死神・黒1
「私は、あなたを迎えに来た」
僕の前に現れた少女は言う。
闇のように黒い服に包まれ、背中には大きな黒い鎌が二つ。
「あなた、死にたいのでしょう?」
「あ、まぁ…。君は…?」
「私は死神。死を請う者を導く者。今の私のように」
僕は、世の中の全てに敵視されているようで、たまらなかった。
親に捨てられ、施設を追い出され、今まで独りで生きて来た。
もう、生きていても、何をする気にもなれない。
ならば、死んでしまった方が楽なのかもしれない…。
「頼む、僕を、連れて行ってくれ…」
「本当に、良いのね?
もう戻れないわよ」
「あぁ」
彼女が鎌を持ち上げる。
僕は、斬られて連れて行かれるのだろう。
「待って!
お兄ちゃん!」
泣きそうな声が聞こえ、振り返る。
先日久し振りに会った、実の妹。
僕等は町で偶然会い、僕は彼女を避けた。
もう、誰にも会いたくなかった。
「お願い!兄を、殺さないで…」
泣きながら妹は叫ぶ。
「もう、私は必要ないわね」
彼女の姿は消えていった。
* * * * * * * * * * * * * *
「又助けてしまったわ。
でも、妹さんに教えておいて良かった」
死神は静かに笑う。
「あなたって、ホントにいつも人を死なせないわね」
隣にいる、真っ白な死神が口を挟む。
「あなただってそうじゃない」
「確かにそうね…」
二人はそっと、笑い続けた。
死神の声は、僕の耳には聞こえない。
僕の声も、もう届かないだろう。
だけど、僕はきっと、一生あの少女を忘れないだろう…。
「ありがとう…」
僕は空へ、礼を述べた。