喫茶モンブラン
ーモンブランかぁ。モンブランって言ったらスイーツのモンブランだよね。モンブランを食べられるのかなあ。まさか、喫茶店についているモンブランがヨーロッパアルプスの最高峰。標高4807.81 mの山を指していることなんてないよね。
看板の文字を見ながら、和栗はそのようなことを考える。
なぜかヨーロッパアルプス最高峰の山の標高に詳しい和栗。
ーケーキのモンブランがフランス語で、白い山という意味を表し、このモンブラン山を指しているから、どちらのモンブランでも同じモンブランを指していることに変わりはないけど。
世間一般的に言うモンブランは、スイーツのモンブランであると言う点に関しては疑う余地はないだろう。友達や知り合いに、急にモンブランの話を始めたところで100人中99人はスイーツのモンブランを思い浮かべるだろうことは想像に難くない。そう考えると、この喫茶モンブランという名前が指す『モンブラン』は、和栗の予想通りスイーツのモンブランで間違いがないだろう。
和栗は、その喫茶店に近づきながらガラス窓からチラリと中の様子を覗く。ガラス窓とは言っても、一枚窓ではなく、いわゆるカフェ窓とも呼ばれるような細かい仕切りが施されたもので、外側から中の様子があまり見えないように加工しているのだろう。あまり外から中の様子がはっきりと見える窓では、窓際の人が落ち着いて過ごせない。大手の喫茶店チェーンのように、あえて大きな窓を外からでもわかりやすいように配置することで店内のお客さんの入りを外の人に見せ、その店が人気であることを周知させることにより、購買意欲を掻き立てる手法もあれば、このお店のようにお客さんが落ち着いてゆったりとした時間を過ごせるような店の作りにしているところもあるのだろう。
あまりよく中は見えないが、そこまで混んではいなさそうなことを確認し、腕時計で時間を確認する。ただいまの時刻、午後3時を少し回ったくらい。昼前から聞き込みをしていたことを考えると、少しくらい休憩するために喫茶店を訪れたところで文句は言われないだろう。
公務員が休憩をとることにクレームを入れられる現代の風潮は、間違っている。もちろん、仕事もせずに休憩ばっかりしている人なら注意されるべきだろう。だが、その人に注意をするのは身内がするべきことであって外側の人間がどうこういうべきことではない。外から見ている人からは、その人がその時間までどのように過ごしていたかは判断できない。五時間働き続けて、やっと休憩をとるためにコンビニに入った人も、対して仕事をすることなくダラダラと過ごし、コンビニに入った人も外から見れば同じくコンビニに休憩しに来た人なのである。そのような人たちを一緒くたにまとめてクレームを入れるのは、現代におけるよくない風潮なのだろう。とはいえ、身内も常に監視しあっているわけではないので、ある程度は外からの視線というのも必要である。しかし、一場面を見ただけにすぎない人が強烈に批判するのは、どうなのであろうか。さまざまな人の立場に立って考えることが、現代の人間には求められているのだろう。
ーなんて、考えては見たものの。実際にクレームを入れられたらすごく面倒なのよね。まあ、私、今は警察の制服を着ているわけじゃなくて普通のスーツ姿だから何とかなるか!少しくらい休憩してもバチは当たらないよね!
和栗の現在の格好はスーツであり、見る人が見ても普通のサラリーマンだと判断する人が多いだろう。サラリーマンにまで休憩するなと文句を言う人は流石にいないだろうから、その点、和栗は安心して休憩することができる。(ただし、休憩しすぎて何の成果も持ち帰らないと、確実に上司に大目玉を食らうのだが)それに悲しいかな。和栗を見て警察官であると初めから見抜いた人は一人もいない。見抜くどころか、警察手帳を見せても疑ってくる人すらいる。もしも一発で、一眼で、和栗の職業を言い当てることができる人がいるとすれば、それは占い師か探偵くらいのものだろう。それも、生半可な探偵などではなく、かの有名なシャーロック・ホームズ並みの観察眼と推理力を持つ名探偵であろう。かの名探偵は、その物語の冒頭において、初対面のワトソン博士の職業や経歴を、その姿を一目見て、握手するだけで見事に言い当てた。
ーちょっと休憩するだけだから。何ならお店の人にも聞き込みすればいいんだし。
休憩することに対する言い訳を自分に言い聞かせながら、喫茶モンブランの扉を開ける。




