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幻視幻影  作者: 矢島誠二
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七難八苦

 生き別れた双子の姉妹、一方が美雪でもう一方が葉月、しかも片方が同じクラスの同級生でもう片方が事実上の妹・・・・・・偶然にしてはできすぎている――

 そう疑問を感じながら、母さんが勝手に帰った後のリビングを見る。葉月は男と2人でいるのが嫌なのか、涙目でにらみつける。

 母さんから聞いた話では、葉月は美雪に会いたいらしい。生き別れという事情なのか、会う前に美雪が生き別れの妹についてどう思っているのか、それを知るために、同級生である僕を使って探りを入れたいと言う。

 事実上の妹になってまでする必要があるのか疑問に思うが、まずは目の前にいる葉月をこれからどうするか・・・・・・

(ベッドに寝かしつけてから考えようか)

 僕は葉月を抱っこして、自分のベッドに寝かそうとした。ふと、気づく

(これは・・・・・・まずいかな?)

 手足のない葉月を持つには、胴体を抱えるしかない。つまり手は首と彼女のお尻に触れることになるから――

「!!!!」

 葉月は声も上げずに、顔だけ真っ赤にして固まった。ベッドに寝かせれば少しは落ち着くかと思ったが、それは間違っていた。

「な、なんであなたのベッドに・・・・・・そ、そういうことね!」

「ごっ、誤解だよ。ベッドは僕のしかないわけだから、使わせてあげるだけであって、別にそこでヤマシイ事をしたいわけではないから――」

 しどろもどろになって、自分でも何言っているのか分からなくなる。

「いっ、いやよ。男の人が使ったベッドに寝るなんて、汗や体臭がうつっちゃうじゃないのよ!」

「大丈夫だよ。僕は一度も寝ないからうつるわけないよ」

「嘘つき!アンタって最低」葉月は一度も寝ない僕を嘘つき呼ばわりして、顔をそむける。(まあ、眠ると死ぬ人間がいるのは、信じられないだろう)嫌がる葉月を無理やりベッドに放り込んだ。

――もう午前1時か――

 時計を見るともう深夜。本来だったら、自分の部屋で勉強か天体観測をやっている最中なのだが、葉月があそこで寝ていることを考えると、むやみに部屋へ入らない方がよい。見たい深夜アニメはもう終わってしまったから、朝まで何をして過ごそう・・・・・・

(まあ、久しぶりに新聞や雑誌でも読むか)

 そう思って、端っこに山積みにされている。新聞紙の束を手に取った。普段は、テレビの番組欄だけしか見ないのだが、他にやることもないので、全ページをめくってみた。特にどうってことないニュースがほとんどだったが、うちの近所で起きている事件に目が留まった。

『また目撃!首のない鳥の怪奇談』

(美雪が言っていた噂ってこれの事か・・・・・・)

 新聞記事には、あまり詳しい内容はのっていなかったので、雑誌と照らし合わせてみる。どうやら、この近所で動物をバラバラにする鬼畜趣味の人間がおり、そこからこの類の噂が発生したものらしい。警察はその行為が殺人に発展するのを警戒しており引き続き捜査を進めているという。

「・・・・・・まあ、噂なんてこんなものか」

 この猟奇事件は気味が悪いが、いずれ警察が捕まえてくれるだろう。自分には関係ないと考え、僕は雑誌を閉じる。

――ドッシーン―――――

 2階の僕の部屋で何かが落ちる物音がした。

(葉月がベッドから落ちたのか?)

 今日のヨダレを垂らしながら寝ていたことを想像する。あいつなら美雪と違って、やりかねない。様子を確認すべく2階へ上がった。

「おい葉月、大丈夫か!」

 2階に上がると、葉月が苦しそうな表情で床を芋虫のように這う。やはりベッドから落ちたらしい。打ち所が悪かったかもしれないので慎重に抱きかかえる。葉月は苦しい小声で僕に

「・・・・・・漏れちゃう」

「はあっ?」

「だっ、だから・・・・・・トッ、トイレ」

 心臓の鼓動が高鳴る。休ませていたカラダは、また元の状態に戻ってしまった。

「わ、わかったよ。今、連れて行くから」

 とりあえずここで漏らしたら、パンツを脱がしたりしなければならない。急いで彼女を抱えてトイレに行かせる。便座に置いて立ち去ろうとするが、葉月は呼び止めた。

「あんた、目隠しを付けなさい!」

「はあ、何でだよ!」

「ワタシがパンツを脱げない事を知ってて、わざと言ってるの!」

 葉月は自分も目をつぶりながら、顔を赤らめる。いずれにせよ僕はパンツを付けたり外したりしなければならない。

 僕は目隠しを付けると、速攻で脱がせて外へ出る。

「パンツの匂いを嗅いじゃだめぇぇ!あと、耳栓もしろ!音を聞くなぁぁぁ!!」

「しねえよ!そんなこと」

 そういえば、女子トイレには消音装置がついているというのを聞いたことがある。無論、1人暮らしだったこの家に、そんなものは付いてない。あるとすれば、デパートか学校か――

――アッ、学校のトイレはどうする?まさか母さんが学校まで行くわけじゃないよなあ・・・・・・美雪か。生き別れとはいえ姉妹なのだから美雪に学校の事は任せるつもりなのか。しかし、美雪と変な関係を持っていると誤解されたくはないだろうし

「・・・・・・わよ」

 扉の向こうから、葉月の声がしたような感じがした。でも耳栓を外すと怒るので、ばれないよう耳栓を少し外して、扉に耳を近づける。

「終わったわよ!だから早く来なさい!」

 葉月の恥ずかしそうな大声を聞いて鼻血を出した。

 目隠しをしながらパンツを履かすのは非常に大変なこと。だから葉月の音声案内で、何とかパンツを履かす。着ていたのがワンピースでよかった。

「ううう・・・・・・汚されちゃった。柳瀬さん、あなたの息子はヘンタイです」

「人をヘンタイ呼ばわりするな!でも今まで、どうしてたんだ?」

「昔は手も足もあったから2人がかりで済ましていたのよ。それ以降は、柳瀬さんがワタシの面倒を全部みてくれたし」

「2人がかりって?」

「あんたには関係ない」

 敵意を向ける葉月、学校へ行ったとき美雪や他の生徒に変な事しゃべらないだろうな・・・・・・

「学校で、僕たちと美雪との関係はしゃべるなよ」と忠告すると

「無論よ!あなたが弟なんて認めたわけじゃないから」ふくれっ面で返されたので

「でも、母さんの息子だとは認めてくれたがな」と言い返した

「認めたつもりは・・・・・・」

「さっき言ってたじゃないか、息子はヘンタイだって」

「そんなこと、私は言ってない!」

「ハイハイ。わかった。わかった」

 僕は葉月を寝かしつける。これで後は、学校に行くまでゆっくりするのみ。ふと時計を見る。

「ゲッ、もう5時かよ」

 そういえば、葉月は学校へ行くのだろうか?あのカラダでは、僕の学校ではないのかもしれない。仮に葉月を自分の学校に連れていけば、面倒なことになりかねないのでは?少し考えようと僕は、ベランダに出て夜風を浴びる。

――明日になれば母さんが戻ってくるし、朝食を取ったら葉月を寝かしとけばいい――

そう考えて、僕は明けの明星を見つめた。



 ベッドで横になりながら私は考えた。目をつぶり、昔を思い出す。

あの時から9年、いや10年たつか・・・・・・

 腕を手もとに持ってくる。この感触・・・・・・目をそっと開くが、腕はない。

 私の手足は姉さんによって奪われた。だが、感覚までは奪われなかったらしい。

 この感覚が、私を復讐へといざなってくれる。

 これは、間違いなく私の腕、私の足。脳がそう教えてくれる。

 そして、奪われた自分の生活、1人で風呂にもトイレにも行けないもどかしさ、むなしさ。すべて復讐に変えられる。

・・・・・すべて奪った姉さんを私は許さない。

 いや、手足を奪うだけでは物足りない。姉さんがあの手足で、勝ち取ったもの、すべてがほしい。

――ワタシは、姉さんに成り代わりたい

 そして姉さんが、持っていたもの、すべてを奪い返したい。




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