死神・白2
目の前に広がるは、蒼く澄んだ、広い空。
多彩な色の、家々の屋根。
そっと、下を見下ろす。
小さく見える、人々の影。
ミニカーのように走る、小さな車。
やっぱり、少し。少しだけ、怖い、かな。
他の建物よりも少し高いこの建物の屋上には、初夏の涼しい風が吹く。
私の気持ちをも、そっと飛ばすような、心地良い風。
「今までどうも……」
誰ともなく声をかける。
この世から、消え去る前に。
片足をそっと、空中へと踏み出す。
「ちょっと待ちなさい」
目の前に、真っ白な翼を使って飛ぶ、少女が現れた。
長く、白い髪を二つに結った、不思議な少女。
「あ…あなたは…?」
「私は死神。どうしてあなたは死のうとするの?」
「私は…」
何だろう。
今の生活を続けるのが嫌で、生きる気力を失くしていた。
ただ、それだけだった。
「ふぅん。情けないわね。それだけの事で死ぬなんて」
「な、何よ!
私の勝手じゃない」
「あなたが死んで、悲しむ人だっているのよ」
他の人なんて知らない。
私が、生きたくないと思っているから。
「人は自分の為だけに生きるのではない。
人の為にも生きて、初めて本当のイキルになる」
「……?」
「私の母が言っていた言葉よ。覚えておきなさい」
彼女の姿は消えていく。
これまで、こんなに胸に響いた言葉を聞いたことが無かった。
そして私は、ゆっくりビルの階段を降りて行く。
頭上に浮かぶは、雲一つ無い、蒼く澄んだ、広い空。