死神・黒2
今日はオフ会。
自殺願望者の集まる、オフ会。
オフ会とは、オンライン上で知り合った者たちが実際に会うこと。
自殺願望者が募るページを調べた結果、多数のサイトが出て来た。
その中の一つに、僕は仲間入りをしたのだ。
「一緒に死にましょう」
これが、このサイトの名前。
よく世の正義たちに止められないものだ。
半年ほどの期間限定のこのサイトは、最後まで残った人々でオフ会をするという物だった。
そして今日が、そのオフ会の日なのだ。
「こんにちは。友也さん…ですか?」
「は、ハイ…。こんにちは…」
「私はカナです」
「ど、どうも…」
結局、最後まで残ったのは僕らだけだった。
今から彼女の私有する島へ向かう。
神奈川県から北部へ向けて少し行ったところだ。
島に到着した僕等は、早速テントを張り、火を焚いた。
「結局、私たちだけね…」
カナさんが小さく言葉を漏らす。
「そ、そうですね…」
「私たち、もう死ぬのね…」
「カ、カナさんは、どうして死のうと思ったんですか?」
「私?
そうね。何だろう。夫が死んじゃったから、かな…」
「旦那さんを追いかけて、ですか?」
「ま、そういうことね」
彼女は苦しそうに笑みを作った。
そう思うと、僕の今までの苦しみは一体何だったのだろうかと思う。
「友也さんは、どうして?」
聞いて来るだろうとは思っていた。
先にこちらから質問して同じ質問が帰ってくることは普通の事だ。
しかし、彼女の理由を聞いて、少し後ろめたい気持ちになった。
「何か、訳があったの?」
それでも彼女は聞いてくる。
他に、僕の話を聞いてくれる人は居ない。
彼女は聞いてくれようとしている。
彼女の理由よりずっと軽い苦しみと分かっていながらも、僕は話すことを決めた。
「人に、必要とされていないことが分かったんです…」
「人って?」
「仕事場の人とか、家族とか。僕は何をやっても役立たずでして…」
「そっか…」
「あ、でも、カナさんの方がずっと苦しい思いをして来たことは分かってます」
「そんな。苦しみは人それぞれよ」
彼女は僕の気持ちを分かってくれた。
こんな人、今まではいなかった。
「ホントに必要としてる人がいないとでも?」
ふと僕の背後から声がした。
若い、女の子の声だ。
僕は勢い良く振り向いた。
そこにいたのは、真っ黒な服に身を包み、大きな鎌を2つ背に掛けた少女が居た。
「き、君は!?」
「私?
見て分からない?
死神よ」
「死神、ですって…?」
「そう。あなた達、本当にこのままで良いのかしら」
彼女が突然不可解な事を言い出した。
「どういうことだ?」
「だから、あなたを必要としてる人がいるって事!」
「ホントにいるのか?
そんな奴…」
「もう、どうして分からないの?
目の前にいるじゃない!!」
イライラする彼女に急かされながらも僕は前に向き直る。
そこには、暗闇の中、炎の光だけでも分かるほど、カナさんのの顔は夕焼け色に染められていた。
「カナさん?
どういうことですか?」
「…ごめんなさい。ホントは私、死にたくないの…」
「え、でも、これを企画したのはカナさんじゃないですか?」
「えぇ。でも私、ネットであなたとお話していて、好意を持ってしまったみたいなの…」
「…僕も、死にたい理由がなくなりました。たった今」
僕はカナさんに向かって笑って見せた。
その顔には、きっと闇なんてものは映ってはいなかったと思う。
「僕には、僕を必要としてくれる人が現れたんです。信じて、良いですよね?」
「えぇ。信じてくれると嬉しいわ。でも、私はあなたより年上だし、結婚もしてたのよ。それでも良いの?」
「年や結婚経験なんて関係ありません。あなたは僕を必要としてくれた。それだけで、良いじゃないですか」
彼女は安心したのか、ゆっくりと静かに涙を流した。
僕はそっと彼女の目元に唇を落とす。
海のように、少ししょっぱい味がした。
「死神さん、ありがとな…」
僕は後ろを振り返り、礼を述べた。
しかしそこにはもう、死神の少女はいなかった。
本当に居たのかさえ分からないほどのあっさりと消えていた。
「もう、行っちゃったのね…」
カナさんは少女の居た所を見つめながら言葉を漏らす。
「大丈夫ですよ。僕らも、帰りましょう」
「そうね。又、頑張りましょう…」
僕らはこの、本の数時間しかいなかった島を離れ、帰路に着く。
これからの新しい希望を胸に抱いて、ゆっくり、ゆっくりと……。