ふたりぼっちのセカイでキミと 後編
ある日、車に跳ねられて強烈な痛みと共に意識を失った私、
富陽水姫の目の前には理解出来ない光景が広がっていた。
「え!?えええええ!?」
だってそこは、雲の上で、目の前には西洋の羽衣を身に付けたピンク色の髪をロングヘアーにした女の子がいたんだから!
女の子の歳は一見高校生ぐらいに見えるけれど、一見とは違う存在感だった。
「え、えっと…何があったのかな…新手のメタバース?可愛いね君…」
私は目の前の光景が理解出来なかった。
目の前の女の子の髪は天然の色に見えて、染めてるように思えなかった。
それに、まだ現実と区別出来ないレベルまでメタバースは進化していないから。
「うーん、メタバースじゃないね、私はリン、天使なの」
女の子はにこりと笑い、私に言う。
「あ、そうなの…」
私はオタクだから、非現実的な事には耐性があるつもりだけど。
実際に自分の身に起こるとどうして良いのかわからなくなっちゃった…
「うーん、半信半疑だね、ねえ水姫、何かいらない物あるかな?」
リンは私に言う、あれ?名前教えたっけ…?
私は促された通り、ワンピースのポケットからダブったガシャポンのカプセルを取り出す。
「これで良いかな?」
私がカプセルを渡すと、リンはカプセルを手にとって何かを念じた。
すると、リンの背中から天使の翼が出てきて、彼女の手のひらが光る。
するとカプセルはパンに変化していた。
私はその光景に仰天していた、まさか本当に…
「え!?」
リンはそのパンを私に手渡して来た。
「信じた?これが天使の力だよ、食べてみてよ」
私は何がなんだかわからないままに、パンを口に含む。
本当だ…プラスチックがパンに変わってる…
きちんと食べられるしパンの味もする。
「う、うん…信じるよ…目の前でこんな事見せられるとね…」
私が言うと、一息ついてリンが言う。
「ねえ、なんとなくだけど、わかってるかな?」
「うん…重傷負った直後に傷も治って、ありえない場所にいるのは…」
「私、死んじゃった…んだよね…」
リンは私の言葉に重い顔をしてこくりと頷く。
そっか…あの運転手も憎くてたまらないけれど、私には今一番気になっている事があった。
「わ!私の彼氏は!?」
私が訪ねると、リンは重い顔で口を開く。
「その人も君と一緒に…」
リンの言葉にショックを受けるけれど、私は驚きはしなかった。
予想は…してたから…
「こーくん…こーくん…」
私はリンが見ているのも気にせずに、ずっと泣いていた。
どんどん涙が溢れて来て…
悲しいよ…さっきまで一緒にいたのに、こーくん…
父さん、母さん、皐月…
もう、みんなに合えないの?まだまだしたい事もあるのに…
しばらく泣いて、気持ちの整理をしていると。
私はリンに声をかけた。
「ぐすっ…ねえ、ここは天国なの?こーくんは?」
私が言うと、リンは気を使わせてく無いからなのか、落ち着いた口調で言う。
「いや、ここは中間地点だよ、まだ天国じゃない」
私はリンの言葉の意味がわからなかった。
「え?」
「あのね、私の力じゃ時間を大きく遡る事は出来ないけど
ある程度の未練は無くせるかもよ」
リンの言葉に、私は衝撃を受けた。
「え!?それってどういう意味!?」
私はリンに詰め寄る、何それ!?
「あのさ、二人は旅行に行く最中に事故に合ったんだよね?」
私はリンの言葉に頷く。
「未練全くない人はいないから全部は無理だけど
その旅行の未練ぐらいはどうにかしてあげたいなって
彼氏も未練あるんじゃないかな?」
私はリンの言葉を訊いていると、胸がドキドキするのを感じていた。
失われたデート…こーくんと…
「う、うん!したいよ!お願い!」
私は迷いもせずに言う、リンは優しく笑う。
「でもさ、私たちは見習い天使だから、デメリットもあるよ?
そのまま世界を創造する事なんて出来ないし
彼氏と一緒に私たちが擬似的に見せてる世界に飛ばすから」
私はリンの力の強さに驚いていた。
見習いでそこまで出来るんだ…
リンが説明を続けると、擬似世界の特性はこうらしい。
・スタート地点はその人の一番大切な場所。
私とこーくんで大事な場所は違う可能性もあるから。
私と彼でスタート地点が違うかもしれない。
・私とこーくん以外の生命が存在しない。
・奇跡の力の限界で記憶やインフラに影響が出る。
・擬似世界の限界は3日間。
私はリンの言葉を訊いた上で承諾する。
未知の世界かもね、少し怖いけれど、心臓がドキドキする…
「うん、わかったよ…」
リンが私の心臓に手を当てる。
リンの身体が光って、天使の翼が広がる。
「それじゃあ...行くよ…」
私は目が覚めると、街中でトラックに轢かれた筈なのに、何故か夜中になっていて。
家の中にいた。
何故かスマホの日付がおかしいから電気時計の日付を見ると。
8月1日、24時2分を示していた。
痛みがない…怪我も...
そもそも事故にあったのは8月1日の昼頃なんだ…
なんで?時間が巻き戻ってる?
慌てて電気をつけようとスイッチを押すけれど。
押しても何も反応が無かった。
私は実家暮らしで、慌てて家の中に父さんと母さんを探すけれど。
誰もいなかった。
「父さん!母さん!」
私は、目の前の光景が信じられなかった。
家から出て自転車で夜道を走るけれど、人が一人もいなかった。
コンビニも真っ暗で、電気もついていない…
私はあるアパートの目の前に来ていた。
合鍵を使ってこーくんのアパートのドアを開く。
「こーくん!」
でも、そこにも誰もいなかった…
しーんとする部屋で、こーくんの物だけが残されていて…
「な、なんで…」
私は全部を失った絶望感で打ちひしがれていた
…
私は家に戻って、真っ暗な部屋でしばらく考えいた。
なんで本当にひとりぼっちになったんだろう…
「う!うわああああっ!!」
私はひとりぼっちで叫ぶけれど、むなしく声が響くだけだった…
なんだろ?悲しくて寂しいけれど、現実感がなくて涙も出てこない…
どうすれば良いのかな…
しばらくすると、頭の中にこーくんの事がよぎって来た。
なんでだろ?家にいなかったのに、あの場所に行けばこーくんに会える気がして…
本能的にそう感じていた、デートの最中に事故に合ったんだから。
デートの目的地に行けば彼に会える予感がする。
私は意を決して自転車に乗り込む。
キャンプ場は遠いけれど、自転車で行けない距離じゃない。
車を使おうとも考えたけれど免許も持ってないし。
何より今は車が怖くて。
私は夜空の下で一心不乱に自転車をこぐ。
綺麗な夜空だけど、のんびり見ていられるほど私には余裕がない。
キャンプ場でこーくんに声をかけてもらって助けてくれた時、嬉しかったんだ。
きっかけはカッコいい顔に一目惚れしたんだけど、後に彼の良い所もわかって来た。
ロマンチストなこーくんにとっては、一番大切な場所がキャンプ場でもおかしく無い。
暗い景色が怖い…自転車のライトをつけても視界が不安定で不安定になる。
街頭は光ってるけれど、この家も電気がついていなくて、それが怖い…
深夜とは言え何故か車が一台もいなくて。
普段通ってる道でも別物みたいで…
「あれ?」
しばらく自転車をこいでいると、私はある事に気づいた。
人どころか、他の生き物を見かける事が全くなくて、全然空腹や疲労感を感じない…
そこまで体力は無いから休み休み行こうと思ってたけど、その必要性が無いんだ。
だけど、どこか手応えもない、不安定な感覚。
すいすい進むけれど、自転車をこいでても楽しくない。
普段は大好きなアニメと同じ気分で楽しく自転車をこいでたけれど。
今は苦難も実感も無くてどこか空虚だ。
でも、空虚だけど、私は脚を止める訳には行かない。
そのまま運転を続けていると、夜が明けて朝日が見えて来た。
「綺麗…」
今の自転車の運転自体は楽しくないけど、私は眩しい朝日を見れた事をモチベーションにしていた。
眩しい朝日は私を照らしてくれて、多分私は笑っていたと思う。
私は手応えを感じないまま自転車をこいで、キャンプ場にたどり着いた。
そこには、私が求めていた人がいた…
短い黒髪に、遠くからでもわかる精悍な顔立ち…
私は自転車を止めて彼に向かって駆け出す。
「こーくん!」
「水姫!」
そして、そのまま彼に抱きつく、彼は逞しい身体で私を抱き締めてくれた。
彼のぬくもりを感じて、私は安堵する。
太陽が祝福するように私たちを照らしてくれた。
「なあ、なんで俺がここにいるってわかったんだ?」
「それはね…私たちの始まりの場所だから!
ここからさ、つかの間のふたりだけの世界を始めようよ!」
「ああ…そうだな…最愛の恋人と、やり残した事が無いようにな…」
こーくんがそう言い、私とこーくんは笑っていた。
これから紡がれる、こーくんとの幸せな世界が楽しみだった。
完
時系列は
後編(真相解明)
↓
前編
↓
中編
です、読んで下さった方、ありがとうございました!
今回は音楽をあまり聴いてないで作業しました。
綺麗な自然とか二人だけの楽園を書きたかったんです。
上手く表現出来ていれば良いのですが、どうでしょうか?




