場面4*秘密の理由
一方、ケイ様は BARに戻る途中に 取り巻きの女の子達に見つかり、一緒に職場のお店に向かっていた。
BARに帰る場合は、お客様としてお店で接客が出来るので、女性客に見つかっても何の問題もないからだ。
「ねぇねぇ、ケイ様には彼女さんいないんですか?」
「その『様』を『サン』に代えてもらえませんか?彼女さんは ご想像にお任せしますよ。」
恐縮しながら答える。
お客様と そんないつもの会話をしながら、ケイが働くBARに着き、カウンターの奥の支度場。ケイを送り出した同僚の中田が、笑顔で近づいてきて。
「大丈夫やったか~?一瞬ヤバかったんじゃね?」
と楽しそうに話しかけてきた。
そんな中田にケイも、笑顔で軽く(?)二の腕辺りにパンチをお見舞いした。
「イッテ!お!?その顔は無事会えたな~!月チャン相変わらず可愛いかったか?」
二の腕をさすりながら、ケイ様の様子を伺う
「俺のうさぎを気安く『月チャン』て呼ぶな!」
再びパンチ!再び腕をさすりながら
「人間外見だけじゃない。とは言うけど、お前程のイケメンでも月チャンは、お前の顔タイプじゃない。って言ってるってホンマか?」
「ん。俺の顔はタイプじゃないんやってさ(笑)ソコがまた良い♪」腰にエプロンを絞めながらニンマリして話を続けた。
「今までそんな事言うヤツ居なかったし。それより、俺が先に うさぎに惚れたんやし。 俺うさぎに2・3回ふられてんねん(笑)」
「おぉー。そーやった!そーやった!このケイ様に見向きもしなかったんやもんな!さすがは月チャン。」
「そ♪逃げられたら、追い掛けたくなるやん?(笑)って! だから お前は月チャン言うなって!」
支度場で一通り冷やかされ終わると、カウンターの定位置に着き、仕事用の微笑みを作り グラスを磨き始めた。
BARの店員の皆は、月チャンの存在を知っているが、安全の為に隠している。
その隠している原因のお客様が、お見えになった。
「ケイー!今日も来たよー!」
カウンターが無ければ、抱きつきそうな勢いで、とりまきを引き連れて店に入って来た。このお客様は、ケイ様に『様』をつけない常連様だ。
ケイが立つカウンター前の椅子に 腰掛けて居た女性客二人をケイ様が見ていない隙を狙って睨みつけた。
「いつものお酒お願いね!ケーイ!今日は何時まで?私 今日はそんなに長居出来ないんだぁ。あら!?よろしいンですか~?すみませーん。」
睨まれた女性客は、そそくさとケイ様観賞用の特等席を明け渡した。
「本日、予定では最終までとなっていますので。」
営業スマイルで(嘘の返事を)応えるケイ。
「そっかぁ!じゃあ一緒に帰れないねー。」
一緒に帰った事なんて一度もない。
ケイ様の彼女サンになりたい彼女は、亀城亜弥 21歳 ロングヘアーに綺麗なウェーブヘアー うお座AB型160cmの細身。
スタイルの良い容姿に、高級ブランドを身につけて、センスの良いキラキラしたオーラをまとっている美人。だけど、性格に問題有り。このBARでは要注意人物だ。
ケイは中田に頼み、先ほど亀城亜弥に割り込みを許した女性客二人にカクテルをサービスした。
亀城亜弥が、いつもの猛烈アタックしている中。
しばらくして…『いらっしゃいませ』
小柄でショートヘアー、少しボーイッシュな可愛い感じの女性客が一人。会釈をして来店してきた。
「月野様、いらっしゃいませ。(いつもの)お席が空いておりますので、どうぞ。」
小さな声で席を案内する店員の中田。
「あ、こんばんは~。あ、ありがとう。」
同級生なのに恐縮したように、中田にペコリと頭を下げてお礼を言う うさぎ。
中田が、そっと奥の空席に案内して、コッソリ月チャンの耳元で伝えた。
『啓太から聞いてるかも知れんけど、今日21時半で啓太終わりだから。』
『あ、うん。ありがとう。』
月チャンは、勿論このBARの常連客であり、店員達に人気があるので、特に用が無くても店員達は話しかけに行く。
その様子を見ている啓太は、面白くない。
その時は、いつもの営業スマイルが消えてしまう。
今回は『中田!!お前!うさぎに近づき過ぎや!!もっと離れろ!!』と、超不機嫌だ。
お客の亀城亜弥が、ずっと猫なで声で話しかけてるのにもかかわらず、気の無い返事で応対をしている。
そんな啓太の態度を見て、同僚達は楽しんでいるのだ。
啓太のそんな心中を知らない鈍感な月チャンは、バーテンダーのケイ様の様子を不思議そうに眺めている。
『あれ?啓太どーしたんかなぁ~?笑顔消えてるように見えるけど、今お店に来たらアカンかった?忙しいんかなぁ?』
そうして、不思議そうに首を傾げて 啓太を見つめている月チャンと目が合ったケイ様は『あ♪うさぎが俺のこと見てる♪』と、機嫌を直して仕事に戻る。
これが、一連のパターンなのだ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
時計は、21時を指していた。
「ケイ、今日も連絡先教えてくれないの?いつになったら教えてくれるの?教えてくれたらパパが持ってる幾つかの別荘に誘ってあげるのに~♥️」
やたらと、ケイ様の名前を連呼しながら話す亀城亜弥。
「申し訳ございません。プライベートの事は仕事中はお断りしてるんです。」
「じゃあさ。お仕事終わってからだったら、問題ないの?ね!ね!」
『あ~しつこい。』
店員皆の心の声が聞こえてきそうな雰囲気が漂っている。
その時、亀城亜弥の派手な着信音が鳴った。
「あー。ケイ。もう行かなきゃ~!ざんね~ん。じゃあね~また来るからね~。」
名残惜しそうに泣く泣く、とりまきを引き連れて帰って行った。
その一連の流れを見ていた月ちゃん。目を細めて«面白くない» の顔をしているほろ酔いの酔っ払いになっている。
少しだけ膨らませた頬を両手で頬杖をついて支えている。
初めてコノBARに来た客は、亀城亜弥とケイ様が付き合っていると勘違いするかも知れない。
常連の年配客は、竹田啓太と月野うさぎ が本当の恋人同士と言うことは知っていた。
二人が、関係を隠している理由も然り。
もしも、二人の関係が亀城亜弥に知られた時。
月チャンの身に危険が及ぶかもしれない。
過去に何人か、ケイ様の気を引こうとした女性客がいた。
それを知った亀城亜弥は、自分の取り巻きを引きつれて、囲って「私のケイに何かご用かしら?」的な嫌がらせをしているらしい。との噂もある。
かと言って、亀城亜弥がお店にいない時は、別の女性客が ケイ様にお酒を作ってもらいたくて、ケイ様と話がしたくて、やってくる。
月チャンが少しすねている様子をみて、他の男性店員A君が、一言月チャンに声をかけようと近づいた。と、その時、その店員A君の頭を後ろから、ガシッとバスケットボールの様に鷲掴みしている啓太がいた。
鷲掴みした頭をヒョイと押しのけて
「後30分で上がるから、もう少し待ってて。」
と、こっそり話して、ライムサワーのおかわりとナッツを持ってきてくれた。
「お前は、よそ見せずにテーブル拭いとけ!」
月チャンに近づいた若い店員A君の両肩をグッと掴んでクルッと『回れ右』させた。
「あははは!今日はシッパーイ!」
A君は頭を掻きながらダスターを取りに戻った。同僚達も笑っている。
うさぎは、思わずクスッと笑って、そのA君に小さく謝ってから、啓太に微笑みかけて、小さく『OK』の仕草を見せた。