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言い負けて滞在




「大丈夫か?」


 気がつくと、先生が上から覗き込んでいた。


 頬が痛む。まだ口の中に血の味が広がっていて、気持ちが悪い。

 殴られた頬に当てられているガーゼの感触からして、さっきの男からかなり恨みのこもった一発をもらったことが分かった。



「イルフ君。君は……魔操者だったのか」



 先生の顔は見なかった。語調が沈んでいたから、きっと嫌われたんだろう。その後何を言われるのか、容易に想像できた。


 しかしここでも、予想だにしないことが起こった。



「君がいてくれて助かったぞ。礼を言う。ありがとう」



 驚いて先生の顔を見てしまう。感謝? だって、魔操者は人間にとって脅威で、恐怖の対象で敵、みたいなものだ。例え人を助けたからといって、それを素直に受け入れられる寛大さを、魔操者の力は根こそぎ潰すくらい脅威なはずだ。


 先生はそんな心を見透かしたかのように笑って、腕を組んだ。



「君なんぞ、私にとっては普通の若造と大して変わらん。むしろ私に楽をさせてくれる優秀な助手候補だ。手厚く歓迎して恩を売っておいた方が、見返りは大きい」



 言っている意味が分からずしばらく固まってしまった。先生の言葉はすぐに理解できないものばかりだ。

 当の先生は得意そうににやにや笑っている。



「私はこれでも結構顔がきくんだ。君が魔操者だからといって、町の者は襲いに来たりはせん。だから安心してゆっくり休め。そして傷が癒えたら、しばらく私の手伝いをしてくれるとありがたい」



 やっぱり意味が分からない。ここで先生の手伝いをする、という内容は理解できるが、それを魔操者に頼む先生の意図が分からない。

 無意識に、首を振っていた。



「僕は魔操者です。迷惑をかけてしまいます」


「迷惑? 君のその力が迷惑だと? いつ迷惑をかけた?」


「町を襲った魔操者の力を見なかったんですか? 僕の力は治すだけじゃない。同じように壊すこともできるんです。分かるでしょう? 怖くないんですか? なぜ平然とそんなこと言っていられるんですか!?」



 言葉にするにつれ感情的になっていた。この人は、町があれだけ被害に遭っているのに、それが魔操者の引き起こしたことだというのに、その意味をまったく理解していない。危機感が足りなさ過ぎる。


 先生は肩を竦めてため息をついた。



「同じじゃあないだろ? 君は町を襲った魔操者とは違う」


「違わない! 僕はあいつらと同じだ! 本当は介抱される資格もない罪人なんだ! 優しくされる資格なんてない! だから……!」



 本当は、嬉しかった。魔操者と知られてから人間に優しい言葉をかけられるなんて、初めてだったから。泣きたくなるくらいに心が解かされる。


 でもその優しさに救われている自分を自覚してしまったら、心が拒絶した。それに甘えてこれまでの罪を忘れるみたいで、それは絶対にしてはいけない。



「ふむ」



 先生は少しあっけに取られたのか黙ったが、何かを閃いたように喜々として声を上げた。



「そうか、それはよかった」



 俯けていた視線を、先生に向ける。

 先生はにやりと口角をつり上げた。



「これは私の勘だが見たところ、君に今、治療費を払えるほどの金はない。そうだな?」



 そういえば、手持ちはそんなに多くない。治療費と入院費を払えるか否かと問われれば、否と答えるしかない。

 意図を量りかねながら、ぎこちなく頷く。



「そして君は、仕事を与えるという私の提案を拒んだ。つまり君は踏み倒す気満々、ということだ」



 そんなこと、考えたことはない。誤解を解こうと身を乗り出したが、先生は遮るように言葉を続ける。



「君に選択権はなかったのに、せっかく機会を与えたのに、拒否されてしまったら、私は実力行使をしなくてはならん。踏み倒されるのは大いに困る」


「そんなこと、僕は決して……」



 かろうじてそこまで言ったものの、先生に邪悪面を近づけられ、肩をがっしりと掴まれてしまって、言葉を濁してしまった。



「逃がさないよ、イルフ君」



 納得できないが、大人しく従うしかなかった。




 

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