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0話:第二の人生の幕開け

 紫色の灯りが城内を照らす。目の前の玉座には『魔王』と呼ばれる最後の敵がいる。魔王の攻撃で城はあちこちにひびが入って今にも壊れそうだ。周りには俺の仲間でもある友人たちが倒れている。ここで俺も倒れてしまったら魔王は世界を滅ぼすだろう。そうなれば、今までの努力が全て無駄になる。たとえ、残りの寿命を全て使い切ったとしてもこいつは俺が倒す。


「みんな……ごめん。約束、破るよ」


「れ、レイト……? 止めろ、その力を使ったら……」


 俺は魔王の下へ歩き出した。




 時は二〇三七年、日本。

 俺は、風神かざかみ玲人れいと。私立陽栄ようえい高校に通う高校一年生。いつもの様に、俺は学校でパシられていた。ぽっちゃり体系の俺は、とにかく気が弱く、何をやっても失敗ばかりする高校生だ。そんな俺は入学後、すぐにクラス一番の不良たちに目を付けられた。

 体育館裏で髪を金に染めた男子五人が俺の周りを囲む。


「なあ、玲人くんよお。俺たちは、ただパンを買ってきてほしいって言ってんだよ」


 主に話すのは五人の真ん中に立っているリーダー格の男だ。名前は佐野さの勝吾しょうごだったかな。


「で、でも……俺、もう金が……」


「ああ? 知らねえよ、親から貰ってこいよ」


 無茶苦茶だ。そんなことできる訳がない。


「お、親もくれないし……」


「ちっ、使えねえなあ! お前のせいで腹が立った、殴らせろ!」


「いや、それはおかし――」


 言い終わる前に激昂した勝吾に殴られる。それに続いて周りの男たちも倒れた俺に蹴りかかる。まったく、理不尽な話だ。しかし、俺にはその理不尽をどうにかできる力がない。そんなこんなでつまらない一日が終わり、俺はいつものように家に帰ろうとした。


「レイトー! 待ってー!」


 人影もない道路で寂しく電柱が並んでいる。そこで声をかけたのは俺の幼馴染、萩島はぎしま美音みおんだ。


「なんだ、ミオンか」


 内心嫌そうに答える。ミオンは俺の顔を覗き込むと勝吾に殴られた跡を見て驚く。


「……ってどうしたのその傷!」


「……別になんでもねえよ」


「なんでもなくはないでしょ! 何かあったの?」


「なんでもないって言ってるだろ! 俺のことはほっといてくれよ!」


 俺はミオンから大して速くもない足で逃げ出した。きつく言いすぎたと心の中では思っているがこれでいいんだ。万が一、俺に関わって巻き込まれでもしたら俺は自分を責め続けるだろう。そんなことにはしたくない。などと考えながら走っているともう家の前まで着いていた。

 家はどの部屋も電気が点いておらず、誰もいない。俺の親は二人とも医者で、一つ下の弟が中学校に通っている。広々としたリビングでゲームでもしようとした時、再びドアが開かれる。弟は今日は部活で帰りが遅いはず。となると親だろうか。今日は帰りが早い、と言っていた覚えがある。足音から察するに父と母の両方が帰ってきたのだろう。


 ――憂鬱だ。


「あら、玲人。帰ってきてたのね」


「今日はテストの返却日だろう。見せてみなさい」


 俺は恐る恐る、悪い結果のテストを見せた。


「なんですか! この結果は!」


「……はあ。もう少し、医者になる自覚を持ったらどうだ?」


 怒る母、呆れる父。結果は一目瞭然、間違いなく怒られるだろうと予想はしていた。二人は医者だ。そうなると子の俺も医者に育てられるが、出来が悪く親から嫌われている。


「まったく……明人あきとの方がいい結果を残してるぞ。兄として恥ずかしくないのか?」


 明人というのは俺の弟だ。成績優秀、容姿端麗で俺とは真逆の存在で親からも期待されている。学校に行けば勝吾たちに殴られ、家に帰っても怒られる毎日。もう、限界だ、こんな毎日。


「うるさいな! 俺のことはほっといてくれよ!」


 俺は降り注ぐ怒号に耐えられず、家を飛び出す。家出をするのはこれが初めての経験だった。

 ――それから一時間ほど歩き続けていた。見覚えのない家、見覚えのない道。ここがどこなのかも分からない。

 見知らぬ公園の前を通ると小学生が一人でサッカーボールでリフティングをしていた。いいよな、小学生は自由で。そのまま通り過ぎようとした時、俺の前をボールと一緒に小学生が通り過ぎる。そっちは道路――。

 小学生がボールを追いかけ道路へと飛び出した。それに突っ込もうとするトラック。スピードを緩める気配はまるでない。

 まずい、助けないと――。


 そう思う頃には体は前へと走っていた。小学生を前へと押し出す。その後、横を振り向く余裕もなく俺は強い衝撃に吹き飛ばされた。


 ああ、俺……死ぬのか……。俺が死んだらミオン、悲しむかな……。

 もし、次の人生があるのなら……後悔しない人生を送りたい――遠のいていく意識の中で俺は願った。




 目を開けると見慣れない景色がそこにはあった。白い床、どこまでも続く白い空間。目の前には綺麗な銀の髪をした女性。


「風神玲人さん、あなたは不幸にも事故で亡くなってしまいました」


 不思議と驚かなかった。やはり、俺は死んでしまったのか。


「私は数多の世界を見守る存在、人々からは女神と呼ばれています」


 女神――ゲームやラノベで見たことがあるが実在するんだな。俺は無言で話を聞いた。


「私はそれらの世界で亡くなられた全ての方々に、その世界とは別の世界、すなわち異世界での生まれ変わりの機会を与えています」


「う、生まれ変わり……?」


 夢のような話だった。いや、夢なのかと疑うほどだった。


「はい、もうすでに自分の見た目が変わっていることにお気づきですか?」


 女神が指を鳴らすと鏡が唐突に目の前に現れる。だらしなく長かった髪が短くなり、髪と目の色は前世と同じ黒色。丸々としていた体型は標準の体型になっている。さらに、小さかった身長もそこそこ高くなった。頬を抓ってみるが痛いだけだ。どうやら夢ではないらしい。


「これが俺……なのか?」


「はい、前世で善行を積んだ方々には異世界で生まれ変わりにあたって『三つの支援』をしています。その一つとして、あなたの望んだ容姿を提供することです」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 俺は慌てて女神の話を止めた。


「はい、なんでしょうか?」


「善行と言ったけど俺は何もしてない、何かの違いじゃないのか?」


 俺は、出来の悪い息子で親にも迷惑しかかけていない。周りと関わることを諦め、話しかけられても基本無視だ。そんな俺が善行を積めるなどとは到底思えない。俺のそんな考えが、女神の一言によって打ち砕かれた。


「あなたの行動によって救われた命があります。あなたは先ほど、車に轢かれそうになった小学生を命を張って助けました。これ以上の善行などありません」


 俺によって救われた命がある、俺が他人の助けになれたんだ、そう思うと涙が浮かんだ。腕で涙をを拭き、女神の話を聞く。


「では、『三つの支援』の二つ目です。生まれ変わりをする際にお好きな年齢で記憶を引き継いだ状態で生まれ変われます。年齢の希望はありますか?」


 記憶を引き継がれるのは大きい。前世の知識がそのまま引き継がれるってことだからな。と言っても俺の知識はゲームに関することが大部分を占めているが。そして、年齢の希望について。特にこれといったこだわりはないので、


「今のままでいいです」


「分かりました。それでは『三つの支援』の最後です」


 女神が再び指を鳴らすと、俺の目の前に机の上に乗った二つの箱が現れる。左は赤の箱、右は青の箱だ。


「こ、これは……?」


「あなたの左にあるは代償の箱、右にあるは獲得の箱です。これが、三つ目の支援『何かを得る代わりに何かを犠牲にする能力』をあなたに与えます」


 二度目の人生を生きていくうえで絶対に失敗できない所、念入りに確認する。箱の上には腕が入れられそうな穴がある。穴を覗いて中を確認すると、さすがに何をされるかわからないので止めておいた。


「この中に手を入れたらいいのか?」


 俺の質問に女神は笑顔で答える。


「はい、中に文字の書かれた玉があるので一つ取っていただければ」


 完全に運任せというわけか。


「……わかった」


 俺は先に何の能力を得られるのか知りたいので右の青い箱を選ぶ。神経を研ぎ澄まし、穴の中に手を突っ込む。もう、何でもいい――そう思い、最初に触れた玉を取り出した。書かれていた内容は『望めば何でも手に入る力』。俺は思わずガッツポーズを決めた。

 次にもう一方の赤い箱の前に立つ。先ほどと同じように玉を取り出した。今日は運がいい、そう思っていた。書かれていた内容は――『自分の寿命』。最初は何を言っているのか理解できなかった。次第に意味がわかってくると、俺の脳内は希望から絶望に塗り替えられていった。俺の能力は『自分の寿命を代償に望めば何でも手に入る力』というわけか。女神は俺の手に持っている玉を手に取り書かれた内容を見て一瞬驚いた顔を見せたが、俺の元気を取り戻そうと笑顔で話す。


「あらあら、これは壮絶な人生を送ることになりそうですね。これも何かの試練なのでしょう。ですが、安心してください、力を使わなければ寿命を消費することもないのです」


 そうか、力を使わなければいいのか。次第に元気が戻り、気になっていたことを質問する。


「あの、寿命ってどれくらいなんですか?」


 気になっていたこと――寿命についてだ。俺の能力が寿命を代償とするならばそのことについて知らなければならない。女神は俺の表情を見て悟ったようで、すぐに質問に答えてくれた。


「人によって異なりますが、玲人さんの場合はちょうど八十年となっています」


 八十年、俺は先日十六歳になったから……九十六歳まで生きられるのか。意外に長生きできることに驚く。


「あ、そろそろ他の人が来られるようです。名残惜しいですが、あなたを異世界に送りたいと思います」


 女神は詠唱する。俺の周りを青い光が包み込む。


「それでは、良い異世界ライフを!」


 女神が微笑み、言い終わると光が消え、先ほどまで見ていた白い殺風景な部屋から緑あふれる大自然へと景色が一瞬にして変わる。


 ――ここから、俺の二度目の人生が始まる。今度こそ、後悔しない人生を。

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