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幻視幻影  作者: 矢島誠二
6/12

殺人嫌疑

「今日は遅かったわね」

 家へ帰ると美雪が・・・いや、葉月が車イスに乗って出迎えてくれた。いつも僕を嫌っているくせに珍しい。

「ア――――その――なんだ」

 言葉が続かない。やっと会える前に死ぬなんてあまりにも残酷だ。大きく深呼吸し、そして葉月に聞こえるギリギリの声で言う。

「―――瀬川が―――美雪が学校で――」

――殺された――

 少し顔をあげて、葉月を見る。どんな顔をしているのだろう。

「・・・・・・」

 頭をあげた途端、背筋が凍りつく

 葉月の顔は、悲しみに暮れる顔、何が言っているのかわからず呆然としている顔・・・・・・そのどれでもない顔をした。

「――――葉月、大丈夫か?」

 一瞬、我を忘れていた葉月が気を取り戻し

「ええ、大丈夫。心配しないで」

 葉月よりも自分が心配なってしまう。葉月は車イスを回転させて僕に背を向けた。

「柳瀬さんが、テーブルに夕食があるから、食べてって」

「ああ、わかった」

 葉月の言葉を無視し、夕食のある台所に行かず、2階の自分の部屋に行く。

思いっきりベッドにダイブして、傍にある枕をつかんで胸に押し当てた。寝た事のないベッド、頭を乗せた事のない枕、いずれもやわからかい。そして―――少し葉月の匂いがする。

「・・・・・・・・・・・・イイ匂い」

 刑事は『昨日、美雪を見た』という証言を疑っていたが、これは、学校にたまたま来ていた葉月を、誰かが美雪と誤解したに違いない。美雪が2日前に死んだという鑑識の結果が正しいとすると、2日前に下校した後で、誰かに殺されたことになる。

(ここまでは、単なる誤解だ)

 そして刑事は『美雪の叫び声を聞いた』という証言も疑っていた。これは、分からない。あの声は確かに美雪だった。そもそも女子グループ全員が聞き間違えるわけがない。そうなると、遺体の鑑定が間違っていると考えるが、2日も間違うだろうか。あの声は偽物なのか・・・・・・そう考えると、ある疑念がわく。

(あの電話の叫び声は、葉月なのでは?)

 少し寒気がした。なんで、葉月がそんなことを。理由は?動機は?そして何より

――葉月には手足がない――

 つまり自力では、人を殺すことができない。どう考えても、遺体をバラバラにすることもできない。必然的に共犯者がいる可能性を考えるが・・・・・・今のところ思い浮かばない。

「ン―――――」

 言いながら、枕を抱きかかえてゴロゴロする。殺人事件や事情聴取で疲れているせいか

「私のベッドでゴロゴロするなんて、アンタ眠らないんじゃなかったの?」

 抱いていた枕を取り払ったら、眼の前に葉月がいる。下から見ているせいか眼つきがコワイ

「いつからお前のベッドになったんだよ」

 起き上がると、葉月は僕に目線を移して首をかしげながらつぶやく

「ねえ、美雪が死んだって・・・・・・本当?」

 一瞬の静寂。しかし、僕はためらわず葉月に

「ああ、死体を見た。間違いない・・・・・・美雪だ」

 葉月は、あの時の疑り深い刑事のように僕をジーッ―――と見る。ウソを言ってない。見たことをありのまま伝えただけなのに、なぜこうも疑われるのか?

「ウソ・・・・・・あいつは、まだ死んでいない」

「否定したい気持ちも分かる。でも君の姉さんが死んだのを僕は見た」

 悲しみにくれる顔ではない。むしろ疑うような・・・・・・いや、何か恐怖をおぼえるように顔が引きつっていた。

「本当に?なら、詳しく聞かせて!」

 死んでいない!あなたの言った事は間違っている!そう言わんばかりの口調だった。まだ事件について話してないのに。

「ああ、分かったからさ――――夕食の後で話すよ。まだ食べていないんだ」

 ベッドから立ち上がると、葉月の乗っている車イスを押して、台所に向かう。

 そして、夕食の後で、今日起こった事件の詳細を、葉月に説明する事になった。



 食事中にテレビを付けると、やっぱりニュースで報じられていた。“学校の倉庫からバラバラの遺体が発見された”というニュースだったが、以前の猟奇事件との関連だけで具体的な事は何も分かっていない。ニュースの後半は、猟奇的な理由や怨恨の可能性などの犯行の動機を推測したり、殺人が今後も起きる可能性や危険な場所はどこか検証するなど、推論が主流で具体的な内容がほとんどなかった。

「あら、ずいぶんと物騒な事件が起きたわね」

「他人事のように言うなよ、母さん!学校の同級生なんだ。少しは深刻さを考えてくれ」

「分かったわ和彦。注意するわ」

 母さんは、こういう事に対して耐性ができているのか、あまり驚かない。てっきり父の暴力のせいで過剰に怖がるかと思っていた。それとも、精神が壊れてしまったのか心配である。

「ごちそうさま」

「お風呂は?」

「後で入る」

 母さんを台所に残して、僕は葉月を抱えて自分の部屋へ戻る。なぜか母さんがニヤニヤしているが、気にしないでおこう。

「じゃあ、事件の内容を教えてよ!」

「ああ・・・・・・」

 僕は事件の内容を具体的に伝えた。教室での悲鳴が起きた時間。音楽室に携帯電話が残されていたこと。倉庫には鍵がかけられており、密室殺人であったこと。刑事がやったら犯人扱いしてきたことなど。

 葉月はそれを聞きながら、鍵は何処に置いてあったのか?携帯電話がなぜ音楽室にあったのか?を詳しく聞き返してきた。でも心の中では葉月が犯人かもしれない。もしそうならば、これは警察の捜査状況を、葉月に提供している事になるのでは――

 葉月は僕の話を聞き終えると、少しあきれた顔をして

「あなたが疑われても仕方ないわね」とすました顔で答えた。

「どういう意味だよ?」

「刑事が『なぜ犯人は密室にしたのか?』って疑問に思ったのは、たいてい人を殺したらすぐに逃げた方が気づかれにくいし、わざわざ現場に残って細工をする理由がないからでしょう」

 まあ・・・・・・よく推理小説で密室殺人が起きた場合はだれかに罪をなすりつけるためにするからな

「密室にしても殺人が起きたわけだから、容疑者は合鍵を使える人物か――あるいは、何らかの細工をして密室にした人物のどちらかになるわ。前者だったら問題ないけれど」

 そういえば刑事は合鍵が使われた可能性についてあまり触れていなかった。だとしたら後者は――

「後者だったら、一番疑われないのはどういう人物だとアナタは思うの?」

「ああ、葉月が言いたいことは、つまり――」

 密室をみんなに証明させた僕が一番怪しいと警察は考えてる。密室だったことを周りのみんなに証言させれば、逆に僕は容疑者から外れる。

「それに、第一発見者なら、その立場を利用して証拠を隠ぺいできるしね。密室殺人の証拠を・・・・・・」

 だから刑事は、僕を疑っていたのか。でも僕ではないとすると、怪しいのは蓮華と女子グループ

「一緒に死体を見つけた人たちはどうなるんだ?」

 葉月に問いかける。そして気になる。蓮華と女子グループは、どのくらい疑われているのだろうか

「確かに他の人たちも、同じような方法で取り調べされたと思うわ。でも、バラバラに解体した力技の犯行なら、犯人は男性の可能性が極めて高いと判断するのが普通よ」

「つまり犯人は僕以外考えられないと・・・・・・」

「ワタシが警察だったらそう判断するわね。まあ、バラバラに解体するにはそれなりの事前準備と動機がないといけないけれど」

葉月は、「心理的ならば、何らかのひどい恨みを持っている。物理的な理由なら、遺体を分割して運びやすくする」と例をあげる。もちろん僕は、美雪にひどい恨みを全く持っていないし、遺体を分割して運ぶという面倒なこともやらない。殺人を犯したら、不良に出会うのと同じく、真っ先に逃げるだろう。

「・・・・・・」

 いろいろ考えるほどに疑問がわく。本当に葉月は推理しているのか?推理すると見せかけて、僕の疑念を回避しようとしているのでは?美雪の死を伝えた時のあの表情はいったい?

「・・・・・・なあ、葉月」

 言ってはいけないことだと思う。他人が聞いたらあまりにも非常識で空気が読めないと、ののしられるだろう。でも、数々の疑念がその非常識な発言を容認する。


――葉月は・・・・・・美雪を恨んでいるか?――


 ああ、バカだ。そんなことを言っても正直に『恨んでます』なんて言うわけがない。それをした僕は本当にバカだ。バカだと思った。

「ええ、殺してやりたいほどに」

葉月はその言葉を待っていたかのように、怖い笑みを浮かべる。



「じゃあ・・・・・・君が美雪を殺したのか?」

 まとわりつくように重たい空気がただよう。そんな状況に自分が押しつぶされそうだ。

「私には殺せないわ。だって、殺すことができないカラダでしょう。どうやって殺したというの?」

 手足のない葉月に殺人は不可能。それは僕も分かっている。だから、共犯者がいると考えるのが自然だ。

「・・・・・・まさか、私に共犯者がいるって考えてない?」と葉月が尋ねる。

「まあな、君を誰よりも大切に思っていて、なおかつ美雪に恨みがある人ならためらわずに殺せ――」

「じゃあ、共犯者はアナタ。葦原和彦で決まりね。いや、実行犯ではないかしら?」

 突然、会話を中断して犯人呼ばわりする葉月。共謀してないのは、葉月も分かっているはずだ。冗談かと思い「なんでそう考えた?」と言い返す。しかし、冗談でもなんでもないと言わんばかりの真顔で答える。

「当然の結論よ。ワタシとアナタで共謀すれば、事件も手口も十分な説明が付けられるわ。密室の謎を除いてね」

「どういう意味さ?」


「つまりね――」

 葉月の言う推論は以下の通り

・まず、アナタ(和彦)の家にワタシ(葉月)がやってくる。

・手足のない私のカラダを見てアナタがショックを受ける。

・私は、自分を捨てた親と美雪が憎いと言う。

「おまえ、やっぱり憎いと思って・・・・・・」

「いいから黙って!」

・アナタが、憤激して美雪を倉庫に連れ込む。

・誤って美雪を殺してしまい。慌てて遺体をバラバラにする。

「おいおい――ちょっと」

・分割した遺体をどこかへ運ぶが、片手と頭だけを運んだ時点であきらめる。

・仕方なく鍵を掛けて密室にする。

・翌日、私と一緒に登校してアリバイ作りをする。

・アリバイを作った後で死体が誰かに発見されるのを待つ。

・予想外に見つからないので、私と協力する。

・電話で私に叫び声を出させ、美雪の悲鳴と勘違いさせる。

・悲鳴を聞いてみんなで倉庫にかけつける。

・みんなが遺体に気を取られている隙に、証拠を隠滅。

・何食わぬ顔でアナタは取り調べを受ける。

・私が『自分は和彦に脅された』と証言する。

「ん?」

・『協力しなければレイプする。お前は手足のないダルマ女だ。逃げられやしない』と泣きながら言う。

「おいおい!」

・私は脅されたことで無罪になり、アナタは有罪。刑務所に送られる。メデタシメデタシ・・・・・・

「いや、めでたくない!勝手な妄想をするな!」

「そう、現時点ではもっともな仮説じゃない?」

「・・・・・・まあ」

 確かに葉月の言う通り、僕と葉月が協力すれば犯行は可能かもしれない。だが、今の推理は問題点も多い。あくまで・・・・・・自分が犯人だったらの話だが、なぜわざわざ葉月に頼んでアリバイを作ったり、叫び声の演出を頼まなければならないのだろうか?あのままだと遺体から悪臭が出るので、いずれ誰かが気づく。時間がたてばたつほど容疑者は多くなりアリバイも分からなくなる。わざわざ自分で疑われるような細工をする必要はどこにもない。

「確かにアナタの言うとおり、おかしな点はいくらでもある。だけど、現時点ではそれが一番理屈に合う。人間は理屈っぽく語ることができれば、どんなトンデモない出来事でも信じてしまうものなのよ」

 確かに、現時点で怪しいのは僕と葉月の2人で・・・・・・ん?

「なあ、警察は葉月の存在を知っているのか?」

「それは分からないわ。ただ私は2人で組めば犯行は容易になりやすく、アナタの疑惑が深まりやすいと言っているのよ」

 それを聞いた僕は、目を閉じて葉月に誓う。


「僕は瀬川美雪を殺してはいない」

 あきれた顔で葉月は

「私に誓った所で、どうにもならない。信じてくれと?」

 僕がうなずくと、葉月は僕を少し睨みつけながら顔を上げた。

「私は瀬川美雪を恨んでいる。だけど、葦原和彦。アナタと組んだ覚えはない」

 葉月は僕と組んではいない。もちろん本人は最初から知っているから当然だ。

「じゃあ、僕たち以外で誰が犯行を?」

 さっき第一発見者が怪しいと推論した。警察は僕を疑っているが、それ以外では女子グループかあるいは・・・・・・

「鹿目蓮華が怪しいわね」

 葉月は学校でよく知っている僕の友人の名前をあげた。



「なぜ、蓮華なんだ?女子グループも倉庫の中に入ったはず」

「アナタ、さっきから女子グループって言うけれど、具体的にどこの誰?」

「それは・・・・・・」

 思い出せない。電話を受け取った人。警察に連絡した人。叫び声で悲鳴をあげた人。みんな分かる。だが、名前がわからない。普段、美雪や蓮華以外の女子と話したことがないため、名前を覚えていない。

「あなたが同級生の名前を思い出せないくらい友達がいないことがよく分かったわ」

 葉月はあわれむ顔でこっちを見る。

「うるさいな!おまえはどうなんだよ。葉月」

―ちょっと―

「私の事情は前に話したとおりよ!でも、五体満足で学校も通える人間が、同級生の名前を覚えられないなんて」

―ちょっと、あなたたち―

「世の中には、日常に適応できない人もいるんだよ!」

―2人ともお風呂よ―

「アッ、母さん?」

「エッ、柳瀬さん!」

 いつの間にか母さんが風呂上がりのまま、バスタオルを巻いて出てきた。

「母さん。いつの間に――」

「ワタシ、もうお風呂に入っちゃったから、後はよろしくね」

「何を?」

 我ながら、うかつだった。母さんの姿を見れば一目瞭然なのに、それを考えるのがイヤで思わず聞き返す。

「風呂よ!風呂。あなた達が2階で雑談してたから、私だけ先に風呂に入っちゃった」

「母さん。ひょっとしていまの会話を聞いて――」

「ちょっと、私のお風呂はどうなるのよ!柳瀬さん」

 今の会話に葉月が割り込んだ。そういえば、今日はまだ母さんと一緒に風呂に入ってない。

「もちろん、和彦と一緒に入ればいいでしょう、2人は姉弟だし」

「!!!!!!」

 母さんがニンマリして、葉月が蒼ざめ―いや、僕の顔を見るなり真っ赤な顔になる。

「どどどどどどういう????」

「姉弟でスキンシップをするのは、とっても大切よ」

 いや母さん、僕たちは高校生だ。小学生ならともかく、高校生で一緒にお風呂はアリエナイ。男同士ならともかく男女なら・・・・・・いや、男同士でもキモイか―

「絶対ヤダ!この前だって柳瀬さんがいなかったから、コイツの世話に」

「葉月。今日は風呂入るのを止めたらどうだ?一日ぐらい大丈夫だろ」

「それもヤダ!体がカユくなる。アナタには分からないと思うけど、手足がないからカキたくてもカケないのよ!」

――ああ、確かに。カラダがカユくなったら葉月は、モゾモゾしながらクネクネ動くのだろうか?想像するとちょっと笑える。

――ドスン――

 葉月が車イスからダイブして地面にうつ伏せになった。――土下座か?――

「お願い!柳瀬沙織さん。もう一度だけ風呂に入っていただけないでしょうか」敬語をワザワザ使い、必死になってお願いをする。

「ダメよ。あたしは2回も入る趣味なんてないから。それじゃ和彦、後はよろしくね」

 母さんは「フア―――、眠い」といいながら自分の部屋に戻る。動作がいかにもワザとらしい。

「マッテ~~~柳瀬さん、行かないで!!!」

 葉月のむなしく、僕にとっては疲れの癒えない言葉が、廊下にこだました。



 今の僕は目隠しをされ、葉月といっしょに縛られている。

「アッッ――左手は3センチ下に!右手は少しずらして!!ちょっとでも胸に触れたら殺すわよ!!!」

「どうやって殺すんだよ?葉月」

 葉月に言われるまま、カラダを洗っているが、2人で風呂に入るまで3時間かかった。

 なぜ、時間がかかったのかというと、葉月が「風呂に入りたい・・・・・・」というまで1時間。

 そして、洗濯機の横にある脱衣所で、着替える前に葉月が「目隠しだ。和彦!目隠しをしろ」というので、タオルで目隠しをしたが

「胸と尻はさわらないで!」

「おい、目隠しのまま着替えをするのか?」

「あたりまえよ!女の裸を何だと思っているの?」

 真っ暗闇の中で葉月の指示どおり服を脱がす。この作業にまた1時間。

(ようやく風呂に入れる)そう思って自分の服を脱ごうとしたところ――

「まって!」

 葉月が脱ぐのを止めようとする。上半身裸のままで、ズボンに手をかけた時だった。

「何だよ?」

 葉月は震える声で「オー男の、ハダカは~~見たくない。いや・・・・・・こっちが恥ずかしい~~」と顔を赤く染める。

「おいおい、どうするんだ?葉月」

 葉月は「ウ~~~」とうめき声をあげながら待つこと5分、「私にも目隠しして!」と要求。

(あ~あ、めんどくさいな)

そうして目隠しされたまま、葉月の指示で彼女の目隠しをする。それが終わると、自分も服を脱いで、イザ風呂に入ろうとしたが、またまた困った問題が

――葉月には足がない。つまり風呂にそのまま入れると溺れてしまう。おまけにカラダを洗うのは手を使わなければならないが、手は僕の2本だけ。その2本で葉月のカラダを支えると洗うことができない――

「・・・・・・・・・・・・」

 考えること10分以上――葉月の背中を僕のカラダに押し付け、タオルで縛り固定する方法を思いつく。葉月もシブシブ同意したが、双方が目隠ししたままカラダを縛らなければならず、苦闘すること40分。ようやく風呂に入ることができた。合計、約3時間。

(あ~あ。疲れた)

 風呂から出た後、逆の方法で衣服を着なければならない。それを考えると疲れが倍になる。時刻は深夜1時、朝までかかるかも・・・・・・ 

そう考えながらゴシゴシと葉月のカラダを洗う。目隠しをして見えないが、なぜか不思議と彼女のカラダをうまく洗うことができる。まるで、自分の手足が彼女のカラダとうまくシンクロしているようだ。カラダのラインや感触までも、タオルごしに間接的に伝わってしまい

――ヤバイかも――

「ちょっと、なに興奮しているの!」

「コッ、コウフンなんかしていない」必死に否定するが、葉月は下の部分が盛り上がっているから、僕が興奮していると分かるそうだ。――おまえがヘンタイじゃん――

 胸と尻はタオルを両腕に持ち、引っ張りながらカラダに当てた。こうすれば、手を触れずに洗うことができる。


ザッパーーンーー

「・・・・・・フウ」

「・・・・・・ハアー」

 カラダも洗い終えて、僕と葉月は一緒に風呂に入る。浮力があるせいかあまり重さは感じられない。血行が良くなり意識が少し遠のくが、眠ってしまっては一大事。意識を保たないと死ぬ!死ぬんだ・・・・・・そう考えて意識を集中させるために彼女に話しかける。

「葉月。さっきの続きだけど」

「ん・・・・・・何の事?」

「犯人だよ。さっき蓮華が犯人だって言ってただろ。その根拠は?」

「ああ、そのことね・・・・・・えっと」

 葉月は自分たちが共犯者じゃなければ、倉庫に誘導できる人は限られている。その中で、蓮華が一番怪しい。

「でも、それだったら女子グループも怪しく――」

 それについても葉月は答える。あの美雪の叫び声は、携帯電話ごしにアナタの声にも届いていた。こっそり叫び声だけ録音して再生する事も可能だとは思うが、それはバレるリスクもある。蓮華ならそこにいないので犯行は可能だし、音楽室を使える。

「音楽室?」

「アナタから聞くと音楽室はあの時間帯は無人で、しかも防音設備があるはず。録音した声を再生するなり、自分で叫ぶなりいくらでも小細工ができる」

「なるほど」

「それに蓮華と出会ったのは、キミが音楽室へ行くルートに彼女がやって来たからだ。そんな偶然があると思う?」

「確かに・・・・・・」

 葉月の説だと納得がいくので僕は感心した。

「ただ、アナタがもうちょっと、女子グループの名前を覚えておけば、もっと証拠を集められるかもしれないわ・・・・・・どうして、何時間もいるのに名前を覚えられないの?友人がいないから?」

 僕は名前を覚えるのが苦手だ。人間の顔は目や口の位置や形が抽象的で、アルナシの判断ができないから。眠れない体質もそれに拍車をかけている。顔を認識できないのは、夢の中で情報を整理できないから。そのせいか、同級生の名前もあまり覚えられない。みんなグループ扱いになってしまう。

「それは・・・・・・病気のせいかもしれない」

 葉月は少しあきれながら「病気、病気っていうけれど、同級生の名前も覚えられないのに、初対面の私は覚えられたじゃない」

「ほら、だって――――」言おうとして、思わず口ごもる。

「“手足がないから”とでも?」

・・・・・・まったくその通りで、葉月を覚えるには“美雪にそっくりで手足が無い”という特徴だけだから。

「なぜ、姉の美雪や蓮華を見分けられるの?」

「美雪は生徒会長で雰囲気が違うし、蓮華は・・・・・・」

――あれ?――

 そういえば、なぜ蓮華の事は覚えていられるのだろう?

「蓮華は美人だから?」

 葉月は少し変な質問をする。美人かどうかなんて細かく顔を覚えていなきゃ分からないし、それができたら名前も覚えられる。

「・・・・・・違うよ・・・・・・たぶん他の人と違うから。例えば・・・・・・オーラみたいな何か・・・・・・かな」

 僕も変な答え方をした。

「名前を覚えられるのは、他と違う何かがアルか・・・・・・ナイか。そう言いたいの?」

 ずいぶん曖昧に葉月も答える。美雪を殺した犯人は蓮華という説を信用できなくなってきた。考えてみれば物的証拠があるわけでもない。

「殺された美雪のためにも犯人を見つけ出したい」葉月にそう告げると彼女は「イヤ・・・・・・アイツは死んでないと思う」

「エッ・・・・・・誰のこと?」

 耳を疑った。アイツって誰?――いいや、そんなハズはない。葉月がそんなトンデモない事をいうはずない。

「美雪は死んでいない。たぶん生きている」

 ――耳を疑った。アリエナイ。実際に僕は死体を見たうえで警察に行った。葉月は、僕の妄想だと言いたいのか!?

「美雪が死んでないって。ウソだろ!おい、葉月」

「・・・・・・」

 葉月は答えない。空耳?・・・・・・まったく言わない上に急にジタバタし始める。

――ゴボ、ゴッホ、ゴボゴボ――

(ん!・・・・・・おい・・・・・・まさか!)

 目隠しを急いで取ったら、腹の上で葉月が溺れていた。



 僕は急いで風呂から出ると、葉月の口から水を吐かせる。そんなに飲み込んでいないが、危うく殺すとこだった。意識が戻らないが呼吸はあったので、急いで服を着せて自分のベッドに寝かせる。

「ウ―――――――ン・・・・・・」

 葉月の意識が回復する。最初はどこだかわからなかったが、やがて周囲を見渡して、僕のベッドにいる事を認識したらしい。キョロキョロとあたりを見る。少しつぶやいたのち、自分が服を着せられていることに気がついたらしい。

「・・・・・・見たのね!」葉月は顔を真っ赤にさせる。

「ああ・・・・・・まあな」眼を背けるが、たぶん葉月は怒っているだろう。

「注意不足でゴメン――ホントに」土下座するが、寝かせたままなので葉月の方が目線は下だ。あやまっているようには到底見えない。

「ううん、いいよ。私も無理を言い過ぎた」葉月は許してくれたのか。少しホッとする。

 もう午前3時、葉月も本来だったら寝ているはずだし、僕は星をながめている時間だ。窓を開けるとキレイな星空が見える。本当は限りないほど星があるのに、僕に見えるのはほんの一部にすぎない。美雪の事件も世界の大きさに比べれば些細な事で片付けられてしまうのか。でも、身近に起きた事件の影響は、自分にとって大きすぎる。

ハァ――フゥ――

 深呼吸した後、まだ目を閉じていない葉月に「死んでいないって本当?・・・・・・」と尋ねる。

「たぶん・・・・・・ね」彼女は自信なさげに答える。完全な確証があるわけではないのだろう

「生きている根拠は?」葉月が、そう考える理由を聞く。

「かっ、勘よ・・・・・・・・・いや、訂正する。感覚だわ」

「感覚?」それで、犯人がわかるのか?彼女は蓮華が犯人だと思っているが、本当なのかこっちが感覚的に変になる。

「かっ、感覚で生存が分かるわけないだろう!葉月、おまえ大丈夫か?」

 もしや、事件のせいでショックを受けたのか・・・・・・それとも溺れたときに、彼女の脳に酸素がいかなくなって頭がおかしく――

「平気。私は大丈夫。あなたには分からないでしょうけど・・・・・・」

(いや、僕だけでなく、世界中の人間に聞いてもわからないと思うが)

「後で・・・・・・説明するから――さ――――――ス――ス――」

「おい、葉月!・・・・・・葉月?・・・・・・・・・・・・寝たのか」

 まったく、寝るとはノンキな。でも深夜まで起きていたから、普通の人だったら眠くなるのも当然だ。いや、眠らない僕が普通でないけれど

――まったく――

 そして、今日も星を見上げる。寝るという感覚を持たない僕にとっては、寝るとは死ぬ意味だ。眠ると死ぬというのに、明確な区別がつけられない。眠ったまま死ぬ人間だって多いはず・・・・・・ふと、思う(みんなどうして眠るのが怖くないのだろう)

 葉月のかすかな寝息を聞き、考えながら星を見つめた。




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