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〜は31号スクランブル〜
信じられないかもしれないが、たしかに奴は生きていた。都会の片隅で……噴水のある公園で、新宿駅の西口で、何を考えているやら、時には国会議事堂の正門前で……。
この世にタカ派のハトが存在するといえば、奴のことだった。
イーグル。
そう奴は呼ばれていた。
奴の本名や正式な略歴は、誰も知らない。だが、孤高の存在というものは様々な噂を呼ぶ。
あるハトは奴をロシアンマフィアに雇われた殺し屋だったと言った。またあるハトは、イスラム国で唯一のハト聖戦士としてジハードを生き抜いたと言った。それとも、もっと突拍子もない噂もある。奴は宇宙から来た、宇宙鳩だとか。
しかし、そのすべては間違いだ。
わたしだけが、奴のすべてを知っている。
奴の名は、は31号。
各地の紛争地帯を渡り歩くベテラン戦闘鳩。
そんな彼がこの東京に降り立ったのは、死神の相と見て間違いない。
……わたしの任務は、奴を殺すこと。
わたしもまた、奴と同じ戦闘鳩だ。同じ鳩の眷属だからと言って、容赦などしない。そんな感情は、もう忘れた。
ただ、任務を果たすだけ。
失敗は死を意味する……。