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ふたりぼっちのセカイでキミと 前編

 俺が見上げた空には、鳥の一羽も全く翔んでいなくて。

 誰もいないキャンプ場に立てたテントの外には快晴の夏の青空と雲がひろがっていた。


 ある日目が醒めると、突然…世界中から人々、いや、俺たち以外の生物が消えてしまった…

 まるで俺たちだけがこの世界に取り残された様に。

 電気なども使う事が出来ない謎の現象。

 だけど、原因を解明した所で俺にはどうしようもない。

 いや、それを解明する気すらなかった、と言った方が正しい…

 俺には、世界の異変よりも大切な事があった。

 それは…

「こー君、おはよう」

 何よりも大切な、俺の恋人の富陽水姫(ふようみずき)だ。

 腰まで伸ばした長い髪とパッチリとした目が特徴の俺の彼女。

 俺の名前は吉平孝明(よしひらこうめい)、水姫は俺の事を「こー君」と呼んでいる。

 水姫は俺にニコリと微笑む。

 俺たちは今、誰もいないキャンプ場にテントを立てていた。

 水姫ははんごうを暖めてご飯を炊き、カレーを調理していた。

 簡易テーブルの上には空の皿と惣菜パンがあった。

 何故か全然食べなくても空腹感は感じないけれど。

 それでも俺は水姫が調理してくれる事が嬉しかった。

「こー君、もう少しで出来るからね」

 水姫がにこりと俺に笑いかける。

 少し待っていると、水姫が調理を終えて俺と向かい合ってテーブルに座る。

「こういうのも非日常って感じで気分高ぶるよな」

「電気無いのは不便だけどさ

余った野菜でサラダ作っておいたよ」

 そう言い、水姫はカレーと缶詰めと野菜を混ぜたサラダを俺の目の前に置き、微笑む。

「何故か食べなくても空腹にならないんだけどさ

食べれるなら食べた方が良いよな」

 そう、俺は水姫を探してる時に何も飲み食いしなくても特に異常は無かった。

 ありふれたインスタント食品だけど。

 彼女と一緒に外で食べると楽しい。

 俺は異常事態なのに、普段と違う日常を楽しんでいた。

 一人の時は全然楽しく無くて心細くて孤独だったのに。

 水姫と一緒にいるだけで天国にいるかの様だ。

 水姫もそう感じているのか、にこりと柔和に微笑んでいる。

 俺は彼女のそんな姿が大好きだった。


 俺が少しの間今後の準備をして、テントに戻って来ると。

 そこには可愛らしいフリルとリボンがついた赤いメイド服を着た水姫がいた。

 水姫はスカートをヒラリと踊らせながら、ドヤ顔で俺に言う。

「じゃじゃーん!どうかな旦那さま!」

 俺は水姫のメイド姿にドキドキして、思わず彼女の頭を撫でてしまった。

 さらさらの黒い髪と、犬の様に甘えてくれる水姫がたまらない。

「水姫は可愛いメイドさんだもんな、さっきも俺のためにご飯作ってくれたし」

 俺がそう言うと、水姫が甘える様に密着して、満足そうに笑う。

「ふふっ、だってこー君は私の旦那さまだもんね♪」

 ドキドキする…小さくて、温かい…俺にとっては水姫が全てと言っても過言ではない。

 水姫はスカートを翻して楽しそうに笑う。

 水姫はコスプレが大好きで、俺によくコスプレ姿を見せてくれる。

 俺はそんな可愛い水姫が大好きだった。

 キャンプ場でコスプレと言う非日常も更に楽しく感じる。

 明るい日差しが差し込むキャンプ場でテントを張り。

 メイド姿の彼女が笑っている非日常。

「君が喜んでくれるから、嬉しいんだよ」

 水姫は小さな声でそう言った。


「じゃあ、そろそろ行くとしますか」

 テントを収納して。

 俺はライダースーツを着込み銀色のサイドカーを取り付けたバイクに乗り。

 水姫は白いワンピース姿でサイドカーに乗り込む。

「うんっ」

 水姫は楽しそうに笑っていた。

 人類消失事件から、三日目。

 俺と水姫はアテのない旅をしていた。

 ふたりぼっちの世界で、恋人同士の壮大なデートだ。

 世界から俺と水姫以外の人々…いや、生物が消えてしまっていた。

 俺は他の物が失われても、水姫が自分の側にいる事に安堵していた。

 水姫の存在がが俺の支えだから。

 俺は彼女と共にバイクで風を切る感触を楽しんでいた。

 静かな世界、晴れ渡る青空、緑の匂いが漂う風。

 鳥や虫の音も聞こえずに、響くのはバイクの音。

 俺はこんな異質な日常が心底楽しかった。

 ふたりで笑いあって誰もいない世界をバイクで走る。

 このキャンプ場は俺たちの関係が始まった所でもある。

 だから後にするのは少し名残惜しい。


 ふたりぼっちの世界、それも俺にとっては天国かもしれない…

 でも、何故か俺はそんな天国でのんびりと日々を過ごすだけじゃ駄目な気がしていた。


 しばらくサイドカーを走らせていると、山が見えて来た。

 休憩にちょうど良い場所に駐車場があったのでそこにバイクを置く。

 何故か長時間運転しても俺も水姫も疲れは出なかった。

 テンションが上がって疲労を感じないとは違う気がする。

 自販機にお金を入れて、俺は甘いコーヒーを買い。

 水姫にはコーラを渡し。

 ふたりで飲み物を飲みながら広大な山を見渡していた。

 邪魔する物が何もない木々の生い茂りと、壮大に広がる大地に見とれていた。

「綺麗だね、まるで世界が全部私達二人だけの物みたい…」

 水姫が笑顔だけど、どこか寂しげな顔で呟く。

 風と共に水姫の髪が揺れる。

「前ね、家族でここの山、来た事あるんだ、懐かしいな…」

 そうか…水姫には大切な人が…

「水姫、ごめん!君の気持ちも知らずに俺だけはしゃいで!」

 俺は水姫に頭を下げる、俺は身勝手な奴なんだ…

 自分の事しか考えてないじゃないか…

 そうだ…俺は水姫とは環境が違うんだ…

 俺は家族とは不仲で、特に親しい友人もいない…

 優しくて愛されてる水姫と俺は違う…

 水姫は少し考え込み、俺に言う。

「うーん…こー君は魔法や超能力とか使える?」

 へ!?俺は唐突に放たれる水姫の予想外の言葉に混乱しきっていた!

「へ!?そりゃムリに決まってるけど!?」

「じゃあ皆が消える前の状態に戻せる?」

「む!ムーリ!俺がやった訳じゃないし!だいたいこんな大がかりな事出来ないし!」

 俺がそう言うと、水姫はにこりと笑い、俺に手を差し出す。

「確かに他に大切な人がいなくなったのは悲しいし、寂しいけど

こー君が私の側にいてくれるなら、大丈夫だよ…」

 そう言い、水姫は俺に肩を寄せる。

 水姫の顔は安堵した表情だった。

 こんな頼りない俺を頼ってくれてる…

 俺はそんな水姫の肩を抱き寄せていた。

「水姫…うん、俺は出来る限り、君を支えるから…」


 俺と水姫は売店の中から飲み物やお菓子を回収していた。

 本当は窃盗なんて犯罪行為だ、やっちゃいけない事。

 それは俺も水姫もわかっている。

 非常事態だとしてもだ。

 でも、それならば誰かに出てきて欲しい、いっそ通報して欲しい。

 俺はそんな矛盾した考えを持っていた。


 売店から出ると、夕方になっていて、夕陽がさしていた。

 俺と水姫はバイクに乗り、ホテルを目指している。

 暗くなりかけた所に夕陽がさしこむ。

 しばらくバイクを進めると山奥に手動ドアのホテルが有り、そこに泊まる事にする。

 ホテルはやや古いリゾートホテルだけど、誰もいなくて。

 電気が通っていないとなると、薄暗くてやや不気味だ。

 俺は少し怯えている水姫の手を引き、電気ランタンをつけてホールに座り込む。

「へえ、誰もいないとこんな感じなんだ」

「ちょっと怖いけど、非日常って感じがするな」

 客室まで行こうとも思ったが、誰もいないホールでつくろぐのも非日常でどこか楽しく感じていた。

「えへへ、二人だけで独占だね」

 水姫がソファーに座り込む。

 シーンとしているけれど、水姫といると楽しい。

 少しの間散策していると、部屋を見つけて二人でそこに移動する。

 水姫が風呂場の脱衣場にカバンを持ち込み、そこで準備する。

「おっ、またコスプレ見せてくれるのか?」

「えへへ、こー君だけのコスプレ観賞会だよ」

 俺が言うと、水姫は楽しそうに笑っていた。

 水姫のコスプレは何度見ても良い物だ、いつも俺だけのためにコスプレしてくれるのがたまらず愛おしい。

 しばらくすると、セーラー服姿の水姫が姿を見せた。


 長い髪に短めなスカートのコントラスト。

 水姫が動く度にスカートがひらりと踊り、長い髪がなびく。

「あ...長い髪とマッチしててすごく可愛い…」

 俺が言うと、水姫は照れ臭そうに笑う。

「えへへ、これね、高校の時の制服なの、こー君に見せた事無いなって」

 俺たちが出会ったのは大学生になってからだ。

 だから、水姫の制服姿は見た事がない。

 予想以上に綺麗で、大満足だ。

「俺は水姫の可愛い姿を見れて満足だよ」

 誰もいない夕暮れのホテルで制服姿の彼女。

 非日常的な光景だけど、俺たちはそれを楽しんでいた。

「えへへー、高校生の時にこー君に会いたかったかな?

もうちょい早く、ね」

 水姫が少し照れくさそうに言う。

「確かに、高校時代に水姫に出会えたらもっと幸せだったな」

 俺は水姫の細い身体を抱き締める。

 細くて小さい、力を入れると折れてしまいそうな身体。

 俺は水姫のぬくもりを感じる…

「わ…こー君…いきなりどうしたの?」

 水姫は俺の突然の行為に戸惑うけれど、俺の身体を抱き返してくれる。

 お互いに抱き締め合っていると、溶けそうだ…

 不安な気持ちが無くなり、安らぎを感じる。

 最愛の人が近くにいるんだ…

「あ、こー君…」

「水姫…」

 俺と水姫は見つめあい、二人で何も言わず、軽いキスを交わした。

 俺は水姫の瞳を見つめていると、

 彼女を支えたい、全力をかけて水姫の力になりたい。

 俺は愛しい女の子のぬくもりを感じながら、そう考えていた。


つづく

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