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あ!やせいの武士が飛び出してきた!

作者: わっしょい

うちの妹ははっきり言って超かわいい。

なにが可愛いって、休日の朝から台所に立ってお菓子とか作っちゃうところとか。



ただちょっと、うちの妹は他の人より心が広い。だから朝の定義が一般論よりやや広くて、ちょっとまだ外が暗いっていうか、家の中も暗いっていうか、午前2時くらいっていうか。世間的にはまだ微妙に夜っていうか。

そんな所もお兄ちゃんは大好きです。




嘘です。

可愛いと思わないとやりきれません。








陽菜「お兄ちゃん!起きて!!!」




前述の通り今は午前2時。

なのになぜか猛烈な勢いで俺を起こそうとしてくるやつがいた。




陽菜「お兄ちゃん!!!!朝だよ!!!」



健一郎「嘘つけ!!!」



陽菜「お兄ちゃん!!!!夜だよ!!!」



健一郎「知ってるわ!!!つーかうるっせえよ!!!今何時だと思ってんだよ!!!!」



陽菜「(お兄ちゃん)」



健一郎「こいつ直接脳内に……!じゃない!そこだけサイレントモードでも意味ねえよ!なんで午前2時にお菓子作ってんだよ!」



陽菜「そこに小麦粉があったから…」



健一郎「お前が手に持ってるそれは小麦粉じゃねえ石灰だ!せめて食用のもので生成しろ!!」



陽菜「っ!!!!通りでいつもより白いと思った」



健一郎「白さ以外に気づく要素がなかったことに驚いたよ!!!」




石灰で一体、何を作ったんだろう。

石灰ってあれだよ?運動会とかで白線引くやつだよ。どこから入手したの?そもそもなぜ家の台所にあるの?疑問はつきない。

人生とは不思議の連続なのだ。



健一郎「…で?いま何作ってんの?」


石灰を握りしめる妹を見ながら、それが小麦粉であったとしたなら何を作るつもりだったのか興味がわいた。なので尋ねてみた。



陽菜「プリンにきまってるでしょ?」



健一郎「プリンに小麦粉は使わねえ!!」



本当にセンスがない。

こいつは絶対嫁に行けない。




妹には前科がある。

これでプリンを作るのは2回目。

初回は確か、プリンを作るぞ!と言い出したはいいものの、原料が分からず

考えに考えて『リンスでできているのではないか?』という考えに辿り着いてしまい(色が似ているかららしい)、

リンスでできた固形物をデザートに出して平和なお茶の間がちょっとしたパラダイスになった。(詳細は妹の名誉のため伏せる)


リンスでできたプリンって何?

それってつまりリンスじゃん????




健一郎「ちょっとお前、信じがたいほど料理のセンスないからな?石灰からプリンを作るってなんなの?錬金術でも極めてるの?」


陽菜「もうー!文句ばっかり言う人には食べさせてあげませんよー!」


健一郎「むしろまだ俺に食わせる気だったの!!?材料が石灰って露見してなお食べ物だと認識してたの!?」


陽菜「お兄ちゃんはほんっと口うるさいなあ!そのけたたましさ、まるでうちのお兄ちゃんのごとし!」



健一郎「俺を形容する言葉が俺って!?ボキャブラリー少ないのも大概にしろよ!」



陽菜「あーもう!お兄ちゃん、今は深夜なんだよ?そんなにうるさくすると武士が起きちゃうよ?」


健一郎「あ、ああ、ごめん。そうだったな。うるさくすると武士が起きちゃうよな…」



陽菜「うん。静かにしてね」



健一郎「…ところで武士って誰?…誰っていうか何?お前の作ったオリジナルお菓子の名称か何か?」



陽菜「やだなー。武士って言ったら武士だよ。」



健一郎「寝ぼけてんの?」



陽菜「寝ぼけてないよ?むしろ寝てない」



健一郎「深夜までお菓子を錬成してるからだろ」



陽菜「とにかく武士なの!そんなに言うなら見てみてよ。台所にいるから」




妹の言うことは本当に要領を得ない。


・台所にいる

・武士


情報をまとめてみると上記のようになるわけだが、まとめてみてもよくわからなかった。


これはアレか?妹なりの精一杯のジョーク、あるいはなぞなぞの類か?


「武士は武士でも台所にある武士ってなーんだ?」ってことか?


それなら答えは



健一郎「かつおぶし!!!!」


陽菜「えっ、なんなのいきなり」



どうやら違うらしい。


----------


台所に向かう途中、気がついたことがある。深夜2時。外は当然まだ闇の中だ。


そして、なぜか家の中も真っ暗だ。



健一郎「なんでだよ。廊下くらい電気つけろよ。転ぶだろ」


陽菜「無駄に明るいと闇魔術に失敗するじゃない」


健一郎「闇魔術!?」



この子大丈夫なのか。我が妹ながら相当やばいだろ。何を口走ったの今。

聞き返そうとしながら台所のドアを開けて、その惨状を見て俺は聞き返す意欲すら失った。




台所ももちろん真っ暗。


節電もほどほどにって感じだ。

だけど、テーブルの上に魔法陣が描かれ、その魔法陣に沿ってロウソクが並べられ、なんだか凄くやばい秘密結社に迷い込んだような状態になっている。


怪しくロウソクの火がゆらめく中、よくよく見ると、魔法陣の真ん中に黒色の謎の固形物が置いてあることに気がついた。



健一郎「これは一体………」


陽菜「それはプリン」


健一郎「これはプリン」


陽菜「そう、それはプリン」


健一郎「これは……プリン………」



催眠かよ。



どう拡大解釈したってこれは書道の時に擦る墨の塊だろ。



自称プリンを囲むように描かれた魔法陣とロウソク。



健一郎「説明を要求する!」


陽菜「うん」




そうして陽菜はぽつりぽつりと説明し始めた。


・どう頑張ってもプリンができなかったこと

・仕方がないので神様に祈ることにしたこと

・「おいしくなあれ」って祈る気持ちや愛情が食べ物を美味しくするって聞いたことあるってこと

・つまり、「おいしくなあれ」って唱えれば食べ物がおいしくなる

・「オイシクナアレ」は魔法の一種。詠唱みたいなもの。




陽菜「こうして私は、闇魔法オイ=シクナアレを唱えるに至ったわけですよ」



健一郎「ちょっと何言ってるかわかんない」



陽菜「魔法陣もロウソクも、オイ=シクナアレのために必要なものだった」



健一郎「もういい分かった。寝よう」



陽菜「現実から目を背けないで」



健一郎「だって何言ってるのかマジでわかんねえもん。自称プリンも自称プリンのままなんだろ?闇魔法、成功してねーじゃん寝ろ」



陽菜「でもお兄ちゃん。ちょっと台所を見回してみて?」


健一郎「はあ?」



陽菜「違和感に気がつかない?」



健一郎「いや違和感だらけだよ!謎の魔法陣にロウソク、そして謎の錬成物と意味不明な供述を重ねる妹。俺の手には負えない」



陽菜「もっとよく見て!見落としていることがあるよ」



健一郎「見落としていること……?」



言われて台所を見回す。

テーブルの上には陽菜が散らかした石灰の粉が散っている。そしてすりばち。すりばちの中にはなぜかみかんが入っている。

テーブルの下には巡回中のルンバ。そりゃこれだけ散らかってれば出動するよな…。いつもありがとう。

そして台所の隅には鎧兜。






健一郎「………っん?」



鎧兜。




陽菜「全力で闇魔術を唱えたら、どこからともなく武士出ちゃった」






その2秒後には、現実から目を背けるべく、布団に向かって走り出す俺の姿があった。



そしてその布団には、武士が寝ていた。


健一郎「なんだお前はーーーー!!!なんだお前はァアアアアアア」



武士「バァッ!武士でござる!」


健一郎「バァッ!じゃねーよ可愛くねーよ!何で人の布団に寝てんのーー」


武士「あたためておいたでござる!」


健一郎「どう見てもあたたまってるのお前だろうが!!!」



武士「それはさておき、拙者と契約して主君になって欲しいでござる!」


健一郎「御恩と奉公の関係を魔法少女みたいに言うな!!!あとその言い方やめとけ!100%、裏を感じて契約失敗するから」





そんなこんなで、うちには武士がいる。

家族が増えてよかった。

こんなあたたかいまいにちがつづくといいな



1年1くみ けんいちろう



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