第4話 新たな一歩
「光惺殿は特技とかあるのですか?」
「いえ、特にないですね。昔は音楽とかやってましたが」
「音楽…管弦のことかな」
「管弦?」
「私達の遊びといったらまず思い浮かぶのが管弦。
私も箏が得意だったのですよ」
「へえ。今度聴かせて欲しいな」
「箏があれば是非」
「琴とは違うの?」
「呼び方は同じですが別物です」
ネットでみて「流石に高いな」
「どのぐらい?」
「ポテチ600~1300個ぐらい」
「まあ当然ですね」
なんだかホッとした気がする式部さん。
「もう管弦ではなかった、おんがくはやらないのですか?」
「もう諦めました。自分には才能がない」
「将来やりたいことは?」
「特にないですね」
「この時代はやりたいことは選べるのですか?」
「いえ。学力があれば選べるかもですが。
やりたいことを出来る人はあまりいないというか
出来ないのではないでしょうか」
「光惺殿はあにめとか好きなのだから
そちらの職に就くというのは」
「無理ですね。才能がない。
小説とか書こうと思ったこともあったのですが」
「小説?」
「式部さんのように物語を書く人です」
「なんと!」
「是非私にお手伝いさせて下さい」
「いやいや、才能なくて諦めたんですよ。
今は、最低限の生活をおくれれば満足です」
「そういう式部さんはこちらに来て何か書かないのですか?」
「私は」
「私は?」
「たくさんの人に読んでもらいたい。感想も聞きたい。
でもそれに答えるのが最近辛くて」
「えっ?式部さんが」
「はい。私をなんだと思っているんですか。
でも書きたい意欲はまだあります……」
僕の前に突然、紫式部が現れた。
これはどういう意味なんだろうか。
改めて考えてみる光惺であった。
最近式部さんは以前にもまして、本やテレビを見ている。
相変わらず布団の中に入ってポテチを食べながらだが。
しかし、時折
「この描写はおかしい。相手はこんな感情はいだかない。
主人公の葛藤はいいが、それを言葉として表現するべきだ」
など、主に脚本面に意見を言うようになった。
これは良い兆候なのではと思った。
どうも式部さんはスランプに陥ってたみたいだから。
観賞が終わると式部さんがやってきた
「光惺殿。今の時代に石山寺は残っているのですか?」
「石山寺?」
「淡海の近くのお寺です」
「淡海?」
「塩水じゃない海です」
「京都…平安京だっけ、そこの近く?」
「歩いて行くと丸一日ぐらいかな」
「ちょっと調べる。現存するね」
「頼みがあるのですが、石山寺に行ってみたい」
「う~ん。いいよ。今度行こうか」
「感謝する」
そして式部さんはまた、本やテレビを見始めたのであった。
僕は予定を見て、石山寺に行き方などを調べた。
後日、式部さんに言った。
「石山寺に行く日が決まったよ」
式部さんは「ありがとう」とだけ言った。
電車に乗り石山寺に向かう。
式部さんは驚きの連続だった。
「牛車のように狭くないし、広い。そして
馬よりも速い」
外の景色を見ては一喜一憂。
ジャージを着たいい年した女性が騒いでいるので、
目立ちまくった。
でも僕は、そんな式部さんが好きだった。
だってこんなにも楽しそうだから。
石山寺に着いた。
式部さんはしばらくジッと見ている。
境内に入り、見て回ったが、式部さんが驚きの声をあげた。
「式部さんどうしました」
「私の像がある」
式部さんは「私はこの時代でも生きている」
と言って涙を流した。
少し落ち着いたので、再び歩き出す。
更に源氏の間というところに行くと、
紫式部が執筆している人形が。
「私の等身大ふぃぎゅあが!!」
式部さんはまたしても涙した。
ようやく落ち着いてから外に出た。
景色が美しい。
しかし急に空が曇ってきたのだった。
「式部さん。雨が降ってきそうですよ」
しかし式部さんは動かない。
そして空を見つめている。
ゴロゴロと音がする。
雷だ。
「ねえ光惺殿。人の才能とは何でしょうね。
私はただ、届けたかった。知ってほしかった。
それだけです。観て、考えて、向き合う。
それが出来る者を、私は才能ある人と言うのだと思います。
光惺殿、どうか“ない”などと言わないでください。」
僕は式部さんが言われた事を考えた。
僕のやりたいことは…
視界が一瞬、光に包まれ、真っ暗になった。
そして雷光が。
式部さんをみた。
笑顔で消えていく。
「式部さん。待ってよ。僕はまだ。ねえ」
しかし式部さんは消えてしまったのだ。
数日後。
今日のニュースです。
源氏物語で有名な紫式部の新たな執筆が見つかりました。
かなり朽ちており完全な解読は不可能ですが、
わずかに読み取れるのは
かぷめん・ぽてち・じゃあじ、そして光惺という文字です。
現地では新たな発見に沸き立っています。
専門家では早くも続紫式部日記と命名されています。
では解説の方に伺っていきましょう。
え~どれも当時の文化を知る貴重な文献で…
光惺というのは人の名でしょうか。
しかし当時はこういう名はなく…
僕はテレビに食いついた。
そして「式部さん」
短い間であったが式部さんと過ごした日々を思い出した。
僕はこのことを記録に残すことにした。
【紫式部がやって来た】
そして大学での転部希望を申し出た。
式部さん、僕はやりたいこと見つけたよ。
今度は僕が、式部さんのいた時代を知りたいんだ。
(完)
お読みいただきありがとうございました
読んでいただいた皆様に感謝を




