第1話 未来へ
「わたしの書いた物語がみんなが読んでくれている。
もっと書きたい。もっと読んで欲しい。
でもこの物語の続きはどうすれば……」
そこへ雷が。
雷光が走った瞬間、姿が消えた。
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光惺はアルバイトが終わり家のマンションの前まで来た。
そこに見事な着物を着た女性が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
「水を……」
光惺は自分の部屋に行き、コップに水を入れ持ってきた。
女性は水を一気に飲んだ。
「なにか食べ物を」
光惺は迷った。
不審者に食事まで与えるのも。
しかし挙動はおかしいが着物はものすごく高級そうだ。
大丈夫だろうと思い、女性を抱え自分の部屋に連れて行った。
「食べ物といってもなあ」
仕方がなくカップ麺で我慢してもらうことにした。
「カップ麺でいいですか?」
「かぷめん?食べ物ならなんでも」
お湯を沸かし、湧いたらお湯を入れ3分待った。
「はい。出来ましたよ」とカップ麺を渡す。
「これはうどんですか?」
「いやラーメンですよ」
「らうめん?」
お腹の空いていた女性はカップ麺を食べた。
「なんという美味しさ。この世にこれほどの美味があっただろうか」
「カップ麺で大げさな」
「他に食べ物を」
仕方ないのでポテトチップスを渡した。
「これは?」
「ポテチ」
「ぽてち?」
食べ始めると
「なんという歯ごたえ、なんという美味しさ」
1袋全部食べてしまった。
「他に食べ物を」
「いい加減にしてください」
「すいません。あまりにも美味だったので」
「それより大丈夫ですか?病院に行きます?」
「びょういんとは?」
「医者に診てもらうか」
「いしゃ?」
「病気というかやまいを」
「やまい! 薬師か 験者でしょうか?」
「薬師? 験者?」
「仕方ない。ちょっと横になるといいです」
「ありがとうございます」
「まずはその着物をなんとかしないとですね。
服を貸してあげるのでこれに着替えて」
そういって紫のジャージを渡した。
「これは?」
「ジャージです」
「じゃあじ?」
しかし女性は光惺を見て、恥じらいを。
「すいません。僕、外にでてるんで」
光惺は部屋の外に出た。
しばらくしてもどるが、ジャージの上のファスナーが開いたままだ。
「なにやってんですか」
光惺はファスナーを上げた。
「なんという軽やかな装い」
光惺が着物を持つと「重っ!10kgはあるんじゃ」
そして女性を布団に寝かした。
「そういえば名前はなんですか?」
「私は……思い出せない。ただ、式部省に務めていたので
式部と呼ばれていました」
「式部さんね」
「僕は光惺」
「こうせい」
「そういえばなんでうちの前で倒れていたんですか?」
「雷が近くに落ちたと思ったら、気づいたら知らない土地へ。
彷徨い歩いていましたが、水も食料なく倒れてしまって」
「そうなんですか。記憶喪失とかですかねえ」
「私は書かなくてはいけない。でも物語の続きが思い浮かばない。
そう思っていたら雷が」
「物語ですか。どんなのを書いていたんですか」
「源氏物語」
「えっ?」光惺は驚いた。
「源氏物語」
「はい。そうです。そういえば今は長保何年ですか?」
「長保?今は令和ですよ」
「令和?」
光惺はスマホで調べた
長保999年~1004年と表示された。
まさかと思い「あなたは紫式部さんですか?」
「紫式部?誰ですか?
「えっ?」今までの流れだと絶対紫式部だろうと思ってたのに。
スマホで紫式部を調べる。
本名不明。
「では……父親は藤原為時では?」
「何故それを!」
う~んどうやら本物のようだが、まさかそんなことが。
「夫の名は?」
「藤原宣孝ですが」
「式部さん。覚悟して聞いてください。
今はあなたのいた時代から1000年以上経っています」
「まさか」
「なにかの事情で、未来へ来てしまったのですよ」
「そんな……」
「今日はここで寝て下さい。明日じっくり話し合いましょう」
翌日
「式部さん。ご気分はどうですか?落ち着きましたか」
「少し落ち着きましたが、受け入れられません」
「そうですよね。帰る手段がみつかるまで、しばらくは居ていいですから」
「ありがとうございます」
「朝ごはんにしましょう」
「かぷめんですか?」
「朝からカップ麺は食べませんよ」
「とりあえずお茶を出しますね」
「茶が飲めるのですか。光惺殿は貴族ですか?」
「お茶でおおげさな。自分は平民ですよ」
そして緑茶を式部さんに出してあげた。
「これはなんですか?」
「何ってお茶ですよ」
「まろやかで美味しい。でも私の知ってる茶じゃありません」
「えっ?違うんですか?」
「私の知ってる茶は上流階級の極一部の物しか飲めません。
味はこんなにまろやかではなく、薬のような味です。
本当に時代が違うのですね」式部さんは涙を流した。
光惺はあわてて「今、朝ごはん作りますから」と言って
式部さんに声をかけた。
しばらくしてご飯が炊きあがった。
そして鮭を焼いたのと味噌汁をだした。
「白米と魚とこれは…やはり貴族様ですか?」
「えっ味噌汁だけど」
「みそしる?」
「味噌汁もまだなかったのか」
「白米なんて貴族以外……やわらかい。硬くないのですね」
「えっ昔は硬かったの?」
「はい硬かったですよ。私はあまり食べたことなかったんですが」
「今の時代はとても豊なのですね」
「僕は貧しいですよ」
「では今の時代の貴族は何を」
「貴族。今の時代は階級はありませんよ。みな平民です。
もちろん貧富の差はありますけどね。
ただ天皇陛下は今の時代もいます」
「本当ですか。それは藤原家ですか?」
「いえ違うと思いますけど、たぶん」
「そうなんですか」
「今度会ってみたいですね」
「それは無理かと。ではこれからどうしましょうか」
「この時代の書物を読んでみたいです」
光惺は何冊か漫画を渡した。
そして読み方を教えた。
後は何が好みか分からなかったので、
ライトノベル・推理小説・恋愛小説など、片っ端から
説明し、辞書も渡した。
最後に懐かしいだろうと古典の教科書も。
「アルバイトに行ってくるから、好きにしてていい。
食べ物はここに」と言って出ようとした。
「あるばいと?」
「え~と勤務?奉公?それとも宮仕え?」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
アルバイトから帰ってきた。
式部さんは布団の上で寝転がりながら漫画を読んでいる。
側にはポテチの空き袋が3つ。
「式部さん……」
「お戻りになりましたか」
「これはいったい」
「この時代の書物は面白いですね」
「でしょうね」
「伊勢物語や竹取物語とは違うものなのですね。
この絵が一緒に描かれてるのは素晴らしい発想です。
これなら読み手にわかりやすく伝わりますね。
この時代のことや見たことない文字はわかりませんが、
雰囲気でなんとなく。私は漢文など異国語もわかりますので」
と早口で一気に捲くし立てて喋った。
「で、このポテチは?」
「書物のお供に素晴らしい。のりしおというのが
とても気に入りました」
「それはよかった……」
「あらかた読んでしまったので、他にありますか?」
「えっ?」
あれだけ用意していた本を読み終わっただと。
ただ目を通しただけなのか、ちゃんと読んだのか。
仕方がないのでテレビを見せることにした。
「これは!薄い四角い物の中に人が!」
「なんて言ったらいいんだろう。撮影…わからないか。
とにかく、芝居やら、情報やら宣伝やらが見れるんです」
「なんと!」
式部さんは食い入るように画面を見つめた。
片手に新しいポテチを持ちながら。




