プロローグ・序◆夜
更新は遅めです。加筆・修正が多いので何かおかしな点がありましたら御一報頂ければ幸いです。
「……少し話がある」
夜。街の明かりは既に失せ、あるのは警備兵の角灯、ぽわり輝く小さき光。
一つの声は谺した。それは人のモノとしては考えられない程に鋭く、畏怖に満ちたモノだったが、しかしどこか深みが満ちた、不思議な声だった。
「どうしたの、突然」
対したもう一つの声はそれに恐怖する様子は少しもなく、寧ろ少し高めの声で、疑問を込めてそう尋ねた。
「なに、少し気になったのでな」
「良いよ。何?」
「うむ……」
その後、何かを思い詰めたかのような、張り詰めた少しの静寂が生まれ、そして、
「辛くはないか?」
その言葉は、決して多くは語らなかった。
しかし、二つの間では、それはそれだけで十分だった。
「うん……辛くない訳じゃないよ。それに、私がやっているのはそういう事だからね」
それから一呼吸置いて、声はこう続けた。
「これが本当に正しい事なのか、本当は他にもっと正しい道があるんじゃないのか、なんて思う時もある。でもね、この気持ちはあの頃からずっと、今も同じなんだ」
声は小さく、だが強く、はっきりと言い切った。
「だから私は、まだこの仕事を止めるつもりはないよ。手を汚す事になるのは、最初から覚悟していたことだしね」
「ふ、そうか……。変わらぬな、お主は」
「そう簡単には変わらないさ、人の心は、ね」
呆れたような、感心したような溜め息が聞こえた頃は、暫く後の事。
それに続け、暗夜を照らす小さい光は、瞬く間に輝きを失せた。