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10話:それぞれの戦い

「くくっ、まさか『双竜の騎士』を倒せる日が来るとはな!」


 杖を持った騎士は勝つのが当たり前と言わんばかりの表情で杖をこちらに向ける。


「随分と余裕じゃないか、あまり私を舐めないでほしいな!」


 私は身の丈を超える槍を片手で持って騎士の心臓を狙って突く。しかし、騎士はそれを装飾一つもない杖で槍を止めた。バカな、この槍は国宝武器アトレイルだぞ、一般の杖で受け止められるはずが……。――まさか、あれも国宝武器アトレイル! すぐさま後ろに跳んで距離を取る。あの国宝武器アトレイルが何かわからない以上、迂闊には近づけない。


「おや、もう気付いたようですね。では、私の国宝武器アトレイル、クレセンドの力、見せてあげましょう!」


 騎士が杖を軽く振ると紫の液体が宙に浮く。


「武技、『メルトアクア』!」


 騎士が武技を言うと同時に紫の液体は宙で爆散して辺りに飛び散る。液体が床に落ちた瞬間、見る見るうちに白の床は溶けだして土が露出する。


「ふふふ、これに触れれば間違いなく即死でしょうねえ!」


 射程は短いものの触れれば即死、とても厄介な武技だな。騎士は再び紫の溶解液を宙に出し、爆散させる。回避しようとするがそう何度も回避できるわけもなく鎧の肩部分に溶解液が付着する。皮膚に届くまでには至らなかったが鎧の肩部分が溶け、肌が見える。


「ほほう、私の武技でも溶かしきれないとは、その鎧頑丈ですねえ」


「当たり前だ、これは街一番の鍛冶屋の特注品だからな!」


「それなら、これはどうでしょう!」


 騎士は杖を大きく振ると溶解液の塊が宙に三つ現れる。これは不味いかもしれないな……。私は一つの賭けに出た。足に力を入れ、騎士の懐に全力で飛び込む。即座に槍を心臓に突き刺す。


「ぐっ、だが、これで相打ちにはできますかね! 爆散しろおおおおお!」


 槍を抜いて逃げようとするが騎士は残りの力を振り絞って槍の柄を掴む。急いで手を放し、後ろに跳ぼうとした時にはもう溶解液は爆散していた。胸部、腹部、脚部に一滴ずつ付着し、皮膚の部分はなんとか避ける。鎧は半分以上溶けていき、裸同然に等しい格好となる。


「……な、なぜ、避けられる!」


「だから、舐めるなと言っただろう!」


 騎士は心臓を右手で押さえていたが、しばらくすると床に倒れて動かなくなった。後は、大臣とセステスだが姿が見当たらない、どこに行った!




 俺は長年の暗殺経験と持ち前の俊敏な動きで間髪を入れずに連撃を放つ。しかし、一度も攻撃が当たったことはない。全てあの豪華な装飾が施された銀の大盾で防がれてしまうのだ。


「どうした、そんな温い攻撃など儂には聞かぬぞ!」


「……くっ、おっさん何者だよ」


「儂はハイドブリガン第一王国騎士団長ゴルセンだ」


 所々赤い線が入った鎧を着ている赤毛で立派な髭面の騎士は堂々として答える。ゴルセンという名には覚えがあった。


「ゴルセン、『不敗の大盾』ゴルセンか!」


「如何にも!」


 ゴルセンは右手に握られた素朴な剣で斬り払う。それを大きく跳んで躱す。


「ほう、身軽だな、少年よ」


「伊達に暗殺者やってないからな!」


 今まで俺が攻撃して騎士は身を守るだけだったのにいつの間にかその立場は逆になっていた。このまま避けていたのではいつかはやられる。戦況を打開するために辺りを見回す。天井には煌々と部屋を照らすシャンデリア、壁には旗が立てかけられている。俺は旗の近くまで騎士を引き付けながら戦う。


「どうした、逃げてばかりか!」


「いいや、そんなことはないぜ!」


 横の大振りを軽々と躱して旗を掴んで壁にもたれかかる。下を見ると重装の騎士が鎧の音をたてながら近づいてくる。壁に足をついて踏み込み、シャンデリアまで飛び移る。灯りが点いていない部分を手でつかみ、すぐ下にいる騎士の後ろ首を狙って落下する。あの重装なら向きを反転するのは簡単なことではないはず。巨大な体に飛び移って首を刺そうとした時、騎士の口元は笑っていた。何かあると思い、騎士から離れる。ちょうどその直後に俺がいた場所を狙って先ほどの大盾が高速で通り抜けていった。


「ああ、惜しい、殺気を隠すのは慣れなくてな」


「おっさん、なんだその盾は……」


 騎士の周りを大盾が浮いている。明らかに異質な光景だ。まるで、盾自身が石を持っているような……。


「これか? これは儂の国宝武器アトレイル、オール・カタランテだ。そして今のは武技、『ミーンズシールド』、この盾に意思を持たせて自由に動かす能力だ」


「盾に意思を持たせるって――」


「そんなの不可能だと言いたげな顔だな。だが、不可能なことを可能にする絶対なる力、それが国宝武器アトレイルだ」


 今まで出会ってきた中に国宝武器アトレイルを持っている奴には出会ったことはあるが、あんな反則級な武技を使ったやつは見たことがない。だが、みんなが戦っているのに俺一人、何もしないわけには行かないんだよ!


「白と黒の狭間、灰の力よ、目を奪え――」


「わざわざ魔法を打たせると思っているのか!」


 騎士の盾は詠唱を中断させようと俺に突撃するが、盾が動くとわかっていれば避けることなど容易い!


「――全てを包み込め、塗り替えろ、世界を暗闇へと、『ブラックカーテン』」


 詠唱が終わると俺と騎士を暗闇が包み込んだ。この中に入ったものは目が見えなくなる、俺も含めてだが。


「ほう、『ブラックカーテン』か。まさか、まだ使う者がいたとはな」


 暗闇の先で騎士らしき声が聞こえる。


「だが、気配を察知すれば見つけることなど――」


「悪いけど気配に関しては結構極めてるんでね!」


 意識を集中すれば奴の位置が手に取るようにわかる。騎士のすぐ後ろまで近づくが気づく様子は一向にない。鎧から出ている首を狙って深く突き刺す。


「あんたの目ではこの中で勝ち目はないよ」


「小さき暗殺者よ――見事なり!」


 騎士は大きな鎧の音をたて、地面に倒れ込む。魔法を解除して生死を確認する。すると、騎士の顔はこれ以上の未練がないほど――笑っていた。俺にはその顔が純粋に戦いを楽しんでいるのだと理解できた。


「もし、味方だったらあんたとはわかりあえたかもしれないのにな……」

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