第八十九話 江戸への招き
東海道にて、二つの市場が並び立つようになってから、半年。
人々の間では、ある噂が広がっていた。
「山本屋の市場は変わっている。」
「何がだ?」
「小さい商人でも参加できる。」
「しかも、情報を隠さないらしい。」
「そんな商いが本当に続くのか?」
様々な声が飛び交っていた。
しかし。
確かなことが一つあった。
東海道の商いは、確実に変わり始めている。
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「若旦那。」
庄吉が帳面を持って走ってくる。
「大変です。」
「何だ?」
「江戸から使者が来ています。」
弥助は顔を上げた。
「江戸?」
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使者は徳川家の家臣だった。
丁寧に頭を下げる。
「山本屋の弥助殿。」
「江戸へ来ていただきたい。」
弥助は驚く。
「理由を伺っても?」
「江戸の町づくりについて。」
「殿がお話をされたいとのことです。」
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その知らせは、すぐ商人たちにも伝わった。
「江戸へ?」
「いよいよですか。」
庄吉は少し興奮していた。
「若旦那。」
「江戸はこれから大きくなる町です。」
弥助は頷く。
「だからこそ。」
「見なければならない。」
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しかし。
出発前。
弥助は共同市場を見て回った。
まだ大きくはない。
だが。
以前とは違う。
小さな商人たちが、自分の力で商いをしている。
「弥助さん。」
一人の商人が声をかける。
「江戸へ行かれるとか。」
「はい。」
「戻ってきてくださいよ。」
弥助は笑う。
「もちろんです。」
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「でも。」
その商人は続ける。
「もう大丈夫です。」
「何がです?」
「弥助さんがいなくても。」
「ここは動きます。」
弥助は少し驚いた。
そして。
嬉しそうに頷いた。
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江戸への道。
弥助は馬車の揺れを感じながら考えていた。
博多。
東海道。
そして江戸。
自分が作ろうとしているものは、一つの店ではない。
人と人が繋がる流れだ。
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数日後。
江戸へ到着する。
まだ発展途中の町。
しかし。
その可能性は大きかった。
広い土地。
集まる人。
増えていく武士と商人。
「大きくなる。」
庄吉が呟く。
弥助は町を見る。
「まだ。」
「形になる前の町だ。」
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案内された屋敷。
そこには本多正信と徳川家康がいた。
「久しいな。」
家康が声をかける。
「弥助。」
「お招きいただきありがとうございます。」
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家康は江戸の地図を広げた。
「この町を。」
「どのように育てるべきか。」
弥助は地図を見る。
道。
川。
土地。
人の流れ。
そして。
「市場がありません。」
家康は頷いた。
「そうだ。」
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「江戸には。」
「人は集まる。」
「だが。」
「物が集まり。」
「売買される仕組みが必要だ。」
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弥助は地図に指を置く。
「港。」
「街道。」
「市場。」
「全てを繋げる必要があります。」
正信が尋ねる。
「つまり?」
弥助は答える。
「江戸を。」
「物流の中心にするのです。」
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家康は静かに聞いていた。
「京都は。」
「文化の中心。」
「堺は。」
「商いの中心。」
「では江戸は?」
弥助は少し考えた。
そして答える。
「人と物が集まり。」
「未来を作る町です。」
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その言葉に。
家康は満足そうに笑った。
「未来を作る町か。」
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しかし。
同じ頃。
江戸の別の場所。
黒潮屋の使者も到着していた。
「源兵衛様。」
「江戸でございます。」
源兵衛は町を見渡す。
「まだ未完成。」
「だからこそ。」
「誰が最初に形を作るかで決まる。」
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玄蔵が尋ねる。
「山本屋も来ています。」
源兵衛は頷く。
「分かっている。」
「これで。」
「最後の勝負になる。」
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「最後?」
玄蔵が聞き返す。
源兵衛は江戸の町を見る。
「東海道。」
「市場。」
「信用。」
「全ては準備だった。」
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「本当の戦いは。」
「これから始まる。」
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江戸。
まだ小さな町。
しかし。
この町の未来を巡り。
二人の商人の思想がぶつかろうとしていた。
一人は。
人を繋ぎ、共に育てる道。
もう一人は。
力を集め、大きな流れを作る道。
江戸の未来を作るのは。
どちらの商いなのか。




