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近所にあった曰くつきの建物について

作者: 冬空

この話をすれば、大抵の人は住宅街を思い浮かべる。だけど、ちょっと違う。

大通りに面したところで、道路を挟んだ向かいにはスーパーがあるような、そんなところに曰くつきの建物はあった。

奥に長く、横幅は狭い。車なら縦並びで2台から3台ほどは停められただろうか。

1階だけじゃなく、2階もあり、高さは普通の家とそう大差がなかったように思う。

その建物は、私が産まれるまえからあるように感じた。昭和の頃だろうか、さすがに大正ではなかったはずだ。

私がその建物を知るころには誰も住んでおらず、ただひっそりとそこにあるだけだった。だから私も、そんなもんだと思って気にもしてなかったし、変わることもないのだろうとも思っていた。

それに変化が訪れたのはいつだったか。もはや思い出せない。その建物に店ができた。

店名も、どんなお店だったかも覚えていない。なにせ、行ったことがなかったのだから。

新しいお店ができたということで多少の興味はあったが、それだけ。通りかかるときに少し覗くぐらいの興味でしかなかった。

それよりも友達と遊ぶことのほうが楽しかったのだ。自転車のペダルを漕いで、徒歩では行きづらい遠い場所に遊びに行くことのなんと楽しいことだろうか。

……少し話が逸れた。

土地は狭いながらも立地のよいその場所にできたお店は、――1年も経たずに潰れた。

驚きはあった。そんなすぐ潰れるんだと、そう思った。ただ、潰れるのも仕方ないとも思った。

なにせ、そんな人気のあるようなお店ではなかったし。なにより、少し暗い雰囲気があったから。だから仕方ないと。

ただそれに違和感を感じたのは、2回目だか3回目だかにできたお店のときだった。

そのお店は、たこ焼きとお好み焼きを売りにしていた。店主と従業員の2人だけのお店だったはずだ。本場の技術を身につけた店主の腕前は素晴らしく、とろっとしたたこ焼きは今まで食べたことがないぐらいに美味しかった。

店内には鉄板を取り付けた大きな席が4つほどあり、そこで焼いて食べるのも楽しそうだった。価格もリーズナブルで、たこ焼き1つ500円。お好み焼きも6~700円ほどで買えたように思う。

その美味しさから絶対に人気になると、そう確信したものだが、現実はそうは上手くいかない。

美味しいということで、友達とたまに食べに行くのだが、どういう訳か、いつ行ってもお客さんが1人も居ない。あれだけの美味しさでどうして、とは何度も思ったことだ。

もしかしたらその時間が一番空いてるだけで、夜ならもっとお客さんが来てるのかも、なんて淡い期待もした。

私はそのお店が好きだった。味が美味しいのはもちろんのこと、子供であった私たちにも優しく接してくれた店主たちの人柄も好きだった。だからこそ、ここが曰くつきだと言おうかと迷った。

もうその時にはそういう土地なのは察していた。このままここで店を構えるのは危ないと。でも、根拠のない話を信じてくれるかわからなかったし。なにより、まだ若かった店主が、大金をはたいて手に入れたであろうお店が曰くつきだとは言い出しづらかった。

だから結局、言うことはせず。潰れないように、なるべく多く通うようにするのが背一杯だった。

だけど、それも無駄に終わった。またも1年も経たずに潰れた。

ショックだったし、その後の店主たちの行方も気になった。せめて、破産するまえに店を手放せていればと、そう願うしかなかった。

以降、私はあの建物には近寄らなくなった。なにか出来てもまたすぐ潰れるだろうと、気にもしてなかった。

あらためて思い返すと、あのお店が潰れたのがよっぽどショックだったのだろう。

またあの味が食べたいと、今でもそう思うのだから。

あの建物が潰れる直前、最後にやっていたお店は寝具店だった。いつやってるかも不明だったが、あれが一番長くやっていたかもしれない。それも結局は潰れて、今や駐車場となっている。

おかしな話かもしれないが、その建物は2つあった。とは言っても繋がっていた訳ではなく、同じ造りをしていただけではあったが。

その建物が潰れる少しまえに初めてできたそのお店は開店当初から大繁盛。未だに潰れる様子も見せずに、元気に営業している。

ほんとに可笑しな話だ。隣の建物さえ選べていたら繁盛していたかも、なんて。

今さらの話だし、たとえそちらを選んだとしても上手くいく保証なんてない。

それでも、そんなタラレバを考えてしまう。

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