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下等生物は出番がない!誰かが昔語りをしているようですよ。

 人を育ててみようと思うのです。

 あの時、彼女はそう言って笑ったのだ。


*****


「殿下」

「ああ、起きている」


 寝台で片膝を立てたまま思案していた私に、ルシアーノが声をかけた。

 最低で憂鬱な日々はまだ続いている。

 感情的にはならないようにしていた。騒いだところでどうしようもないという事だけは、分かっていた。


 ただ、赦せない。すべてが赦せない。


 ……あの日。

北の端に位置する禁域で、言いしれない悪寒と闘いながら、この理不尽を覆すことだけ考え続けた。


罪人の穴の側に張った天幕の中で、私もよく知る王宮侍女たちに傅かれていた女は知らない顔だった。

女が纏った衣装は、到底従軍時に身に着けるようなものではなかった。それは着慣れた王宮御用達の老舗の意匠のもので、動くたびに存在を主張する装飾品の数々もまた王族が王宮で身に纏うのならば妥当と思われる衣装だった。

 

 誰何するつもりだったのだろうルシアーノが、先んじて天幕内に一歩踏み出した。とっさにその腕を引きとめる。訝しげに私を窺うルシアーノを気にすることは出来なかった。

 私の意識はある一点に吸い込まれるように固定された。その存在を理解すると同時に、目の奥が熱を持ち、一切の音が失われていく。

赤い鳥が飛び立った、あの洞穴で、私を前にセルベルノは何と言った?

『―――――殿下? ここは、例の処刑場です。殿下の命令で視察に来たのですよ、アンジェ様とご一緒に』

「……アンジェ……?」

「アルベルト、呼びに来てくれたの?」

セルベルノが口にした名前を思わず口にすれば、王族を前に低頭し畏まる侍女たちの中心で、寛いでいた女が立ち上がる。カーテシーするでもなく自然体で立ったまま、第一王子である自分の名前を簡単に口にした。さっと顔色を変えたルシアーノの腕を握りしめていなかったら、女は無礼打ちされていただろう。

 だが、私はそんなことなど気にする余裕がなかった。

 女が立ち上がったため、ゆらゆらと光を反射させる耳飾りは、幼い頃からよく見知っていたものだ。

 私の母が嫁いだ時に受け継ぎ、過日ミルーシャにと手渡した、王家由来の宝。

 王妃から時期王妃へと譲られる、伝統と権威の象徴だ。


 それが、どうして。

 あれは、母がミルーシャに与えたものだ。

 それをなぜ、この女が持っている?

 ミルーシャはどこへいった?


ふいにルシアーノの言った言葉を思い出し総毛立った。

禁域を開き売国奴の女を生きたまま突き落とした、と。この行軍は、その女の成れの果てを見るために、婚約中の令嬢たっての願いで行われた、と……。


 始めからおかしいと思っていた。ミルーシャがそのようなことを望むはずはない。では、願い出た「婚約中の令嬢」とは。

 まさかと打ち消す。そんなはずはないと。

 だが、私の動揺など気にもしない目の前の女が、当たり前のように天幕の外へ出ることをねだってきた。

 私の腕にしな垂れかかり、腕を引く無礼な女にルシアーノの眉が撓る。

 振り払ってしまいたい衝動。

 周りが、その女に傅いている現実。


この女は一体何だ。

ミルーシャはどこだ。


 セルベルノや同行していた百騎兵団の者達が「聖女」と崇める女は、私がついてくるものと確信しているのか、さっさと天幕をくぐって行ってしまった。

「女性には刺激が強い」と、セルベルノが止めるのも聞かず、洞穴の底までを覗き込んで、嬉しそうに歓声を上げている。

 浮かんでは消える言葉を抱える私と、同じ結論に達したのか、ルシアーノの顔色も同等のひどいものになっていた。

 そして、女が思わず零した言葉に、ふたり愕然となった。


「ねえ、アルベルト。売国奴の遺品を捜しに誰かを穴に降ろすはずだったけど、もういいわ。いくら百騎兵でも罪人の穴に潜るのはごめんでしょう? それに、わたし気付いたの。もうきっと、ミルーシャの骨なんて欠片も残ってないわ」

 くすくすと笑いながら、信じられない言の葉を呟く女に、胃の腑がよじれた。

 この洞穴の中にミルーシャがいると。骨まで食われているだろうと、この女は嘲笑っているのだ。

 

「さっき赤い鳥が飛んで行ったでしょう? この中にあんな魔獣が潜んでいるんじゃあ、もう、生きてるはずがないもの……ふふ……もしかしてと思ってた自分が馬鹿みたい。心配して損しちゃった。ふふふ」


 女の笑い声が耳にこびり付く。

 吐きそうだ。

 胃の腑の中のものを、すべて吐き出したくなる衝動に抗いながら、嬉しそうに笑う女を見た。


 私は、どうして―――――――。

 どうしてこんな女に名を許しているのだろう。

 どうしてこんな女をエスコートしているのだろう。

 どうして、ここにいるのがミルーシャではなくて、こんな下種な女なのだろう。


「……殿下」

 ルシアーノの低い声に我に返る。無音と化していた耳に、少しずつ、遠ざかっていた喧騒が戻ってきていた。握りしめた拳が白く震えていた。

「……大丈夫だ」

 絞り出すように声を出す。大丈夫だ、分かっているさ、ルシアーノ。


 このまま、剣を抜き去って、首をはねるのはたやすい。

 だがそれで真相がわかるはずもないことは明白だった。この下品な女がどこまで真相に通じているかも分からない。それはこれから、この女との会話次第。

 私達が陥った術の真相も掴めぬ今、この女に手を出すのはまずい。

 ならば、この安心しきって油断している女に、術が解けていることを悟らせてはいけない。

 だから笑顔を。晴れやかな笑顔を見せなければ。

 

「……アンジェ、帰ろうか」

 血を吐くように絞り出した言葉に、震えはなかったか。怒りの色を乗せずにいられたか。

 ああ、頼む、今だけは振り返らないでくれと願いながら、ようやくそれだけを口にした。


「そうね。帰りましょう。もっと早く見に来ればよかった。そうしたら、ミルーシャの骨も残っていたかもしれなかったわね。あ、でも、骨があってもエルリックは引き取りを拒否するでしょうから、これで良かったのね」


 残酷なことを告げる声は、洞穴を覗き込んでいるからか、背後で身動き出来ずにいる私達には無頓着だった。

 女の言葉に顔色を変えたエルリックをハーバンクル教授が力の限り押しとどめていることにさえ気づかない。

 そのエルリックを素早く目線で黙らせたハーバンクル教授は、女の背中を射殺すような目で見ていた。教授に何事か囁かれたエルリックは、凍りついたように立ち尽くしていた。

 泣いていたシゼリウスは、今は屠殺すべき家畜を見る眼差しで女の背中を睨みつけている。

 ……そしてセルベルノが私たちの豹変に困惑した顔をしていた。

まずい。

「心配するな、セルベルノ。私たちは行軍の重責で少し気が立っているだけだ」

「は」

「セルベルノは百騎兵団をまとめて、王都へ帰る手はずを頼む。シアは天幕の撤収と配送の手はずを」

「御意。……エルリック、シゼリウス、ハーバンクル教授も手を貸してください」


 彼らの険しい視線を隠すように間に立つと、矢継ぎ早に、指示を出す。整然と纏まりつつある騎士達の動きから離れて、近寄りたくもない女の傍らに立った。


「アンジェ、さあ、戻ろう」

 エスコートの為に差し出した手に、当たり前のように重ねられた手。

 それに虫唾が走るが、こらえて微笑みを浮かべる。

「思ったよりつまらない旅だったわ。ねえ、アルベルト、帰りはシードレイク領を回っていきたいわ。シードレイク領の商業ギルドで新しい装飾品が発表されたのよ。あの、イーニアスが手掛けるとてもきれいな魔道具がようやく商品になったそうよ」

「……君の願いのままに」

 ……なんて茶番。

 絞り出すのもやっとの言葉を、血を吐くように絞り出す。薄く笑いながら、腹の中で煮えたぎる憤怒を持て余す。


 ああ、赦せない。赦せるはずなど無い。


 幼い頃から大事に慈しんできた彼女の死を嘲笑ったこの女を。

 おそらくはむごたらしく死んでいった彼女を冒涜したこの女の、無神経さを。


 だが、この女よりも、もっと赦せない者がいる。


 何者かの術中に陥り、むざむざと彼女の手を離した自分だ。

 彼女の救いになれなかった自分の無様さが。

 彼女を失った事実さえ忘れて、この女の隣にいた自分が、赦せない。

「さあ、いこうかアンジェ」


 女の手を取り笑顔でエスコートをしながら、ともすれば震えそうになるほどの怒りをおさえた。

だから胸の内で誓う。

 姦計に嵌った愚か者と罵られても、歴史に愚物と記されても……地に堕とされた彼女の名誉を取り戻す。

 彼女を陥れた者を探りだし、その報いを受けさせるまで追及の手を緩めたりしない。

 

 だから……もう少しだけ、待っていてくれないか。



 *****



 ……アルベルトと同じように、砂を噛む思いを抱く者が国を隔てて存在していた。


『人を育ててみようと思うのです』


「彼女」は「彼女」と全く同じ眼差しで、同じ口調で、そう言った。彼はそれをずっと覚えている。


「……忘れるものか」


 繰り返し繰り返し、さざ波のように思い返す、幸せだった日々。

 私はただ「彼女」と過ごした幸せな日々を守りたかった。

 誰よりも愛しい人の隣を独占したくて、寝る間を惜しんで学んだだけの、聖人でも何でもない。

 ただ彼女を驚かせたくて、その視線を独り占めにしたくて空回った、愚かな男だった。


 ――――――聖国の最上位の神官位など望んだことはなかった。


 それどころか、生まれ持った強大な魔力は、人を遠ざけるだけの厄介な代物だった。

 なにせ、魔力の波動に恐れられ、生まれてすぐに神殿へ預けられたくらいなのだから。

 私が目を向けるだけで、魔力に充てられバタバタと人が倒れ、風が逆巻き、炎が踊り、地面は割れて濁流を生み出した。

 ユークリッドで神威と呼ばれる魔力を自在に操れるようになるまで、神殿の奥に隔離されたのは仕方がない事だっただろう。

 いつか母が迎えに来るという言葉を信じて、魔力の訓練に明け暮れた。

 ようやく部屋を出る許しが得られたころには十を過ぎていた。

 けれど、どんなに魔力操作がうまくなっても、どんなに神に祈っても、母が迎えに来ることはなかった。

 母の迎えを諦めた私の次の目標は、街で出会ったハンター達だった。

 母が迎えに来ないのなら、こちらから会いに行けばいい。退屈な神殿を抜け出して、世界中を歩くハンターになろうと思った。


 ……私は自分の髪と目の色が特別だなど、知らなかった。他者をしのぐ強大な魔力に意味があるなど、わからなかったのだ。


 そのころ神殿の孤児院に慰問に来ていた貴族令嬢と出会った。

 彼女は慰問先の孤児院で、子供たちに読み書きの指導をしていた。

 サラサラの金の髪がきれいで、見惚れてしまった。碧の瞳が好奇心に輝いて、聖神殿の神像以上に美しいものを生まれて初めて見た気がした。

 黙って座っていれば神の御使いのように思えた彼女は、それでもやはり生きた人間で、顔を合わせると笑うし、泣くし、怒りもした。文句を言い合いながら、取っ組み合いの喧嘩もした。

 ある日、ひっかき傷を「手当て」してあげたことがあった。瞬く間に傷が消えるのを目の当たりにした彼女が、目を見開いたので、彼女もてっきり、私を崇めるようになるのかと恐れを抱いた。

『これが、神威……すごい魔力ね。ぶわっとして、ふあふあになって、とても幸せな気分』

『魔力じゃないよ、これは神の慈悲だ』

『ばかねえ、これは魔力よ。魔力じゃないなら、発現状態がおかしいわ。神の慈悲なら万人に授けられるべきでしょう? どうして聖国では貴族だけに現れるの? 魔力は遺伝するから貴族に多く神威が発現するだけよ。もし神威が神の慈悲だというのなら、聖国の民すべてに発現するはずよ。神の愛は偏らないって教義にも書いてあるじゃない。私だって毎日毎晩神様にちゃんとお祈りを捧げているのよ? 神の愛は私に欠片も無いというの?』

 確かに、敬虔な信徒である彼女に神威が発威しないのは、おかしなことだった。

 勉強熱心な彼女は、聖国の学問だけではなく、各国の発表する研究成果にまで目を通していた。

 魔力に頼らず、魔石から魔獣の持つ魔力を引き出せないかと考えていた彼女と。持て余す魔力……神威をどう使っていくか迷っていた私。話をするのはとても楽しかった。

 それが、聖国ユークリッドにおいて、どれほど異端視されることかなど、知りもせず、私達はただただ語り合った。


『私、ぜったい留学して神威と魔力の関係を研究する!』

『研究なら、ユークリッドでも出来るだろう?』

『馬鹿ね、神威で作り出す魔方陣と、他国の魔術師が作り出す魔方陣の比較研究と解析をしたいなんて、言い出したら、家から出してもらえなくなるわ! だってそれって神の慈愛が魔力とおんなじだって言ってるも同然でしょ?』

『そ、それなら……(ぼ、僕の、お嫁さんにむにゃむにゃ)』

『なーに? 聞こえないわよ、神官サマ』

『な、なん、でも! ないです……』

 ユークリッドの貴族令嬢だった彼女と、神殿に捨てられた孤児である私が机を突き合わせて学びあうなど夢物語だと思っていた。


 ……でも、聖国ユークリッドでは、生まれも育ちも関係ない要職がひとつだけあった。

 神の持つ貴色と同じ色彩を身に纏い、畏怖されるほどの魔力を内に秘め、それを自在に操れる者だけが拝命することが出来る、要職が。


 聖国ユークリッドの建国時から数えて五人しかいない、聖神官の座が、それだった。


 聖神官の座に就くことは、一般的にむずかしいとされていた。

 まず、国が崇める大神ユークリッドと同じ紫の髪と濃い藍色の瞳を持つ者でなければならない。

 そして、他者を圧倒する夥しい魔力が必要だった。

 なにせ、現人神だ。ひとたびその座に付いたら、国王さえ跪かなければならない至高の存在になる。

 私は三つを三つとも、身に宿していた。


『イルーシャ、どうか(そばにいて)』

『聖神官様、お勤めの時間です』

『ああ、今行く』


 聖国ユークリッドのベルデュール侯爵家の後押しで聖神官の地位に就くことになったのは、神殿に捨てられて十二年がたったころだった。

 孤児から聖神官となるのは貴族たちの矜持が許さないのか、一番に名乗りを上げたベルデュ―ル侯爵家の養子となった。

 神殿で暮らす私が生涯共に暮らすことはない新しい家族と、面会をしたその日。


 イルーシャが、ベルデュール侯爵家の二人いる娘の、妹の方だと知った。

 

『神威を持たない見捨てられたものであるお前も、たまにはいい働きをするものだな。イルーシャが神殿学校に足繁く通っていたから、強大な神威を発する孤児にいち早く気が付くことができた』

『……役立たずもたまにはいい動きをするわね』

『まったくだ』


 イルーシャの両親、姉のアリーシャも、絵に描いたような貴族だった。


『ひとたび我がベルデュール侯爵家の一員となったからには、立派な神の使徒となってもらいます』


 イルーシャの励ましと、共に学ぶ機会がなければ、とっくに聖神官になる気力など失せていただろう。

 あの日から、私の目標は、聖国を代表する立派な聖神官となって、あの悪夢のような家族からイルーシャを助け出すことになった。


 けれども、私が聖神官として徳を積めば積む程に、イルーシャの肩身が狭くなった。

 神殿に捨てられて十二年。聖神官として神に仕えた五年。私は十七歳になっていた。


 その年、イルーシャは、聖国ユークリッドの敵国である大国ナデイルの伯爵家へ、身一つで嫁いでいった。

 

 聖国ユークリッドで神威と称される魔力の発露がなかったイルーシャは、聖国での婚約が成り立たなかった。結婚しても神威なしが生まれる危険性があったから、婚約者を持てなかったのだ。私はそのことに安心していて足元をすくわれた。


『聖神官様、どうぞ、祝福してくださいませ。私は、国と国との懸け橋になるのです。そしてかの国でも、聖神官様と学んだように、人を育ててみようと思うのです……』


 祝福などできるはずがなかった。

 私の内心を知る神が、大気を切り裂いたかのような雷鳴をとどろかせる中の、たった一人の嫁入りだった。


 ……いつかイルーシャを娶るつもりで、確固たる地位を確立しようとしていたのが裏目に出た。

 私は、聖国の貴族たちに力を見せつけすぎたのだ。

 イルーシャに傾倒する私を危ぶみ、彼女を他国へ売り飛ばしたベルデュール侯爵家を許すことはできなかった。

 イルーシャがナデイルへ嫁いでから、私は生涯を神にささげると誓いをたて、神殿にこもりきりとなった。

 そして聖国を牛耳ることを本格化したのだ。

 幸い、強大な神威の発露のおかげで、信者は私を神格化して見ていたから、洗脳するのは簡単だった。

 さらに、魔境にひそむ魔獣をことごとく調伏し、聖国の神殿を守る魔獣軍を作り上げた。国王が有する自国の軍より強く、恐ろしく、容赦のない魔獣の群れ。唯一、の主がこの私という事実に、聖国ユークリッドの貴族たちは震え上がった。

 ベルデュール侯爵家は、計り間違えたのだ。

 私とイル―シャの邪魔さえしなければ、滅亡に拍車をかけることもなかっただろう。

 ベルデュール侯爵家の背信行為を公表すれば、面白いほど簡単に扇動された国民が、ベルデュール侯爵家を焼き払ってくれた。

 そして、満を持して迎えに行ったナデイルの伯爵家の庭先で、幼子と楽しそうに遊んでいるイル―シャを見つけたのだ。

 ……家から追い出されるようにしてナデイルへ追いやられたイル―シャは、政略結婚相手の伯爵と、確かな愛情を育んでいた。


『聖神官様。この子は私と旦那様の子供で、ミルーシャと申します。さあ、ミルーシャ。ユークリッドの聖神官様ですよ、淑女の挨拶がしっかりとできるかしら?』

 茶目っ気溢れるイル―シャの言葉に、彼女そっくりの顔立ちの可愛らしい子供が胸を張った。

『ごきげんいかが。しぇーしんかんしゃま。わたちのなまえはミルーシャでしゅ』

『……噛んだな』

『噛んでにゃいもん!』


……明るく笑い合う親子三人の姿に、夫と別れて聖国へ帰ってきてほしいとは言えなかった。


 それからは敵国であったナデイルで、イルーシャが肩身の狭い思いをしてはいけないと、幼いミルーシャが心健やかに成長できるようにと、両国間の軋轢をなくすように両国に働きかけた。


 聖国聖神官の名前は、国家間の諍いを抑えるには最適だった。

 

 ナデイルと共同で何かを成し遂げたものに祝福を授けた事で、ながいこと張り合っていた両国間のいがみ合いが、目に見えて減ることにつながった。

 そして、聖国の聖神官への陳情……主に祝福をかけて欲しいという願いを、イル―シャの口添えで、受けることにした。


 いつしかイル―シャは、嫁いだ先のナデイルで、なくてはならない人材とみなされるようになった。

 


ハートブレイクされた二人の話ともいう。シリアスさんがこんにちわしてる。

質が悪いのは聖神官の方。合間にコメディ挟みたくなるさくらは、指がコメディを書きたくなるのを「ううっ右手が!」と言いながら封印しました。

でも、書きようによってはコメディだよね。イル―シャさんのお婿さんになるんだと夢見てたのに、横から奪われて道程の脅威の発想の転換。実績を積み上げて、魔獣軍で王様を脅し、国の主権をもぎ取りましたって、あんた……。

そして夫を魔獣に食べさせちゃえ!ととある魔獣をプレゼントしたり、その魔獣が、ミルーシャさんに懐いたり、頑張ってイル―シャさんにすごいんだぞーとアピールして間男になろうとしたり、間違った方向に一生懸命頑張る。あげく。イル―シャはムキムキマッチョが好きなんだと誤解して(イル―シャさんの旦那は脳みそ筋肉という残念な特性を持つムキムキマッチョさんでした)、マッチョでワイルドな神官さんを目指すんです。まあでもいいよね、体格差!小柄な美少女嫁が筋肉もりもりの旦那様にがつがつされるんだよ!←初夜なんて血みどろの惨劇で、伯爵家の侍女が失神したんだよ!

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