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喫茶モンブランの相談窓口〜依頼料はコーヒーで〜  作者: pippo
第一話 何も盗らなかった空き巣?

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1/10

語部和栗の苦悩

ー本当にこれは事件なのかな


額に少し浮かんだ汗をハンカチで軽く拭きながら、和栗(わぐり)は自らの手帳を覗き込む。その手帳は小型の(てのひら)サイズのもので、常に内側の胸ポケットに入れて、聞き込みの内容を書き込んでいるものである。事件や聞き込みという単語で察する人もいると思うが、この語部和栗(かたりべわぐり)の職業は警察官である。そして、一応刑事課に配属されている刑事でもある。年齢は20代後半ほどで、髪型はショートボブくらいのマッシュヘア。身長は、152センチほどと成人女性の平均身長よりはやや小さめ。童顔であり、身長も相まって高校生と間違われてしまうこともしばしば。


今は、GWが終わり、(とはいえ職業柄、和栗には世間のいうGW休みというものはなかったわけだが)世間の多くの人々はしたくもない仕事をするために、朝早くから出勤し、夜遅くまで働き続ける五月中旬。どうして長い休みが終わった直後で、ああも働かなくてはならないのだろうか。やる気も起きないのにやることだけはどんどんと増えていく憂鬱な時期である。とはいえ、和栗も例に漏れず(GW休みはなかったが)何とか仕事に精を出し、朝から夜までその職務を全うしている。


刑事である和栗に休みという概念はほとんどない。事件は毎日どこかで必ず起きるし、それはどんな些細(ささい)なことであっても警察がやるべき仕事である。交番勤務時代のように、毎日巡回や落とし物管理、交通整理をすることは無くなったが、刑事になってからは市内のあちらこちらに足を運び、常に聞き込み、捜査、会議。どちらが自分にとって良かったのかは、和栗自身にもわからない。やりたいこととやるべきことは、高校生だったあの時から変わっていないが、どうしても焦りが先走ってしまう。


5月中旬とはいえ、最近の日本は春という季節を忘れてしまっているかのように5月でも暖かい。いや、暖かいという言葉で済ませられないほどに暑い。暑すぎる。日中には30度を超える日だって存在し、昼と夜の気温差は、体調を崩す原因となってしまうのだろう。和栗も暑いとは思っているが、だからと言って5月に夏服を着るわけにもいかないので、長袖のスーツに身を包んでいる。(スーツを着ていれば、高校生に間違われることはないからという意味合いもあるのだが、、、)しかし、昼前から聞き込みのために、こう外を歩き続けていると流石に暑い。


ーはあ、今日も収穫はなしか。帰ったらまた報告書を書かなきゃいけないのに書くことがないよ。いつになったらこの事件?を解決することができるんだろう。


先ほどの聞き込みでは、大した収穫を得られることはなく、文字は並んでいるものの、何の価値ある文章も書かれていない手帳を見ながら、軽くため息をつく。毎日聞き込みをしながらも、何の価値ある情報も得られていないことによる心の疲労は、暑さと共に和栗の心身をすり減らす。


手帳を内ポケットにしまいながら、大きく深呼吸をすると駅まで向かって歩き始める。現場から駅までは少し距離が離れているので、和栗は駅までの道を歩いているのである。太陽は一番高く登ったところから、やっと落ち始めたとはいえ、まだまだ暑い。何なら今ぐらいが一日の暑さのピークである。コンクリートやアスファルトに囲まれた天然のサウナをスーツ姿で歩く。


ーこんな暑い日はタクシーでもつかえたらなぁ


和栗がタクシーを使わないのは、ただお金が勿体無いからである。緊急時や重要捜査の時以外は、基本的に移動費は経費では落ちないし、経費にするために領収書をいちいち保管するのも何かと面倒だ。(細かい金額の領収書をいちいち渡すと、上司が苦い顔を向けてくる。だから、なるべく経費を落とすのを控えるようにした。)電車で色々なところに移動できる今の時代、電車で行ける範囲には、電車で移動するのが一番安く済む。(その代わり、通勤の時間帯は地獄絵図である。)


電車が通る音を聞きながら高架下をトボトボと歩き、周囲の風景に目を向けていると、和栗の目にふとある看板の文字がとまる。


喫茶モンブラン


ー喫茶モンブラン?可愛い名前のお店だなあ。


和栗の目に入ったのはレトロ風の文字で喫茶モンブランと書かれている小さな看板である。お店を見ると、美しい金色ブラスの装飾が施されたステンドグラスの青い扉と、その隣には緑がイキイキと映える観葉植物が置かれ、レトロな雰囲気を思わせながらも古臭いわけではない、綺麗に飾られた店が目に入る。



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