表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻視幻影  作者: 矢島誠二
7/12

疑念調査

 殺人事件・事情聴取・お風呂、1日でこれだけ疲れたのは、生まれて初めてだ。カラダを休めるため、午前の授業は受けず、午後から登校する。葉月は「行くと騒ぎになるから当分やめる」といい、母さんと一緒に家に残った。まあ・・・・・・そうなるな、登校したら「美雪が生きている!」とみんな大騒ぎするだろう。1回目は美雪のフリをしていた葉月だが今度はそうもいかない。

「・・・・・・あれ?」

 登校したら休み。校門の張り紙に、『昨日起きました事件により本日は休校します。今後とも再発防止につとめ・・・・・』と書いてあるが、誰からも連絡は来なかった。

――友だちがいないせいか――

 なんだか空しくなってきたので、自宅へ帰ろうとするが

「ああ、来ていたんですか。葦原さん」

(最悪!!なんでこんな時に)目の前にいるのは昨日会った刑事。相変わらず重苦しい威圧感のある声とカラダの大きさ、見ているだけで息苦しかった。

「ちょうどよかった。アナタの御自宅へうかがおうかと」

「へえ、それはどうも」

 まあ、うちに行って葉月に会うとまた面倒なことになるから、ここで会って良かったのだろう。

「で、何かご用件でも?」そういうと、刑事はポケットから大きめの手帳を取り出す。警察手帳ではないので、おそらく個人的に使用しているメモ帳だろう。

「この殺人事件が起こる以前から、騒がれていた噂をご存知ですか?」

「噂・・・・・・何かあったかな?」首をかしげながら考えていると、刑事は『首なし鳥のことですよ』と教えてくれた。

「ああ、その話なら聞いたことがあります。見ると確か“死ぬ”とかいう噂で話題になりませんでしたか?」

 刑事は笑みを浮かばせながら「その噂ですよ。あなたが知っていると話が早い。実はその首なし鳥が見つかりました」

 刑事によると、学校のすぐ近くの公園で、首のない鳥が本当に見つかったらしい。目撃情報と同じ種類、同じ毛色の鳥で、首から先がなかったという。

「目撃していませんかね?」という刑事の言葉に、当然「いいえ」と答える。

「実は、目撃者は多数いるんですよ。ただ、それを見ると死ぬという噂は存在していませんでした」

(へえ――それは知らなかった。でも、それを聞くためにわざわざ家に行こうとしたのかな?)少し戸惑う。それとも、違う話題で安心させて情報を得るための策略か・・・・・・

「もう一度お聞きします。目撃していないんですか?」やや厳しい目つきをした。

「見ていませんよ。それに首のない鳥が生きているわけないでしょう」

(当然の事だ。首のない鳥が生きるわけがない。そんなのが出てきたらホラーだ)

「なぜ、首のない鳥が生きているとアナタは思ったのですか?」

「?・・・・・・エッ!」

 首なし鳥の噂って、確か首のない鳥が生きているという怪談じゃないのか・・・・・・・・・いや、待てよ!その話を僕は、誰から聞いたんだ?

「首なし鳥はいずれも“死んだ状態”で大量に見つかったとしか記事には載せていません。だから世間では“猟奇的な人間が鳥の首を取っている”と思い込んでいます。しかし、アナタはその鳥を生きていると思っていた。ナゼなんです!」

 刑事の目つきが鋭くなり、反射的に後ずさりしてしまう。そうだ、僕は確か――

「美雪・・・・・・瀬川美雪さんから聞きました」

 彼女から「首がない鳥を見ると死ぬ」と聞いたが、この噂はてっきり世間では当たり前だと思い込んでいた。

「瀬川美雪・・・・・・ねえ」

 刑事が大きめの手帳に書き込んでいく。老眼なのか?文字は罫線を無視して大きく書かれてあったので、少しのぞいて見た。瀬川美雪の事件前の状況・関係する友人・・・・・・そして

――関係者の所在地が書いてある――

 僕、美雪、蓮華、女子グループの住所録があり隣に地図に×印がしてあり、何処に誰が住んでいるのか一目で分かる。美雪の自宅は僕の家から意外と遠い。女子グループの1人にやや近いが、どちらも学校からは遠い。蓮華の家は学校の裏手にあり直線的には近いが、その間は崖になっているので結局、遠回りしなければ行けない不便な場所だ。

「コラコラ、プライバシーの侵害だろ」

 刑事は書き込みを終えると手帳を閉じる。必死になって情報を頭に叩きこんだので、後で役に立つかもしれない。人間の顔は抽象的で覚えるのは苦手だが、文字情報は具象的で覚えやすい。他のページも見たいが、残念ながら透視能力は持ってない。

「刑事さん、ほかに聞きたいことはありますか?無ければ・・・・・・帰らせていただきます」と、足早に家へ帰ろうとした時、刑事がさりげなく言う


「葦原さん・・・・・・アナタは、瀬川美雪さんが本当に死んだと思いますか?」


「!!!!!」葉月と同じ質問。刑事もそう疑っているのか――

「・・・・・・なぜ、そう思うのですか」少し声が震えた。

「お気にさわったかもしれません。ですが鑑識は興味深い事を口にしていましてね。気分が悪くなるとは思いますが、この事件現場の写真を見てください」

 殺人現場の写真を受け取る。グロいが、直接に見たのでなれてしまった。女子グループにも見せたのだろうか――刑事に問うと『ご心配なく、第一発見者の中でアナタが最初です』と答える。

 もし、女子グループに見せたら絶対に何人かは、ストレス障害をかかえるだろう――蓮華は別だが

「その写真の胴体部分と、瀬川美雪さんの自宅の風呂場から毛髪を採取してDNA鑑定をやったのですよ。そうしたら、暫定的ですが別の人間という結果になりました。後で追試験を行う予定ですが、ひょっとしたら遺体は別人かもしれません」

 葉月の時も思ったが、そんなことアリエナイ。なぜ言い切れるかって?写真の中の遺体の胴体、足の長さは、美雪のカラダだと分かるからだ。人の区別をするとき、顔は抽象的で覚えにくいので、身体的な特徴を優先的に覚えていたから分かる。刑事には「この遺体は美雪です。間違いありません」と告げる。

「クラスの人達とは違う意見ですねえ・・・・・・私の話を言うと大抵みんな『美雪は生きているに違いない!』って言うんですよ」刑事は、僕が周りと同じ意見じゃないのを気にした。

「遺体の写真を見せないからでは?願望を何度も聞いていると、みんなそれが真実だと思うでしょう」

「はあ、なるほど・・・・・・ではクラスの人達が『瀬川美雪さんは死んでいない』と言うのは願望だと・・・・・・そういうことですか」

刑事は感心しているようだが、(その願望を広めたのはアンタじゃないのか?)と思う。

「では、これにて・・・・・・アナタの母と姉にもよろしく言っておいてください」

「母と姉?」

 刑事はニコニコ笑いながら立ち去った。

(姉って・・・・・・葉月の事がバレているのか!)

 刑事の姿が見えなくなると、学校を出て自宅に帰ろうとするが――

「やっぱり休校だったのね」

 まるで、刑事がいなくなったのを見計らうかのように、葉月がやって来た。車イスに乗り、顔が見えにくいようフードをかぶり、マネキンの義手義足を付けている。近づかないと美雪と区別できないので、イスにすわった美雪の幽霊みたい。美雪と葉月の違いは、美雪がいつも首に巻いていたチョーカが無いくらいだ。

 僕は休校だったことを伝えたが、あえて目をわざとそらす。葉月はそれを見て“隠し事がある”と思ったらしく

「さっき、知らない人間と話していたけど・・・・・・もしかして」

 僕は、さっきの人は刑事で、葉月の正体がばれているかもしれない事、そして美雪が話していた首なし鳥の噂、および死体と美雪のDNAが一致しない事を葉月に伝える。

「・・・・・・・・・・・・」

 葉月は黙る。なんだか、申し訳ない気分になったので

「・・・・・・ゴメン葉月」何か言わないと考えたのに、口に出した言葉が謝罪である。

「ハァ―――――なんでアナタが謝らなきゃならないのよ」

「刑事にうまく誤魔化せなかったせいで・・・・・・ゴメン」表向きにあやまって場をとりなそうとしたが、葉月には見透かされた。僕の謝罪が“口だけ”だった事を

「アナタが謝るべき事は何もないわ」葉月は無難に取りつくろってくれた。

 葉月は校舎の方をのぞいて誰もいないことを確認した後、車イスの向きを校門の方に向ける。

「せっかく来たのだから、校舎にある事件現場を見ておきたいわね」

「ハァァァァァァ?????何言ってんだ?葉月!そんな事をしたら正体がバレて――」

「もう、バレているのでしょ。別に何をためらう必要があるの?」

 刑事は「姉によろしく」と言ったので、正体がばれている可能性が高い。それなら、隠す必要はないが・・・・・・でも

「好奇心として、誉められたもんじゃないな・・・・・・」

 昨日、殺された自分の姉が死んだ現場を見ようなんて、普通は考えない。そして、犯人は捕まっていないのである。美雪を襲った犯人なら、美雪と容姿の似た葉月を狙う可能性がある。いや、そもそも誰の付き添いもなく車イスでここまで来る方がおかしい。葉月は何か確信を持っているのだろうか・・・・・・“自分が襲われない”という確信を

「好奇心ではないわ。このままだと、ワタシたちが犯人だと疑われる可能性があるでしょう。その前に犯人の目星をつけておいた方がいいのではなくて?」

「つまり、探偵をやると言う事か――でも、それは警察に任せておいた方が・・・・・・」

 僕の言葉に葉月は反論した。「たとえ殺人容疑が一時的でも、疑われたことに対する疑念は常に付きまとう。私たちの高校生活が脅かされないためにも、疑念を持たれる前に犯人を捕まえるべき」

「・・・・・・・・・・・・?」

 葉月に対する疑念がぬぐえない。もし手足があったのなら、彼女を犯人とみなして絶対に近寄らないだろう。

「校門を開けて、さっそく調査しましょう!」葉月が校舎の中に誘う。

――ヨイショ――

 疑念を抱えたまま、葉月と一緒に校舎の中に入り込んだ。



 まだ明るいのに静まりかえった校舎内は不気味だ。そして車イスのかすかなモーター音と僕の足音が耳にさわる。

 まずは倉庫を探そうとしたが、葉月は「事件が起こる前の、みんなの行動を知りたい」と言うので、3階の教室に行こうとするが

(重い~~~)

 葉月を3階まで運び込む必要があるが、校舎にはエレベーターがない。したがって階段を使わなければならない。だが、葉月のカラダと車イスの両方を持ち上げるのは僕の体力でもさすがに不可能。そこで、車イスから葉月だけを背負い、なんとか3階にたどり着く。車イスは、また1階まで降りて、再び3階まで上げなければならない・・・・・・すごい重労働だ。

(くたびれた~~お前、何キロあるんだよ)僕の疲れた顔を見た葉月は、さすがに心配したのか

「この校舎にある荷物用のエレベータを使って3階まで上げられないかしら」と提案をする。

「それを早く言ってくれ!葉月ごと車イスに乗せて運べば、楽に3階に運べたのに」ああ、無駄に疲れた。

「あんな、狭くて真っ暗なエレベーターの中に入れるわけないでしょ!」と葉月に怒られた。まあ確かに、もし途中でエレベーターが止まったら、生きたまま棺桶の中にいる恐怖を味わうだろう。

 とりあえず3階に葉月を置いて、車イスだけ荷物用エレベーターで上げる。そうしないと、推定体重40キロの葉月を抱えたまま、学校を巡らなければならない。

「よいしょっと――固定したぞ!葉月」

 車イスに葉月を固定し、さっそく自分の教室に向かう。と言っても、悲鳴の電話を聞いただけで、何の変化もないただの教室だ。

「それで、美雪の机は何処なの?」

 教室をひととおり見た葉月の言葉。僕は教卓へ行き、中から座席の書かれた紙を取り出す。専門や新米の教師がやって来ても、誰がどこにいるのか分かる座席表を見た後、指で美雪の机を示す。


「・・・・・・何も変わらない・・・・・・いや、変わっていない」

 それが机を見た葉月の言葉。変なところのない、ただの机を見て葉月は少し驚いた。

 本当にまっさらな。傷も目立ったところがなく。誰が使っていたのかさえも分からない机。その違和感に気づいたのは、皮肉にも葉月の後だった。

(美雪には個性がない)

 いや、実体のない物を見せられた気分だ。そういえば音楽室で拾った携帯電話も、どんな機種だったか思い出せない。それができるほど個性のないのに、みんなから憧れの的になる美雪に違和感を覚える。それを葉月に伝えると、彼女はせせら笑いながら

「逆でしょう!個性がないというより、もともと強い個性の持ち主のような印象があったから、相対的にないように感じるだけ・・・・・・元々の姉さんは優秀に見える普通の一般人よ」

「普通の一般人?そんなはずはない。少なくとも美雪は蓮華と同様に目立つ存在だ。そうでなければ、身体的な特徴を覚えることはできない」

 僕の反論に彼女は「それはアナタだけの認識じゃなくて?」とさりげなく言う。(僕だけの認識?そんなことはアリエナイ)美雪が素晴らしい存在なのは、蓮華からいつも聞いている。

 葉月は、持ち物を確かめようとした。しかし、これといって事件に関連のある物は見つからない。そこで、次の現場である音楽室に向かう。

――ヴィ―ン――

 やや甲高い音をひびかせながら、車イスと僕は音楽室へ進む。途中階段を下りなければならないので、葉月を先に音楽室に置いておき、後から車イスを持って行こうとする。

「いま、車イス取ってくるから――」そう言って、車イスを取りに戻る。

 電動の車イスは重いが、操作をアシストする機能が付いているため、垂直移動はともかく水平移動は楽だ。

「待たせたな、はづ――」

「ア――――――――――――――――!」

 葉月がデカい声で叫ぶ。音楽室だから歌いたくなったのか

「何やってんだよ。葉月!」

 葉月に問いかけたら「事件の再現よ!私はアナタが音楽室を出たあとでずっと叫び続けてたけど、声は聞こえた?」

――全く聞こえなかった――

 この音楽室は2重扉に2枚ガラスの窓がある構造で叫び声があっても聞こえない。ここなら、いくら叫び声をあげても誰も助けてくれない。殺人をするのには好都合だ。

「つまり、叫び声はアナタたちの電話以外は、誰も聞いていないでしょう?その叫び声って、もしかして・・・・・・細工されたんじゃない?」

 葉月は「録音した美雪の叫び声を使って、女子グループをおびき出したのではないか」と言いたいのだろう。だが、叫び声のみでは“音楽室にいる”という情報は伝えられないのでは?。無理に伝えると会話しなければならないので、ズレが生じる。応対した女子グループの1人が共謀している可能性もあるが、僕が携帯の番号をいつ教えに行くか分からないので無理だろう・・・・・・そう考えた。

「別に美雪の声じゃなくても構わないわ」と全く別の考えを、葉月は口にした。

「美雪の声じゃなかったら気づくだろう!」

「異性ならともかく女性同士の叫び声は区別しにくいでしょう。それに、電話口の相手が美雪だと相手に思い込ませれば、後は言葉使いや口調で、本人に成りすませるの事ができるのでは?」

 葉月は少し考えながら、具体例をあげてくれた。

「オレオレ詐欺・・・・・・いや、母さん助けて詐欺かしら」

 ああ、確かにアレも電話口の相手を勘違いさせる方法だ。おそらく、死亡推定時刻が合わないのは、叫び声を利用した手口で死体の特定を遅らせるため・・・・・・でも、何のために?

 僕は、音楽室の窓辺に寄りかかって思案する。葉月も車イスで音楽室を回りながら、考え事をしているようだ。あんまり回り過ぎで、車イスのバッテリーが上がらないか心配だが

「和彦。この事件は計画的ではなく、行き当たりばったり・・・・・・密室殺人も、おそらく急な思いつきではないかしら」

「???密室殺人は計画性があってやる物だろう」

 葉月は「この事件が犯人にとってどういう結末で終わってほしいか考えてみたら?」というので、美雪の事件を“犯人にとって望む結末”で考える事にした。

(おそらく美雪は、誰かに呼び出されてここに来て、偶然に僕たちがかけた携帯電話に出て、偶然に電話の途中で犯人に襲われ、偶然に携帯電話を階段手前に落とし、そして偶然に倉庫へ追いつめられて殺され、偶然に僕たちがやってくる前に手早く遺体をバラバラにした)――あれ?

――偶然が多すぎないか?――

 その疑問を葉月に投げかけると、彼女は

「そのとおり、この事件が犯人にとって望む結末は“数多の偶然が重なった上の殺人”よ。誰がそんな犯行を計画的にやる?仮にもし計画性があれば、誰かがいる高校よりも人目につかない場所を選んで殺してしまうでしょう――そうすれば容疑者が多くて特定が難しくなるから――」

 警察が僕たちに疑いをかけたのは、この偶然のせいか・・・・・・という事は、密室殺人の密室は偶然か、あるいはとっさの判断で行われた場当たり的な犯行という事に・・・・・・

「そして、その偶然を必然に変えることができるのは、鹿目蓮華さんだけだと思う」

 確かに蓮華なら美雪を殺して動揺し、その後で僕からの「電話番号を教えてくれ」との要請を受けて、とっさに密室を作り出したのなら可能だが

「でも、動機がない。美雪を蓮華が殺すなんて――」

 蓮華にとっても美雪は友人だ。何らかのトラブルが起こっても、殺人に発展することは考えにくい。だが葉月は、僕の説をくつがえすように

「親しい中だからこそ憎みあうのよ。殺人事件の多くは肉親や友人といった、“関係のある人間”に殺されることが多いわ。『誰でもよかったから殺した』という殺人鬼は殺人事件のほんの少数にすぎないのよ」

(葉月が美雪を憎んでいるのも同じなのか・・・・・・)だって葉月は美雪が死んでも、悲しみの表情をしなかった。

 憎んでいるのではないかと思う・・・・・・だったらなおさら、今回の事件で喜んでいるのは葉月ではないか。手足がないのは痛ましい事だとは感じても、それは“殺人ができない”という絶対的な証拠になる。つまり、彼女は事件がどう転がろうと逮捕されることは絶対にない。

「最後に非常階段を下りて倉庫に向かいましょう――」調査は終わったらしい。と言っても警察の捜査の後だ。音楽室は片づけられて、ほとんど調査できなかった――

「非常階段で車イスは使えないから、音楽室で待っていて・・・・・・」葉月を音楽室のイスに座らせ、車イスを非常階段の近くまで降ろす。ふと、倉庫を見ると

(あれ?まだ捜査をしているのか)

 倉庫の周りには規制線が張られ、数人の捜査官が調査していた。話を聞いたら今日中に調査は終わるらしい。

(また、明日にでも調査するかな・・・・・・)と考えて帰ろうとしたら、捜査官同士の会話で気になる話が


――死体は倉庫で殺されていない――

 つまり、美雪の死体は何処かで切り取られ運び込まれた・・・・・・でも、わざわざ遺体を倉庫に運び込む必要があったのか。

 車イスを非常階段の近くに残し、階段を駆け上がる。音楽室にいる葉月に捜査官がまだ捜査中であると伝えたら

「今日はここまでにして、明日に倉庫に行きましょう。車イスのバッテリーも上がり気味だし」

 僕もそれに賛成する。でも、バッテリーが上がったのは、音楽室を葉月が無駄に動き回ったからじゃないのか・・・・・・

 葉月を抱えて階段を下り、車イスに体を固定する。慣れてくると作業は楽になった。

「じゃあ、帰るとするか・・・・・・ところで葉月」

「美雪の生存が感覚でわかるって、どういう事?」と以前から気になってた事を質問する。

「帰ってから話すわ。それについて簡単な実験を家でやるから」葉月は体重を傾けて自宅に向かって車イスを動かす。

(・・・・・・実験ってなんだろう?)

 そう言えば、美雪と蓮華は同じ生物部で実験をやっていた。それに関連があるのではないかと想像しつつ、僕たちは学校を後にする。



 頭部を接合する実験はイヌで試してうまくいった。2回も成功させたからより確実になったはず。この1つのイヌ・・・・・・いいえ2頭のイヌは違う犬種なのに見事に接合した。父の実験に近づく。いや、追い越したと言うべきか

 鳴き声の違う1匹のイヌは、2つの頭を全く別々の方向に向けながら、どちらに行くべきか迷っている。部屋をウロウロしながら歩く双頭のイヌ。60年前から可能な禁じられた実験。医学界でもその存在は、あまり知られていない。

「それにしても・・・・・・」

 昨日から謎だった。いったい誰が、私の計画を邪魔するのか・・・・・・でも刑事の様子を探ると、疑問は氷解する。以前に彼女が話していたアイツに間違いない。

――殺してやる――

 そう心に誓ったが、いつも隣にはあの人がいる。うかつに近づくことができない。アイツはそれを知っているから、携帯電話をかける事ができない。送ったらワナだとさとられる。

(どうすれば・・・・・・)

 今日の学校は、授業があるはずだが、事件の影響で休校になった。当然か・・・・・・ でも校舎に行き警察に気づかれないよう、恐る恐る様子をうかがうと、あの人は捜査員に声をかけていた。おそらく、明日にでも倉庫を調べるつもりらしい。その時がチャンス!そう自分に言い聞かせる。グッとメスを握りすぎて手から血が垂れる。

「あら?」顔を上げてあたりを見渡すが

――イヌがいないわ?いったいどこに――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ