年は国を変える

 斧の騎士との戦闘が終わったころにはみんなも騎士たちとの戦闘が終わったようだった。ひどく憎しみに溢れた顔をしているエイジ、そして、なぜか裸同然の格好でいるシレリア。


「……シレリアって露出狂?」


「ふざけているのか、レイト」


 俺は上に着ている制服のブレザーを脱いでシレリアの方へ投げる。横の壁に旗が立てかけられているのを見るとそれを剥がして再びシレリアの方へ投げる。


「それでなんとかならないか?」


「ああ、なんとかしてみるが……」


 エイジがずっとシレリアの方を見ている。


「俺は女性の裸を目に焼き付け――」


 言い終わる前にシレリアのパンチがエイジの頬に直撃する。壁に打ち付けられたエイジは気絶した。当然、その状況をサリィが見逃すわけもなく。


「ちょっと、あんた。拙者のエイジ様に何するのよ!」


「元はと言えばあのバカのせいだろう!」


「あんたがエロい体してるのが悪いのよ!」


「なっ、エロ……!」


 歳が十歳以上離れた相手との口喧嘩にシレリアが押されている。そういえば、女性の裸ってみたことな――。


「どうした、レイトもあいつのようになりたいか?」


「……すいませんでした」


「ならあっちを見ていろ!」


 俺は慌てて後ろを向く。それから一分ほど経過した。


「――もういいぞ」


 そう言われてシレリアを見ると、ブレザーの開いた部分から出る白い肌で大きな抑えきれない大きな胸、赤の旗でスカート代わりにされた服装はなんか……エロい。そして、ずっと壁にもたれかかって倒れていたエイジが目を覚ました。真っ先にエイジ愛好家のサリィが駆け付ける。


「エイジ様!」


「うっ、なんか戦った後のことが思い出せない」


「エイジ様、あんな奴のことなんか忘れてしまっていいんですよ。あんな肉ばかりでだらしない裸より、拙者の裸の方がいいですよね!」


「え、裸? 何の話だ?」


 エイジは壁にもたれかかったまま数秒考え込んだ。そして、取った行動は、


「うん、サリィがあと七年くらいして気持ちが変わらなかったらだな」


 と、サリィの頭を優しく撫でた。サリィはよほど残念だったのか灰になったように固まっている。


「あ、そうだ、こんなところでのんびりしている場合じゃない。大臣たちを追いかけないと!」


「ああ、それならナタリスが念のために地下通路で待ち伏せしてもらっているが、大臣たちはどこに逃げたんだ?」


 地下通路と、答えようとした時、その地下通路から人影が現れる。どうやらシレリアの読みは当たったらしい、地下通路に続く階段から現れたのはセステスと大臣の首元を掴んで引きずって来たナタリスだ。


「先輩、国王セステスと大臣ダースを連れて参りました」


 ナタリスが広々とした白い床に大臣たちを投げつける。レクスもちょうど戻ってきた。


「レクス、兵は?」


「レイト殿か、兵は全員気絶させておいた。無駄な殺しはしない主義だからな」


 レクスのいた方もサリィのいた方も倒れた兵で大きな山が出来ていた。


「さあ、貴様らには色々と聞きたいことがある」


「いいだろう、だが、お前たちには私が殺せないだろう。もし、私が死ねば私の仲間がお前たちの家族を殺しに行くんだからな!」


 大臣は勝ち誇ったような顔で座っている。セステスも大臣がいるから安心だという顔をしている。


「大臣、なぜお前はこの国にやってきた」


 シレリアが質問をする。大臣は表情一つ変えず、


「この国に我が国の傘下に置くというグラッド帝国の皇帝、クラネスト様の考えだ」


 一同は声には出していないが深刻な事実に息を吞む。


「では、なぜ前国王陛下は殺してサイカ様は生かしておいた」


「その女の姉、だったか。行方不明になったと世間では公表されているが、実はある国に――」


 シレリアがあることに気づき、言い終わる前に大臣の顔に殴りかかる。


「余計なことは言わなくていい。では、次が最後の質問だ、セステス、なぜ前国王陛下を殺して国王の座を奪った!」


 それまで黙っていたセステスはニヤリと笑った。


「一度、国王になってみたかったんだよ。あの席から国民全員を見下してみたいじゃないか、だから思わず殺しちゃったんだよ!」


 こいつ、狂ってやがる。思っていることはみんな同じだ。それと同時に許せないという気持ちが心の奥から溢れ出してくる。こいつのお遊びのせいで何人の人たちが苦しんだと思ってるんだ! シレリアはゆっくりと国王に近づいていくが、


「おおっと、いいのか? 私たちを殺せばお前の家族はどうなると思ってるんだあ?」


「くっ……」


 シレリアは足を止め、唇をかみしめる。俺はこの世界とは何の関係もない。だけど、こんな状況を見逃せるほど俺の心は汚れていない!


「シレリア、ここは俺に任せていてくれ」


「おおっ、いいのか? お前の家族がどうなっても――」


 俺は助走をつけて全力で大臣の顔に殴りかかる。大臣は奥の壁に頭を強打する。


「俺に家族なんていねえよ! 殺せるものなら殺してみろ!」


 大臣は僅かな意識で話す。


「な、ならこいつらの家族がどうなっても……」


「じゃあ、俺が全部守ってやるよ! みんなの家族だってなんだろうと、命を賭けて俺が全て守ってやる!」


 大臣は得意の脅しが使えなくなると知ると、一気に顔を青ざめる。


「わ、私が悪かった。か、金でもなんでもやる! だから、命だけは――」


 俺は大臣を見下し、背中の剣で大臣の首を斬り飛ばす。セステスもひどく怯えている。


「わ、私が死ねば国民全員が敵になるんだぞ、そうなるのは嫌だろう!」


「国民全員いつからお前の味方になったと思ってるんだ。お前に味方するやつなど、この国にはいない!」


 セステスの首も吹き飛び、壁に当たって地面に落ちる。これで、この国の黒幕は全員殺ったか。やはり、殺しても何も感じない。この先、俺はどうなってしまうのだろうか。

 ――翌日、サイカがこの国の女王という形で国王の座に即位した。サイカはスラムの人を思う優しい心で過度な税金も減らして国内は平和になった。

 俺は学校に帰ろうと帰りも馬車に乗せてもらった。その時に、セシリウスからお礼を言われた。


「レイト様、ありがとうございます。サイカ様がやっと普通の子供らしく純粋に笑ってくれるようになったんです」


「い、いや、俺は何も……」


「何をおっしゃっているんですか。あなたがいてくれたからこそこの国は変わることができたんです。本当に感謝します!」


 ああ、人に感謝を言われるのってこんなに嬉しいものなんだな。俺の存在なんてあってもなくても同じものだと思っていた、一人のちっぽけな人間として陰でひっそりと生きていくんだと。だが、今、俺という存在が国を変えることができたんだと。ガタガタと揺れる馬車の中で一人、こっそりと泣いた。

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