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第2話 故郷

あれから数日が経った。


式部さんは毎日布団で寝ながらTVと本を見ている。


ポテチは買っても買ってもすぐ食べられてしまう。


食事もカップ麺で済ませるようになっていた。


光惺から見ればダメ人間になっていた。


「あのう式部さん」


「光惺殿、新しい本はまだですか」


「どんなのを読みたいのですか?」


「そうですね。恋愛ものです。その……」


「その?」


「男女の逢瀬(おうせ)もいいのですが、男同士の逢瀬も」


「……」


完全にダメな方向にいっている。


「式部さん。たまには外にでて、散歩?散策?


とかしませんか」


「いやです。外の世界は怖いです」


「僕が付いてますから」


「この時代の外の世界は、馬より早いものが


たくさん走ってるし、鬼のような物の()


襲ってくるのしょう?


「半分、創作物と混ざってます。


鬼のような物の怪なんて存在しません」


「でも書物には」


「だから創作です」


僕はもう疲れました。


そういって光惺はエナドリを飲み始めた。


「光惺殿。それは?」


「エナドリです」


「えなどり?」


「え~と元気になる」


「私も飲んでみたい」


仕方ないので式部さんに1口飲ませた。


すると……「これはなんだ。


胸のあたりの鼓動が早くなる」


式部さんの時代の人は、こういう刺激物を飲んだことが


ないのであろう。


「はぁはぁはぁ」


「大丈夫ですか?」


「ただ活力がみなぎってきた。ようし残りの本も読むぞ」


僕は頭を抱えた。


一体何故こんなことに。



しばらくして式部さんがモジモジしながら聞いてきた。


「光惺殿。清少納言という名を知っているか?」


「清少納言。枕草子を書いた人ですよね」


式部さんは項垂(うなだ)れた。


「そうなのか。この時代でも有名なのか」


「でも知ってるのそれだけですよ。


式部さんの方がたぶん有名ですよ」


僕はパソコンを立ち上げた。


そして清少納言と紫式部の情報量の数字の差を見せた。


すると……


「よっしゃあああああああああ。やったああああああああああ」


「式部さん?」


「どうだ。散々知識をひけらかしておいて


私の方が勝っているじゃないか」


式部さんは上機嫌になった。


思ったより心が狭い人なのかな。



式部さんについて分かった事がある。


地頭がものすごく良いことだ。


今や現代の本の内容も、理解できるようになっている。


テレビの操作も当然出来る。


ガス台も扱えるようになり、お湯を沸かすこともできる。


つまりカップ麺も、自分で作れるようになったのだ。


こうなることも、時間の問題だった。


それはこの前見せたパソコンも理解できるようになってきた。


なってきたではない。


なってしまっただ。


ネットで様々な事を検索していく。


動画も見て、SNSも理解し始めている。


僕がアルバイトに行って帰ってくると、


式部さんが興奮状態にあった。


何事かと思うと、紫式部と清少納言のどちらがすごいか、


という提示版で、式部さんが清少納言派にレスバトルを


していたのだ。


しかも最後は清少納言派が罵詈雑言(ばりぞうごん)を言って、


逃げ出してしまった。


強い。


他にはネットでアニメも見始めている。


僕がアルバイトから帰って来ると、


感想とあの声優はすごいとか最近は〇〇さんが


お気に入り声優だとまで語りだす。


「ねえ式部さん。ずっとこの生活を続けるの?」


すると、式部さんが黙ってしまった。


すこし経ってから


「自分はどうしたらいいのかわからない。


もう故郷の空もみられないんじゃないかと。


それを今は(まぎ)らわしてるだけ」


そう言って遠くを見つめる。


僕は申し訳なく思った。


自分が知らない時代に飛ばされて


ずっと平気な訳がない。



後日、僕はパソコンを使って調べものと買い物をした。


そして台所で調理をし、式部さんを呼んだ。


「式部さん。おやつですよ」


僕はネットで買った烏帽子(えぼし)を被り、作った椿餅(つばきもち)を出した。


式部さんは僕をみて固まった。


そして椿餅をみて「これは……」


椿餅は源氏物語に出てくる食べ物である。


完全再現とは行かないが、ネットで調べ、


かなり近い味になっているんじゃないだろうかと。


2人で向かい合い食べることにした。


烏帽子を被りながらだと難しい。


式部さんは「椿餅とは少し違う。違うけど懐かしい」


僕を見ながら涙を流して食べたのであった。


式部さんを元の時代に返してあげたいと思った。


いったいどうすれば……



この前の出来事から式部さんは遠くをみる時間が多くなった


故郷に帰りたいのであろう。


いつもは大はしゃぎして見るアニメも今は心ここにあらず


といったかんじである。


そんな時、式部さんが奥の箱を開けた。


しまった。そこは……


「光惺殿。これは?」


それは某アニメのフィギュアである。


隠しておいたのに。


「これはあの、あにめの〇〇ちゃんではないか」


「式部さん。これはフィギュアというものです」


「ふぃぎゅあ?」


「まあ人形ですね」


「ひいなみたいなものかな?」


「ひいな?」


「最近上流階級で、紙などで作った人形で遊ぶのが


流行っているんです」


「そうなんですか。これは紙ではないですけどね」


「まるで〇〇ちゃんがこの場にいるようだ」


「その精巧な出来に驚いている」


「それでこれをどうするのだ?」


「そうですね。飾ったりして見るのが一般的かな」


「私も欲しい。この前みた、あにめは素晴らしい。


主人公が仲間を助ける場面が私の心に残っている」


光惺はグッズを売っているサイトに行き、


俺がみんなを救ってやるの〇〇くんグッズを見せた。


「素晴らしい。殿にも見せてあげたい」


「殿?」


「藤原道長殿です。殿は元気にしているかな」


「あっ」


「光惺殿どうされた」


「式部さん。あなたのグッズがありますよ」


「ぐっず?」


「Tシャツ…お召し物に、アクスタ…まあ絵ですね、


キーホルダー…筒?袋?などに着けるものですね」


「私がこの時代に物となって売っているとは。


でもこれが私?」


「まあ現代風に創作されてますからね」


「このしゃつというのが欲しい」


「仕方ないですね。これ買いましょう」


それは薄紫の色に大きく紫式部とかかれ


本人の似顔絵が描かれていたものだった。


後日Tシャツが届いた。


式部さんがジャージの中にそれを着て上機嫌だった。


鏡の前に立ち満足げにしている。


「殿のお召し物にも、名前と似顔絵を描いた物を


描いてあげようかな」


「それはやめておいた方が」

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