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運命は予測不可能

作者: 満月

「シルビィア・ミスティ、君がフィリア嬢への残酷で陰湿な虐めの主犯だな?」

「……ふぇ?」


わたしは告げられた言葉に、目の前の彼等や周囲の視線に、訳が分からずそんな声を漏らしてしまった。

すると、表情にも出ていたのか、彼等はさらにその敵意や蔑む感情を深めていく。


「シラを切っても無駄です。証拠や証言は全て、貴方の愚かで非道な罪を証明して居ります」

「あんたはフィリアにあらゆる点で劣ってたことを逆恨みして、人の良さそうなフリで周りを欺きながら、フィリアにあんな酷いことをしたんだろ」

「最低だよ。フィリアがどんな思いで耐えてきたと思う? 僕たちが気付いた時、フィリアがどんな思いで君を庇ったか」

「この問いはフィリアの優しさだ……」


続けて発せられる言葉達に、わたしはさらに意味が分からなくなる。

なぜ、学園祭の締めを括るパーティで、わたしが彼等、二学年制のこの貴族学園で、国内生の二年生中、成績優秀者五名である国内生徒会、略して内生会に、こんなにも敵意を剥き出しにされているのだろうか?


彼等に守られる形でいる、わたしが虐めたらしい少女、フィリア・コーネリアン男爵令嬢。

金の髪に碧い瞳の可愛らしい美少女だ。彼女の噂ならば耳にしている。

わたしと同じ一学年の生徒で成績は常に上位。次期内生会メンバーとして、現内生会を積極的に手伝っているそうだ。


とはいえ、わたしは彼女と直接的な接触はしたことがない。

入学時から成績が似通ってしまい、彼女は次期内生会メンバー、わたしは内部生徒会の対抗組織、国外生の成績優秀者が集まる国外生徒会、外生会の次期メンバーとして、周囲からライバル関係に見られているが、実際はそんなことは全然なく、わたしはクラスの違う彼女と話したことは愚か、目があったことさえないと思えるくらいだ。


だと言うのに、彼等は急にこの全校生徒が集まる場で、友達がいないのでいつも通り、独り楽しんでいたわたしの前に訪れ、唐突に見に覚えのない証拠や、見覚えがあるが話したことのないクラスメイト達の嘘の証言を提示された上で、現状の問いをして来たのである。

証拠として上げられた数々のものは全て、状況証拠だった。それだけで犯人と決めつけられてしまっているのだ。


理不尽である。冤罪である。わたしは無実だ。ついでに、いろいろと気に食わない。

なので、ここは言わせて貰おう。


「生憎ですが、それは何かの手違いですわ。わたしがコーネリアン様と対面するのは、この場が初めてですもの」

「……君はフィリアの優しさを無碍にする、と?」

「わたくしは真実をお伝えしているだけですわ。そもそも、内生会の皆様は何をお考えですの? 内部生の鏡であるべきあなた達が、この様な公共の場を私物化し、不十分な証拠を武器に寄ってたかって、一人の生徒を断罪しようと大騒ぎするなんて、とんだ笑い話ですわね」

「他国の貴族の娘とはいえ、言って良いことと悪いことがある! 何より、君は罪を犯し、それを隠蔽しようとしたのだ! これ以上の所業は国交問題に関わるぞ! 自国での居場所も失いたいのか?!」


内生会長は声を張り上げ、脅す様に告げた。

会場内、特に、わたしと同国から訪れた者達がざわめいた。

だが、心配はない。


「この学園の校則により、生徒は国内外共に平等に扱われ、身分や地位を誇示することは禁止されていますわ。よって、この問題は国交問題に発展する事は有り得ません。全て、学園内で蹴りを付けます。それでもなお、国交問題にしようと仰るならば、それは自らの身分を利用しようとしていらっしゃる、内生会の皆様の校則違反に相当いたします。たかが、女子生徒同士のトラブルにそこまでやるなんて、皆様は随分と身勝手なのですわね」

「ッ!! 黙れ!! 少しは反省の色をーー」

「言葉脅しに黙らせられるくらいならば、わたくしはそもそも、こんな発言は致しませんわ。それから、あなたはこの国の王族でしょう。王太子と伺って居ります。この国は我がマジェリスタ王国とは異なり、重婚を許さず一夫一妻制を法で定め、婚約者と夫婦以外の異性を気に掛けることを恥とする筈ですわ。あなたは将来、その国の頂点に立つお方。他の方々も同様に、彼を支え、この国を纏め上げる身分をお持ちの筈ですわ。婚約者をお持ちのお方もいるでしょう。だと言うのに、五人揃って一人の女生徒にうつつを抜かし、罪なき者を断じようとしているなど、まさしく大問題ですわよ」


わたしは真っ直ぐと見定め、彼等の罪を突き付ける。

彼等は言葉を遮られたことや、挟む暇なく告げられる言葉達に酷く言いよどむ。

周囲の空気は微かにわたし側に傾き始める。


「貴方が罪を犯し、それを隠そうとしていることは変わらない事実でしょう」

「それに関してはあなた方を始めとした、学園中の皆様がうちの馬鹿どもに利用されて居りますわよ」

「……は?」


わたしの発言をしっかりと聞くようになった彼等は、意味が分からないと言う様な間抜け面を晒してくれる。

五人とも顔が良いので、それも十分に絵になっていたが、わたしはとりあえず、


「これは、国内生と国外生のトラブルですわ。国内生のフィリア・コーネリアン嬢と、このわたし、国外生のシルビィア・ミスティの問題。この場合、内容によってはあなた方の言う様な、国交問題に関わる可能性もありますから、どちらに非があれ、コーネリアン嬢もわたくしも問題児と扱われ、学園側の厳重管理の下、学園の出した罰に従わねばなりませんわ。こんな大騒ぎの当事者になった以上、内生会と外生会の候補の地位を剥奪されるのは勿論、ことの結末によっては退学も有り得ます。そして、うちの馬鹿どもはわたくしを自国に帰還させようとして居ります。ですが、当のわたくしは徹底して問題事を避けて居りましたわ。そこで、彼等は困り果てて居りました。そんな時に、あなた方が内生会の仕事をすっぽかすなどを始めとした、問題行動を起こし始めましたから、それを調べて行く内に利用することにされたのでしょう」


会場中に淡々と語った後、ある方向へとにこやかに微笑み掛けた。


「そうですよね? 内生会が機能しなくなり、暴走しているのを野放しにした挙げ句、お目付役として追い掛けて来た妹が寄ってたかって虐められているのに、庇い盾することは愚か、現在進行形で仕事を放棄しようとしている、外生会の馬鹿兄どもが」


そこにいた、随分な距離を取った場所で、傍観している外生会の五人は各々、気まずそうに身を縮めていた。


「し、シィ、落ち着こう。私達は別に、わざとこんな騒ぎを起こそうとした訳ではーー」

「ルドルフ兄様! この期に及んでの弁解は結構です!」

「だから、止そうって言ったんだよ。シィがこの程度のことで、大人しく帰ってくれる訳がなかったんだ」

「クォンツ兄様も罪逃れしない様に!」

「そう怒るでない、シィ。俺達にも事情があるのだ。解決しなければならない問題をかき集め、いろいろと審議の末に一挙に、平和的に処理する方法として、この方法を取るしかなかった」

「確かに、ヴァルド兄様の発言も一理ありますし、あなた達が頑張ってきたことは承知の上です。が、わたしが怒ってるのはそこじゃないんですよ」

「シィのことだから、仲間外れにしたってとこかなぁ? それにしても、そこまで読めちゃうなんて、相変わらず頭がよく働くよねぇ」

「わたしを舐めたら痛い目に遭うのは経験済みでしょう、ウルティ兄様」

「ボク達、こんな大騒ぎにするつもりはなかったの。シィのじゃじゃ馬ぶりもそうだけど、内生会がこんな横暴なやり方をするとは思ってなかったし、流されやすいのは分かってたけど、周りが物凄い悪ノリしちゃって、今さら収集を付けられそうになくって……」

「リオラ兄様、一言多い上、収集付けられなくなったからって、仕事放棄が許されると思ったら大間違いですよ。今回の騒動、あなた達にも責任を取って貰いますから」


久しぶりに愛称で呼んでくる外生会五人の言葉、一言一言にきっちり返せば、彼等は返す言葉もない様で、目線を外してさらに縮まり込んでしまった。

その態度に、頭を抱えたくなったわたしは、とにかく深いため息を零した。


「それから、連れ戻されるべきが自分達であることを、重々に忘れない様に。二年前、勝手に五人揃って家出して、お父様達がどんなに慌てたと思っているんですか? あなた達がこの学園にいることが分かって、随分と楽しそうにしているから、こちらは様子見をすることにしたんですよ。だと言うのに、わたしを追い返そうとして、下手すりゃ国交問題になり得るこんな大問題を起こさせて! 国に帰ったら全寮制の魔法学園に進学させて、一からとことんやり直してますから、もう二度と逃げられるなんて思わないで下さいね! このはた迷惑な馬鹿王子ども!」


言えば言う程溢れてくる怒りに、わたしは思わず声を荒げてしまう。


「だ、だって、シィがいたら、私達はいなくても良かっただろう」

「そうそう。なんで、シィってそんなに優秀なのかな」

「兄である俺達の立場がないではないか」

「ぼく等はシィを思って王位から身を退いたんだよぉ」

「なのに、シィったら王女なのに、追い掛けて来ちゃうんだもん」


ほう、言い返すか。この期に及んで、まだ言い返す気力があったか。


「そうですか、そうですか。あなた達のせいで、わたしが側妃達にそのことに関して、ジワジワ嫌みったらしく虐められたってのに、あなた達はそれをわたしの為だと言いますか。この学園中に虐められてる状況もわたしの為? 幼い頃から思ってきましたけど、随分と妹イビリが大好きな兄達だこと」


にこぉッと笑みを浮かべれば、言葉を飲み込んでいく彼等は酷く驚いた様だ。


「え?」

「い、いや、決してそう言う訳ではーー」

「そうじゃないなら、なんでこう悉く、わたしを虐めてーー」

「酷いッ!!」


突然上がった女性の叫びに、わたしは酷くビックリして、弾けた様にそちらを見た。


「外生会の皆さんにこんな嘘を吐いて貰って、罪を着せようとするなんて!! 一体、どんな言葉で脅したんですか?! わたしを虐めた罪を隠す為に、どれだけの人のシルビィア様は……うぅッ」


そこには、内生会に庇われていたフィリア・コーネリアンが、なんか怒り嘆く様にわたしを見つめていた。

唖然としていた内生会と言えば、泣き出す彼女を気に掛けながらも、意外にも酷く困惑している。周囲も同じ様だった。

その困惑に含まれているのは、わたし達のやり取りが本当に嘘なのか、茶番なのかの疑問だ。


「あぁ、その……外生会、どう言うことだ?」

「……え?」


殿下の素直で冷静な問いに、誰よりも素早く疑問を抱いたのは、泣いているフィリア・コーネリアンだ。

その目は信じてくれていないことへの驚き。まぁ、わたしも驚いた。

今の内生会はフィリア・コーネリアンの言葉は絶対、の信者とも言える肩入れぶりだったからな。


「良いのか? コーネリアン嬢を信じなくて」


外生会長であるルドルフ兄様も、これには驚いた様で、きょとんとした態度だ。


「……フィリアの言い分も一理ある。だが、僕達や学園中が知る君達が、弱みを握られた程度で簡単に、誰かに従うとは思えない。君達に下手に喧嘩を売れば、何倍の仕打ちで返り討ちに遭うのが目に見えている」


その殿下の力強いお言葉に、周囲が深く肯定したのが分かる。特に、二年生のみなさんは身に染みているらしい。

一体、この馬鹿兄共はどれだけの人間に迷惑を掛ければ気が済むのだろう。謝罪に走る周りの身にもなって貰いたい。


「それに、正体が謎過ぎるんだよ。完璧に隠してくれるならまだしも、たまぁにしっぽを出してたし」

「私情の口が軽過ぎる……」

「その為、貴方方の正体に関しては、私達も常々、疑問を抱いて居りました。調べれば調べる程、謎は深まるばかり」

「殿下へ危害を加える様子がない以上、オレ等も様子見をさせて貰ったけど……あんた達の正体は気になる」


内生会のみなさんの指摘に、外生会は顔を見合わせる。


「気になると言われても、ここは身分重視しないし、語ってこっちに特はないよね? わざわざ教えてあげる義理もないし、この場じゃ大して関係ーー」

「それなら、わたしが説明しますよ。そもそも、彼等を引きずり出したのはわたしですし、彼等のお目付役として、もしもの時に正体をばらす許可は貰ってます。同時に、周囲の反応によっては、すぐにでも連れ帰る様、彼等の母君達に重々に言われてます。五人揃って、とっても心配してましたから、きっとお帰りをお待ちしてますよ。いろんな準備をして」


なんだか除け者にされている感が気に食わず、にっこりと微笑みかければ、外生会の血の気が引いていったのが分かる。

おやおや……フフッ!


「実の母君に心配されて置いて、そんな反応は酷いと思いますよ? でも大丈夫です。そう言うこともちゃんと、わたしの方から報告して置きますからね。側妃達、それはショックを受けると思いますよ。溺愛してた息子に家出された挙げ句、その原因の半分が自分達だったなんて」

「シィ! そんなことされたら、私達がどうなるか分かるだろう!」

「大丈夫ですよ。学園は身分問わず全寮制なんで、半年耐えれば三年は安心です」

「その大丈夫に安心要素感じられない上、もう連れて帰る気満々ッ?!」

「少なくとも、側妃達との面会は止む終えないと思いますよ。今日この後、会いに来るそうですから、あの人達」


わたしの言葉を最後に、会場はしんと静まる。いや、正確には、騒いでいた外生会が固まる勢いなのだ。


「これまでは表向き、それなりに大人しかったのに、最近は裏表共に奇妙な動きが増えてましたから、お父様がもしもの場合に備えて、ドラクエル王に挨拶して置こうと、仕事の合間を縫ってくれたみたいです。側妃達は自分の息子のことだから、って勝手に付いて来たんですよ。昨日着いて、わたしも半年ぶりに挨拶して来ました。今日は早速、ドラクエル王に挨拶しに行くみたいでしたよ。その後、こっちに寄るとか……。それにしても、馬鹿ですよねぇ。そんな日にこんな騒ぎ起こすなんて。お父様もこれにはさすがに庇い盾してくれないと思いますよ。妹を故意に虐める兄達は、母親に叱られて当然ですからね」


にこにこと微笑むわたしを前に、彼等の空気はさらに凍っていたが、自業自得なので気にしなくて良いだろう。

わたしは彼等から視線を外し、切り替えた。


「さてッ、改めましょう」


ドレスを整えてから姿勢を正す。スカートの裾を掴みお辞儀をする。


「内生会。そして、会場のみなさま、シルビィア・ミスティ改め、わたしはマジェリスタ王国第一王女にして正妃の子女、王位継承権第一位である、シルビィア・マジェリスタと申します。この二年、我が異母兄達にして側妃達の子息、マジェリスタ王国第一から第五までの王子達が大変、ご迷惑をお掛け致しました」


深々と謝罪をすれば、どこかで息を呑む音がした。それはさておき、


「それからこの度の、わたしがフィリア・コーネリアン嬢を虐げた件ですが、わたしは何の関与もしていません。ですが、現状の内生会と彼女の関係性に関して、不満を抱き問題視していたのは事実。彼女と出会って以降、内生会のみなさまが役目を果たすことなく、身分を好き放題に振り翳して、この学園に不穏な空気を漂わせているのは、誰の目から見ても明らかですからね。しかも、内生会のみなさまは周囲の言葉もお聞きにならないのですから、コーネリアン嬢に非難の目が向けられるのは当然です」


顔を上げたわたしは、真剣に内生会を見据えた。

彼等は見るからに言葉に詰めた。どうやら、そろそろ冷静さを取り戻してきたらしい。良いことだ。


「わたしの父も色恋に盲目な時がありますから、内生会のみなさまの恋を否定することもしません。が、時と場合、自らの立場や周囲の目、方法や振る舞いをしっかりと考えて下さい。それと、虐げることが良いとは決して言いませんが、それをするだけの理由が、周囲にはあるんです。どんな理由であれ、向けられた以上は冷静に受け取り見極め、自分達の悪い点を探し、改善する方法を考えるべきです。この様に、大勢で罪を突き付けては、普通のお方は黙り込み罪を認めてしまい、詳しい話もろくに聞けず、真実がうやむやになるのは目に見えているでしょう? それは下手すれば、罪なき人の一生を台無しにするか、罪に不相応な罰を与えることになります。唯でさえ、コーネリアン嬢は男爵家で、みなさまとは身分不相応。しかも、一夫一妻制の法律さえ歪めてしまう勢いなのに、こんな横暴なやり方を続けたせいで、内生会のみなさまとコーネリアン嬢への、周囲の評価は物凄く不味いことになってます。既に、ドラクエル王達も内生会のみなさまを、どう処分すべきか審議にかけ始めていますし、もしもこの状態で卒業したら、身分剥奪で国外追放なんて話も出てるんですよ。今のままじゃ、どう転んでもみなさんにはろくな未来はないです。と言う訳で残り半年、内生会のみなさまとコーネリアン嬢は、国を出る準備をするか、縁を切るかにした方がいいですね。どの道、この国じゃ重婚は受け入れられないですし、今から周囲の信頼を取り戻すにしろ、それなりのけじめ、みなさまがダメになった原因である、コーネリアン嬢の排除は不可欠ですから」


淡々と語れば語る程、内生会は返す言葉もなく、驚きや戸惑いに入り混じり、最後にはやっぱり返す言葉はない様に俯いてしまった。

そんな酷く情けない姿に、わたしは兄様達が過ぎって思わず、声に出して笑ってしまった。

だが、雰囲気的にそんな状態ではないので、周囲の目が集まったことに、コホンと咳払いをして取り直す。


「えっと、もし国を出る覚悟を決めた際は、我がマジェリスタ王国に来て下さい。内生会のみなさまには特に、うちの王子達がお世話になったみたいですし、側妃達も王子達の初めての友達とだけあって、とても興味をお持ちなんですよ。みなさんで一緒にやり直せる場所くらいなら用意しますよ。ただ、振る舞い方は改めて貰いますし、自分の地位は自分で立て直して貰いますから、それなりに覚悟して置いて下さいね」


優しく微笑みかけると、彼等は唖然として、けれど、次の瞬間、ッ??!


『友達じゃない』


と言う様な意味の言葉が、十人揃って口から同時に大音量で飛び出すものだから、わたしはもうビックリして飛び跳ねてしまった。

会場も唖然としてしまって、ハッとした彼等はと言えば、ばつが悪そうに視線を逸らす。

そんな姿にわたしはまた、思わず吹き出してしまった。


「シィ、笑うのではない!」

「いや、否定するとこ、みなさん揃ってそこですか? ホント仲良いんですね。喧嘩する程仲が良い、って良く言いますけど、ホントそうなんですね!」


フフッと笑い続けて言葉を返せば、彼等はさらに文句言いたげであった。いや、言おうとしたのだ。だが、


「あぁもうッ!! 何なのよ、これ!!」


響いた女性の叫び声。

ビックリしたわたしや周りは、慌ててそちらを見た。


「ふぃ、フィリア?」

「こんなシナリオ知らないし、要らないわよ! 大体、やっぱり『ドキ学』にシルビィアなんてキャラいない筈よ! ルリアーナの断罪イベント起こす為に、わざわざ免罪被せようとしたのに、なんでこんな真面目説教女が出て来たのよ! もうシナリオがめちゃくちゃじゃない!! 内生会逆ハーの為に生まれ変わりに気付いてから今日まで、いろんなこと頑張って来たのに、訳分かんないし全部水の泡ッ!! それもこれも全部、外生会、あんた達のせいよ!!」


え? 何事だ? ずっと俯いていたから気にはなっていたが、フィリア・コーネリアンはなぜ、こんなにも怒っているのだ。

まさに鬼の形相。あの側妃達でも見たことがない。


「おいおい、フィリア嬢、それは逆恨みだろう」

「ボク達、中二病を拗らせて、何を言っても無駄なキミに、直接的に何かした覚えはないもん」

「独り言をいくらか聞いた覚えはあるけど、聞こえる様に言ったのは君だしねぇ」

「むしろ、文句を言いたいのはこちらだ。貴様のせいで俺達がどんなに被害を被ったか」

「おれ等は面倒ごとと一緒に、その被害の原因を絶とうとしただけだよ。まぁ失敗しちゃったけど、とりあえず、きみだけは排除しときたいね。ってことで、そろそろ、現実見たらどう?」


一方、そんな鬼を化したフィリア嬢に睨まれたと言うのに、さも呆れ、いや、酷く軽蔑している様子で言葉を返す。


「うるさい! ホントに何なのよ、あんた達!! 内生会の周りを付き纏って、イベントは潰されるし、シナリオも訳分かんないじゃない! ここは『ドキ学』の世界で、わたしの世界なのよ! わたしはこの断罪イベントが終わったら、王太子妃になって、国民中に認められる王妃として幸せになった筈なのよ! モブ風情がヒロインであるわたしの邪魔して、唯で済むとは思わないでッ!! このバグ共がッ!!」


喚き散らすフィリア嬢。

そんないつもとはまるで違う姿に、内生会も周囲も唖然として、思わずと言う様に距離を取った。

唯一、状況が分かっているであろう外生会は、目も当てていられない、と息を吐いた。

わたしと言えば、訳が分からず立ち尽くしてしまう。その間にも事態は進む。


「許さないッ!! バグは消してやるッ!! そして、やり直すのよッ!!」


フィリア・コーネリアンは念じる様に叫びながら、懐から、ッ?!


「消えろッ!! 消えろッ!! 消えろぉッ!!」


響く声。鋭く尖ったナイフを手に、フィリア・コーネリアン嬢だった狂人は、外生会に向けて駆け出した。

いくつもの悲鳴が、驚愕だった会場を恐怖やどよめきに彩る。


「ダメッ!!」


咄嗟だった。思えば、兄様達が初心者相手に後れを取る訳がなかった。でも、放って置ける筈がなかったのだ。


「シィッ?!」


切羽詰まった呼び声が聞こえた時には、わたしはナイフの刃先の前に飛び出していた。

胸部に迫る勢いある刃。今さら、防ぐ方法がないことが分かり、わたしは痛みを覚悟に目を堅く閉ざした。次の瞬間、


「危ないッ!!」

「キャッ?!」


押し倒される様に抱き締められた体は、その相手と共に床に転がり込んだ。


上品で優しいドラクエル王国特有のサキュルの花の独特な香りに包まれる。

なぜか、酷く懐かしい感覚に見舞われた。

それらに意識を奪われている間、体は横なりに転がり、金属がぶつかり合う音が耳に突き刺さる。

三四回ほど転がった後、わたし達は止まった。現状も下敷きにしてしまっている相手の体が大きく、程良く引き締まっているお陰で、包まれる様だったわたしへの負担は軽い。

周りが騒がしくなるのを感じながら、わたしはゆっくりと目を開けた。そして、ッ!!


「な、内生会長?! ご、ごめんなさーー」

「怪我は?!」


下敷きにしてしまっているのが、国内生徒会会長にして、ドラクエル王国第一王子、レイオス・ドラクエル王太子殿下であることに気が付き、慌てて体を起こしたところで、彼は血相を変えて勢い良く起き上がり、わたしの肩を掴み食い入る様に尋ねて来た。


「あ、だ、大丈夫です……」


その必死さにわたしはビックリして、なぜか胸が高鳴った。

彼とはさっきも向かい合っていた筈だ。でも、さっきとはまるで違う。

雰囲気と言うか、眼差しと言うか、近距離なせいもあってか、美形だなと思っていた彼が、本当に綺麗な凛々しい顔立ちをしているのが分かった。

答えながらも、彼から目を離せず、わたしはこの不自然な鼓動の高鳴りや、体温の上昇に戸惑いを覚えた。


「そうーー」

「シィッ! 怪我は?!」

「レイオスくん、助けてくれたのは感謝したいけど、シィにいつまでも触っちゃダメなの!!」

「シィはまだ、婚約者も持たない初な子なんだから、間違いがあっちゃいけないでしょ?!」


ホッとして力を抜かした彼にまた鼓動が高鳴った瞬間、割り込んで来た兄達によって、わたしは強引に抱き上げられて引き離される。


「えっ、あ…い、いや……」


内生会長はそんな意味不明な心配をする馬鹿どもに、目を白黒させて言葉に困っている様だった。

何か変だ。彼の一つ一つの仕草が、目に、心に焼き付く。とてもドキドキしてしまった。


「殿下、お怪我はありませんか?」

「ああ、わた……僕は大丈夫だ……」


そんな思いで眺めていれば、間髪入れず、内生会長は副会長の筆頭公爵の嫡子にして宰相の子息、アルヴィン・ラフレシアによって助け起こされる。


どうやら、なんだか戸惑っている様だったが、本当に怪我はないらしい。良かった。

……この高鳴りの正体は置いておこう。分からない以上、気にしても無駄だからな。


「既に、ガイア様とルシウス様が動いてたのに、どうしてこんな無茶を……殿下に何かあったら、僕らが困るんですからね」

「あ、ああ。すまない……」


書記である医療面で目立つ伯爵家の三男、ハロルド・ベンジャミンの発言に、言い淀む内生会長の表情は暗い。その視線の先は、と言えば……フム。


「離してッ?! 離しなさいよッ!! このバグ共がッ!!」

「大事な妹、殺害未遂した奴を殺気立った状態のまま、野放しに出来る訳がなかろう?」


ヴァラド兄様兄様に腕を取られ、うつ伏せに床に抑え付けられながらも、狂った様に喚き続ける観るもおぞましい狂人。


「寧ろ、止める際に魔法を使わなかったのを感謝して欲しいし、未遂じゃなかったら、この場で腕一二本は切り落としてたよ。さて、何言われても離す気ないけど、君たちはこれをどうしたい?」


クォンツ兄様はそれを目が笑っていない微笑を携え見下した。その後、傍に立って見下ろしている、剣を懐にしまっている庶務にして、騎士団長の子息、ガイア・ゼジルドと、フィリア・コーネリアンが持っていたナイフを持つ会計、ドラクエル王国一番の商家の次男、ルシウス・シャーロンに問うた。


彼等は狂人を前に、俯き苦悩の沈黙をした後、ゆっくりと顔を上げた。

お互いに顔を見合わせ、内生会長達三人に確認を取る様に視線を向けた。

内生会長は迷った様子はない。その二人の視線を受け、両脇に立つ二人が決意したのを確認してから、ゆっくりと口を開いた。


「衛兵! シルビィア・マジェリスタ王女、殺害未遂の現行犯として、この者、フィリア・コーネリアン男爵令嬢を捕らえよ!!」


狂人の叫びだけが響く会場に、内生会長の覇気ある声が木霊し、その場はようやく、終演を迎えたのであった……。




ーーーーーーーーーーーーーーー 後日 ーーーーーーーーーーーーーーー




あの騒ぎから半年が経つ。


フィリア・コーネリアン嬢が捕まった為に、騒ぎはより大きな、それこそ、国交問題になっても可笑しくないものへと変わってしまった。


とはいえ、あの騒ぎはうちの馬鹿兄共の責もあり、内生会長がわたしを庇い、フィリア・コーネリアン嬢を捕らえたことも評価され、両国の王同士で既にあらかたの問題は覚悟していた為、後始末は大した手間は掛からなかった。


とりあえず、その後を簡単に説明して行こう。


フィリア・コーネリアンはあの後、罪人として捕らえられ、身分剥奪後にドラクエル王国内で生き地獄と言われている教会に送られたそうだ。

最後まで、“おとめげーむ”だの、“しなりお”だの、ぶつぶつと喚いていたそうで、訳を知っているであろう兄様達に聞けば、現実と妄想がまるで別物だと分かる良い見本となった、と意味の分からないことを言いながら、苦笑いをしていたので、彼等にしか分からない何かがあるらしく、深く聞くことは叶わなかった。


それで、わたし達だが、兄様達は勿論、わたしも三日と経たず、容赦なく連れ戻された。

兄様達は学園入学までの半年間は母親の下、それぞれの後宮で徹底的に鍛え直された。

ルドルフ兄様は泣きながら諭して来る母親に精神的に大ダメージを負い、クォンツ兄様は柔らか笑顔の母親の監視を前に大量の資料を片付けさせられ、ヴァラド兄様は鬼と化した母親に毎日のごとく剣でしごかれ、ウルティ兄様はわがまま放題の母親の無理難題に問答無用で付き合わされ、リオラ兄様はにこにこ笑顔の母親に自室と言う名の牢獄に入れられて虐められ、それはもうそれぞれの個性が良く出た、とっても辛い半年間を過ごした様だった。


正直、兄様達の逃げ出したくなる気持ちも、重々に分かる。きっと、それはわたしだけでなく、側妃達の恐ろしさを知る者は皆、兄様達を不憫に思っただろう。

まぁ、今回のは自業自得だろうが。


そんな訳で、半年ぶりに後宮から出て来た兄様達は、見る影もなく干からびてしまっていた。

まぁ、訳知りの者達の前だけで、他の者達の前では立派な王子様だったので、大した問題ではないだろう。


わたしはあの後、お父様と側仕えに軽く咎められてしまった。

何をかと言われれば、ナイフの前に飛び出した件で、王女たる者、咄嗟の判断での行動は褒められたものではない、とのことだ。

お母様の忘れ形見であるわたしは、昔からお転婆な節があるから、お父様も側仕えもとても心配してくれる。


そんなこんなで、自宅である王宮後宮で過ごしたわたし達王子王女は今、マジェリスタ王国の王立魔法学園で、一から学び直す準備をしているのだ。


内生会も半年間は意識を切り替え、一からやり直していたらしい。


元より、彼等は身分に見合った、いや、それ以上の実力を持っていた。

あの騒ぎでフィリア・コーネリアンとは縁を切り、いろいろなショックを抱えながらも、それぞれ家族や婚約者、内生会内で話し合った末、生徒達や周囲の者達に謝罪して、憑き物が取れた様に以前の彼等に戻り、自分達の罪や過ちに向き合い、毎日を努力して信用を取り戻すことに注ぎ込んだらしい。

特に、内生会長は昔より、積極的に様々なことを取り組み始めたそうだ。他の四人も事ある毎に誘っては、今まで身分や役職上から仕方なくだった関係ではなく、一友人として仲を深めているらしい。


あの事件で、彼にどんな変化があったかは分からないが、とても良い変化だと思う。兄様達に教えてあげれば、なんだか微妙な面もちで嫌な予感がするとか何とか言っていた。


と、そんな努力の甲斐あって、親達や学園の生徒達の信用を取り戻し始めた彼等は、あの学園を無事に卒業し、元々の予定通りの人生にある目的を増やし、改めて踏み出し始めた様だった。


え? 増やした目的? それは……えっと。



「シルビィア・マジェリスタ王女、あの様な無様な姿を見せて置きながら、まだ時が浅い内にこんな申し出、本当に許されることではないと思う。だがこの半年、僕は君を忘れたことがなかった。あの間違いを正してくれた言葉も、凛々しく真剣な姿も、優しく可憐な笑顔も、僕は片時も忘れられなかった。君がいたから、僕はもう一度、やり直そうと立ち直れた。今、君の姿を見て、やはり伝えたいと、諦め切れないと思えた」


突然、我が国に、そして、王宮に訪ねて来た彼は、客間で出迎えたわたしを前に、わたしの側仕えや王宮の使用人達の目も憚らず跪き、わたしを見上げて語り出した。

その目も姿も酷く真剣で、目が離せなくて、あの時を思い出させる。


わたしも正直、彼を忘れたことはなかった。この感覚を忘れたことがなかった。


唖然として見下ろすわたしの手を取り、彼はその手の甲に口付けた。

溢れて来たドキドキ。体温が上がったことを思い知らせる。


「これは、僕の身勝手な誓いだ。無視してくれても良い。嫌ならば、間違いだと思うならば、あの時の様に、僕を正してくれ」


熱の秘めた漆黒の瞳がわたしを映す。サラサラな黒髪が揺れ、彼 レイオス・ドラクエル王太子殿下は、蕾の様な唇を開いた。


「シルビィア王女、君が愛おしい。その心が欲しくて堪らない。だから、僕はこれから君の傍で、君の隣に立つに相応しい男になる。君や周囲に認められる存在になる。そしていつか必ず、君の心を奪ってみせよう」


耳に心地良いその声が心に響き、顔が赤いのを自覚しながらも、わたしは息を呑み、そしてーー


『待ったぁッ!!』

「ふぇっ?!」

「ッ」


勢い良く開かれた扉。駆け込んで来たのは、ッ?!


「兄様達、なんでここにーー」

「レイオス! お前、どう言うつもりだ?!」


駆け込んで来た、学園の寮で三日後の入学式に備えている筈の兄様達は、立ち上がった殿下に詰め寄った。


「どう言うつもりも何も、魔法を本格的に習いに来ただけだ。マジェリスタ王国は魔法大国だからな。君達が教え、引き出してくれたのだろう? 僕達の魔力を」

「いや、そうだけど、それとこれとはーー」

「ドラクエル王国では魔法は夢物語に近かったから、習うにはここまで留学に来なければならなかっただけだ。それより、アルヴィン達はどうした? 先に寮に向かわせた筈だが?」


殿下は先程までと一転、慌てるルドルフ兄様に平然と言葉を返す……留学?!


「留学の件は後だ! シィに何を言った?!」

「あぁそれと、あの足止め連中なら叩き潰して来たから問題ないよ」

「叩き潰された覚えはありませんよ。レイオス、申し訳ありません。隙を突かれました」

「こいつ等、魔法使いやがったんだぞ。下手したら、死んでた……」


ヴァラド兄様の問いにドキリとし、クォンツ兄様の報告に別の意味でドキリとした瞬間、新しく部屋に駆け込んで来た元内生会のみなさん。


「シルビィア王女には、伝えるべきことは伝えたから問題ない。それより、実の母君である側妃様方の国賓に向けて、堂々と攻撃を仕掛けるとは、随分な出迎えの仕方だな、マジェリスタ王子殿下方?」


殿下の発言に、わたしは驚きと恥ずかしさに見舞われ、兄様達は見るからに血の気を引かせ、元内生会はおぉっと称える様子。


「シィ! 騙されちゃダメなの!」

「そうだよ! 何言われても無視して良いんだからねぇ!」

「えっ、いや、でも……ここまで来て貰って、あんな真剣に言って貰って、無碍にする訳には……」


飛び付いて来たウルティ兄様とリオラ兄様。

わたしは熱い頬を抑えながら、周囲をオロオロと見ながら答えてしまう。

彼等はわたしの反応に何か感じ取ったらしく、両者わたしを置いて向き合った。


「駄目だぞ!! 俺達はこんな奴は認めん!!」

「王と側妃様方はシルビィア王女が受け入れてくれさえすれば、王子殿下方の気持ちは無視して構わない、とお許しを頂いている。そろそろ、妹離れの時期だとか。婚約者の選別もしているそうだぞ?」

「ッ!! あの人達ったら、悉く何の報せもしないんだからぁ!!」

「報せると逃げられるのが目に見えていらっしゃるから、だそうですね。貴方様方は少し目を離すと逃げてしまって、どこで教育を間違えてしまったのかと嘆いて居られましたよ」

「……随分とうちの母親達とよろしくやってるみたいだね。人の弱点を攻めるなんて、狡いやり方だと思わない?」

「その言葉、そのまま返す……」

「あんた等、学園じゃあ毎度のごとく、人の弱みに付け込んでたじゃんか」

「そんなことないよ? ボク達、普通にお話ししただけだもん!」

「白々しいね。大概、君たちらしいが」

「とにかく! 私達はシィをお前達には渡さないからな!!」


元内生会と元外生会、一緒にするとぶつかるのは、日常茶飯事だ。

とはいえ、 内容が内容だけにオロオロと戸惑ってしまうのは仕方がないと思う。


「姫様がお困りな故~、両者共にそこまでにしてくれませんか~? 王子殿下方と~ドラクエル王国御一行の皆様~」


そんなわたしを救う為に割り込んだその伸びやかな声。

言い争っていた彼等もピタリと言葉を止め、その声の持ち主に注目を集めた。

わたしの真後ろにいる為、わたしに視線が集まるに近い。その状態に戸惑っていたわたしはビックリして、声を発した張本人の後ろに退避した。


「ドラクエル王国御一行の皆様は~初めましてですね~。シルビィア姫様の側仕えの~エルサです~。可愛らしい姫様を取り合う気持ちは~重々に分かりますけど~、こんな風に戸惑わせちゃぁ~取り合う以前に距離を置かれちゃうと思いますよ~。姫様は責任感が強いですから~自分のことで争いが起こってたら~責任感じちゃうんですよ~」


わたしより一つ年下のエルサは、お父様が他国から珍しく拾って来た孤児の少女で、五年ほど前からお側付きをしてくれている。

マイペースでのんびりな口調だが、使用人としては勿論、魔法や戦闘、諜報作業に長けていて、天才少女だと騒がれているのだ。

半年前の騒ぎでは出て行こうと思えば出て来られたらしいが、ここは王子様の出番だと身を引いたそう。


エルサの伸びやかな指摘に、両者共に返す言葉もないらしく、隠れてしまっているわたしを伺いながらシュンとする。


「それから~皆様~学生寮の方より~早急に戻る様にとの要請です~。随分と散らかして来たみたいですからね~。皆様に関しては~皆様のご家族の方々から~、遠慮なく特に厳しくする様に~との申し付けをされているので~、早く戻った方がいいと思いますよ~。あの学園~問題児にはとことん厳しいですから~。ま~、皆様の自業自得ですし~姫様を取り合うんですから~、その程度の試練は乗り越えて貰わないと~このエルサが皆様を排除しちゃうんですけどね~。分かったら~今すぐ出直して来て下さいな~」


のんびりで笑顔だが、その言葉は彼等に大きなダメージを与えた様だった。

実際、目の前の彼等の顔色が、見るからに物凄く悪いから。

どうやら、彼等の弱点は家族らしい。そんなにこの半年間が辛かったのかと、なんだか心配になった。


「あ、あのッ!」


わたしはそんな彼等を前に、これだけはと前に飛び出す。


「みなさんの気持ち、ちゃんと伝わりました! わたし、良く考えますし、見てますから、殿下達も兄様達も、学園で頑張って下さいね!」


柔らかな笑みでエールを送れば、彼等は息を呑む。


「レイオス、で構わない」

「ふぇ?」

「名前で呼んでくれないか? 君の声で僕の名を呼んで欲しい」


即座に目の前にやって来て、強請る様に器用に上目遣いする殿下。

突然の申し出に火を噴く勢いで真っ赤になったわたしは、彼の背後で声なく争う彼等を視界に入れながらも、あぅあぅと口を動かしてキュッと唇を結び、覚悟を決めた。


「レイオス、様……」


震える声で呼べば、なぜか彼は身動ぎ、俯いてしまった。


「だ、大丈夫ですか? でん……レイオス様」

「ッ!! あ、ああ、いや、大丈夫ではないかもしれない……」

「えぇ?! ど、どこか、痛いところでもーー」

「君が愛おし過ぎて、どうにかなってしまいそうだ……」

「……ッ~~?!!」


慌てて駆け寄って、肩に触れて覗き込むと、レイオス様は頬を赤らめ瞳に熱を込めた瞳で見つめ返して来た。わたしの銀髪を梳きながら、甘く囁かれた言葉にビックリして、物凄く恥ずかしくて、わたしは耳まで真っ赤にしながら、飛び跳ねる様に後退してしまう。


「どうにかなる様なことを無くす為に、寮でゆっくり語ろうじゃないか、この女たらし殿下」

「無くす気はない上、僕はこの先、彼女以外を愛する気はないから、君達と話し合う必要性はないな。だが、寮には戻らなければ、な。シルビィア王女、今日は突然の来訪を受け入れてくれてありがとう。これで、失礼させて頂く。次からはしっかり、アポを取って伺わせて貰おう」

「次などあるか! 俺達がーー」

「ほらほら~、挨拶が済んだなら~さっさと帰って下さいな~。じゃなきゃ~皆様のご家族方にこの場で起こった、あることないこと意地悪く報告しちゃいますよ~」

『ッ』


元内生会のみなさんに邪魔されていた、兄様達の静かな怒りを無視して、レイオス様は改まって微笑んだ。

ドラクエル王国の学園では、兄様達が言葉では勝っていた気がするが、現状を見る限り、彼等は本当の意味で互角の様だった。この件に関しては、珍しく兄様達が劣勢に立っている。

前は、言い返すことをせず黙秘していたレイオス様が、積極的に切り返すことが影響をしているのだと分かった。


また始まってしまいそうな言い争いは、エルサののほほん発言にピタリと勢いを無くし、彼等はこれ以上は不味いと判断した様で、わたしに一時的にお別れを告げ、半ば逃げる様に足早に部屋を去っていった。


颯爽と現れて、颯爽と去っていった彼等を合図に、王宮内はいつもの落ち着いた高貴な静寂が戻って来る。

わたしは異様な疲労感に包まれながらも、その静寂に微かな寂しさを抱いた。


「そんなに脅さなくても良かったんですよ?」

「いえいえ~、ああ言う輩には手厳しくしないと~すぐ調子に乗りますからね~。前科もあるんですから~、弱みはしっかり握って置かなければいけないんですよ~。姫様は普段から甘過ぎるんです~」


ソファに腰を下ろしたわたしに、そっと淹れ立ての紅茶を出してくれるエルサ。

その発言にわたしは柔らかに笑み、紅茶に口を付けた。


「伝えたいことはちゃんと伝えてますよ。それに、エルサや周りが彼等をとことん厳しくしてくれるんです。わたしの役目は、彼等の変化や誓いの結末を、最初に指摘した者として、しっかりと見届けることだと思うんですよ」

「姫様は相変わらず~他人のことは命に関わるか~自分に悪い意味の被害がない限り~徹底した傍観主義者ですね~。なのに~関わる時はとことん関わる気分屋ですから~、見てるこっちは気が気じゃないですよ~」

「やりたいことをやってるだけです。人生、楽しく生きなきゃ勿体ないですし、どんな時も素直に正直に自分らしくいれば、絶対に幸せになれるんですからね!」


自信満々に宣言すると、エルサは聞き慣れているのに、しっかりと肯定してくれた。

それは、これが亡き母の口癖であり、お父様がわたしに教えてくれた言葉だからだろう。


ソフィーナ・マジェリスタ。

銀の髪に黄金の瞳を持つ、儚げで可愛らしい人だった。

生まれ付き病弱だが、常に優しい笑顔で元気に振る舞っている、強くて優しくて立派な正妃。

わたしを産み落とした際に亡くなった、お父様の最愛の人。


……実を言えば、幼いわたしは決して、褒められた王女ではなかった。

自分勝手で理不尽な我が儘王女、そんな肩書きに見合う、最低な少女だったのだ。


理由は孤独だった。

お父様は物心着く頃から、仕事ばかりの人間だった。使用人達とは距離があり、わたしは常に孤独を感じていた。

それを紛らわす為に、我が儘放題にやっていた。


あの時の自分は本当に理不尽過ぎて、付き合わせた使用人達には、本当に悪いことをしてしまったと、今でも思ってしまう。

どんな理由があれ、人を陥れる様な行いを、感情任せにやって良い訳がないのだ。

そんな当然のことさえ、怒ってくれる人のいない幼いわたしは、まるで知らなかった。


そんなわたしを怒ったり、わたしの為に泣いたりして、本気で向き合ってくれ、お父様とのすれ違いを気付かせて、孤独感を打ち消してくれたのが、その時は仲が良いとは決して言えなかった兄様達だ。


王位を取り合う仲で性格も似ても似つかないと言うのに、彼等は昔からわたしには分からない、あのフィリア・コーネリアンの発言が関連付いているであろう、何らかの事情と目的に意気投合していた。

そのせいか、常に予測不能な行動ばかりを繰り返す、親不孝者ではた迷惑な兄達である。


でも、彼等が兄だったから、わたしは今、こんな風に笑っていられる。

大事で大好きな兄達。だからこそ、挨拶なくいなくなった家出の件は許す気はないが、いつか離れる時が来るならば、その時までには彼等が隠している事情と目的を、彼等自身の言葉で話して欲しい、と言うのはわたしの密かな仲間外れのやきもちから生まれた野望だ。


「それで~姫様はレイオス殿下からのプロポーズ~、どうお答えするんですか~?」

「ッ?!」


急に話題が変わって、わたしは思わず咽せてしまう。

アラアラとでも言う様に、エルサは背中をさすった。


「そ、それは……え、エルサはわたしが余所に嫁いだら、どうするんですか?」

「私は十六を過ぎたら~、あるお方に嫁ぐことが決まってるんです~。残念ですけど~姫様のお側にはずっといられないんですよね~」

「……ふぇ?」


その初耳過ぎる話に、自分のことをうやむやにしようと必死だったわたしは、思わず間の抜けた声を上げて彼女を見た。


「ま~安心して下さいな~。姫様に何かあった際はこのエルサ~、いつでもどこでも駆け付けますからね~。姫様は私にとって~、唯一無二の大事な大事な宝物ですからね~」

「そ、それは嬉しいですけど、あなた、嫁ぐってどう言うことですか?! 一体、どこの誰に?!」


詰め寄る様に問い質せば、エルサは後のお楽しみです~、と笑みを浮かべるばかり。

その笑みが初めて見るくらい幸せそうで、わたしは唖然としてしまう。


どうやら、無理やり、と言う訳ではないらしい。寧ろ、恋愛婚と見て間違いない。

わたしの側仕えとして休みもなく、同時に親しい男性もいないし、作ろうとする節もないから、そう言う面には興味がないと思っていた。

でも、それは完全な、わたしの勘違いだったらしい。ちょっとショックだ。みなさん、なんだかんだ言ってわたしに隠していることが多い気がする。さすがに、拗ねてしまうぞ。


「姫様はやきもち焼きですね~。心配せずとも~姫様が一人になることはないですから~、姫様は周りを信じて~笑っていて下さればいいんですよ~。皆様~姫様が大好きですから~」

「……どこから来るんですか、その自信?」


そんなわたしの不機嫌を察してか、隣に腰を下ろして、ギュウッと抱き付いてくるエルサに、わたしは首を傾げた。


「そうですね~。じゃあ~このエルサ~、これから起こることを予言しちゃいます~」

「“予言”?」

「はい~。絶対に当たりますよ~」


自信満々のエルサはわたしの耳元で、そっと呟き始めた……。




ーーーーーーーーーーーーーーーとある王室ーーーーーーーーーーーーーーー




「アリシア・ファンタシア、本当に実在する様だな……」


つい一週間前、ある領で起こった問題に関しての資料を目に通しながら、彼は今さらなことをぼやいた。


「あら? 信じてなかったの」

「そう言う訳ではない。ただ、改めて、実感しただけだ」

「どうだかね。シルビィアは始終、不思議いっぱいって感じで可愛い顔してたわよ。それにそもそも、普通の人だったら信じない話でしょうね。前世云々は勿論、ここが乙女ゲームの世界で、その子が主人公、あの子達がその攻略対象と悪役だなんて」


私がにこにこと告げると、彼はただでさえ、強面な顔を目を細めることで怖くした。

そんな顔も好きだから、私は笑みを深める。


平民の村の町娘が莫大な聖属性を覚醒させた。

火、水、風、土、雷、聖の六属性の魔力を体内に秘め、呪文や魔法陣で引き出すことにより、マジェリスタの魔法は成り立っている。

十中八九、上流貴族の者達に宿る魔力。平民に、それも、六属性の中で、十年に一度と言われる希少な聖属性を秘めた少女。

魔法によって地位を築く、マジェリスタに置いても、魔力保持者という者は宝だ。聖属性ならば尚更、伸ばし利用しない手はない。

だから、少女は十五歳の魔力保持者が必ず通う、貴族の令息令嬢の巣窟と化した、三年制の全寮学園、王立魔法学園に入学を余儀なくされるのだ。

そして、王子殿下達に出会い、恋に落ちて行くと同時に、冷酷非道で傍若無人な我が儘王女を断罪することが、あの王道ゲームの基本ストーリーとなる。


まぁ、現状は変わり過ぎて、どうなるかも分からない。

少なくとも、シルビィアが悪役として断罪させることはもちろん、独りになることはない

そんなこと、私とディオルグが許さない。大事な宝物だものだもん。私と彼の愛の結晶だ。


何より、彼等だってそれを良しとしない。万が一にも、ヒロインと恋に落ちても、他の人に恋をしても、彼等があの子を傷付ける様なことはしないだろう。

それぞれ思いは違えど、あの子を守ろうとしてくれるのは確かだ。前世であれ、現世であれ、あの子は彼等にとって、救ってくれた存在なんだから。


だから、私達親の出番は殆どないと見ている。


「……何かことを起こす際は、余に話を通せ。ルドルフ達もだが、そなたも相変わらず、何をしでかすか分からぬ」


何度も言われて来た、心配性の言葉。

私は嬉しく思って笑う。


「心配しなくても、私は何もしないし、あの子達も大丈夫よ。なんだかんだ言っても、自分の責任は取れる子達だもの。ちゃんと、自分達の前世が定めた役割と、しっかり向き合ってくれるわ」


幼少期に前世の記憶やゲームの記憶を思い出し、シルビィアの悪役への道を閉ざした上で、他国へと逃げることによって、王位ごとゲームからフェードアウトしようとした、マジェリスタ王子殿下達。

王子殿下達が行き着いた先で、前世などすっかり忘れて、前世で彼等のゲーム作りのきっかけとなった[ドキ学]の設定をこなしていた、ドラクエル王子殿下や上流貴族の子息達。


まるで、運命の様な再会だろう。

シルビィアに生まれ変わったあの子がきっかけだったとはいえ、前世での彼等の縁は深い。

現世では、生まれ落ちた場所の事情で、チーム戦と化しているが、元は個人戦だった。

十人それぞれの間に、それぞれの関係があり、あの子との思い出以外の特別な接点を増やして行った。

兄弟や従兄弟であったり、幼なじみや親友、好敵手であったり……とりあえず、記憶があると無視できない存在にはなっていた。


だから、マジェリスタ王子殿下達は、放って置くことが出来なかった。

上手くフェードアウトして、こちらも行き先が分かっていなかったのに、外生会などと言う目立つ仕事に手を出したのは、内生会である彼等と対等でありたいと望んだから。

そのせいで、シルビィアと側妃達に居場所がバレて、元より知っていた私とディオルグが、どうにかシルビィアをお目付役で送る、と言う結論で納得させるのに手間取ってしまった。


それに結局、[ドキ学]の設定を覆せず、自分達では止められないと判断し、シルビィアに押し付けたのは、どうかと思ったけれど、現状を見る限り、それは正しい判断だったのだ。

十人とも、この半年でしっかりと反省し、今こうやって立て直し、ヒロインに備えられている。

迷惑を掛けた何も知らないシルビィアを守る為、前世同様に手を組もうとしているのだ。


彼等は自分のことだと後回しにしたり、どこか抜けていたりするが、守るものがある場合の行動では手を抜かない。特に、あの子を守ることに関しては、彼等は一時休戦はもちろんのこと、当たり前の様に手を組み、各々の得意分野を生かした抜かりない作戦で手を打ってくるのだ。

それは前世で嫌と言う程に理解してしまった。彼等はあの子の心からの笑顔の為ならば、どんなプライドも捨ててしまえる。


そう聞くと、危険な関係とも見えるだろう。それこそ、あのフィリア・コーネリアンの時同様の逆ハーレム状態だ。

でもまぁ、あの関係は実質的には、国や組織と変わらないのだ。

王やリーダーの方針によって、姿形を変えていくそれらの様に、中心である人物によって、逆ハーレムもあり方を変える。


あの子は孤独が嫌いだ。でもそれ以上に、誰かの涙が苦手で、誰かの不幸が嫌いだった。

他人のために自分を犠牲にしがちで、嘘か真かは外れなく見分けられるのに、自分への感情だけにはとことん鈍い。

彼らの隠し事に感づき仲間外れに焼きながらも、その隠し事に自分が深く関わっていることは愚か、彼らが自分を守ろうとしていることなど、まるで気付いちゃいない。

筋金入りのお人好しで鈍感な子。正直、見ていて本当に自分の子か疑いたいくらいには、あの子はお馬鹿で無防備過ぎる。


どうせ、逆ハーレムを築かずとも、あの子は危険な目に遭う。だったら、守ってくれる王子様は多い方が良いに限る。

王子様達内の争いごとの心配はない。

あの子の笑顔が自分達の笑顔に繋がることが分かっているから、彼等はあの子の笑顔が消える様なことはしない。

争うにしろ、公式的なものか殺傷率がないものとなる。だから基本、あの子の前では口論か成績の競い合いくらいだ。

それ以外でも、あの子が心配したり悲しんだりしない程度には、限度を弁えて向き合っていて、あの子の前では冗談を言う様な程度しか話題に出さない。


あの子は彼等にとって、汚れを知らない女神に近い。

だからこそ、現状が成り立っている。まぁ、例外が一人いるが……


「レイオス君の切り替えの早さは凄まじかったわよね。あの子ともう一度、結ばれたいが故の愛の力だわ。前世から女の子にしとくには勿体なかったけど、さすがあの子が恋をした子ってことね。ま、他の九人も十分、お勧め物件だと思うけど。令嬢達がシルビィアを羨み妬む理由も分かるわ」


性格は個性的でも、一途な方だし、家柄も実力も容姿も、他の男なんか比べものにならないくらいハイスペック。さすが、乙女ゲームの攻略対象だ。ううん、前世からああだったから、さすが乙女ゲームの攻略対象に選ばれる程の子達、の方が正しいか。


「そなたもやはり、そう思うのか……」

「?」


呟き声に隣を見れば、どうやら聞かせるつもりはなかった様で、彼は微かに慌てて、でも、有耶無耶にする気はない様だ。


「い、いや……そなた、せっかく健康に生まれ変わったのだ。少しは、自らの為に時間を使うなり、歳に見合ったことを、だな……。余に遠慮する必要も、気に留める必要もないのだ。余は、そなたが幸せに生きていてさえくれれば、何も望む気はないのだから」


……ヤバい。凄く健気で可愛い。でも、相変わらず心外だ。

子どもと恋愛なんて出来る訳ない。いや訂正。私が目の前で見るからに落ち込んでる彼以外に、彼を焼かせる以外の目的でどうして、そんな対象として見られようか。


その思いから、私はらしくなく溜め息を零す。そして、ビクリと隣で震えた彼にさらに身を寄せ、ジト目で見上げた。


「私が誰だか分かってる?」

「ッ?! わ、分かって居る。だが、ソフィーナ、そなたはエルサとして、生き直すこともーー」

「たとえ、ソフィーナの記憶がなかろうと、その前の記憶がなかろうと、私があなた以外をそう言う意味で愛せないわ。あなた以上に愛おしい人なんて、どこにもいない」


はっきりと言い切ってやれば、彼は初心の如く顔を赤らめて視線をさまよわせる。

言葉でここまで動揺するなど、可愛すぎて襲いたくなる。


まぁ、初心には変わりない。王子の頃から、仕事にしか興味がなく、女性と距離を置きがちだった彼は、男女の関係が豊富とは言えない。

側妃達とはせいぜい、王子殿下達を産む為にやった程度だ。ソフィーナとも体調の関係で、まるで手を出して来なかったからな。そして、愛情に縁が遠く、感情を押し込めがち。

一夫多妻制の国の王とは思えない初さだ。だからこそ、私はその心を私の愛で満たしてやりたいと思えてくる。


「ディオルグ、愛してる」


私は息をのむ彼の唇を奪った。

可愛い可愛い私の王様。

子供達のことは心配だけれど、私にとって何よりも重要なのは、どうやってこの身分から彼の妃になるか、だ。別に、正妃でなくとも良い。彼の愛を受け取れる身分であれば、彼の隣にいられれば、私はそれで十分だからな。


「私の一番の幸せは、あなたの隣にいることよ」


何度生まれ変わっても、私は彼に出会い結ばれる。そして、あの子が産まれて、その波乱に満ちたあの子の人生を見守る。

それが、私の満たされた人生だ。

それだけで、私は幸せだと胸を張れる。


運命は予測不可能。だからこそ、私はやりたいことをやって、自分の幸せをもぎ取ってみせる。




これは、とある乙女ゲーム世界に転生した者達が、決められた運命に翻弄されながらも、懸命に生きて行く物語の中間地点。

誰にも予測できない、転生者を交えた人生の物語であった……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 理不尽である。免罪である。わたしは無実だ。 の免罪であるは、冤罪の間違いでは?
[気になる点] 「この国は我がマジェリスタ王国の様に、重婚を許さず一夫一妻制を法で定め、以下略」  一夫一妻制のはずのマジェリスタに側妃が存在しています。 「マジェリスタ王国とは異なり」等に訂正する…
[気になる点] 国境問題になっても可笑しくないものへと変わってしまった。 国交 
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