■19:ナーロッパ仕様
都市の内部を歩くと、ゲーム都市として設定している部分に如何に曖昧なままにしていたのかが見えて来た。
逆に言えば、想定外のモノは自動的に類推される自動補完が適用されているということだ。
まあ、基本はこの手の中世モノはナーロッパ(異世界ファンタジー固有共通設定)設定だから仕方あるまい。
給水は近くを流れる大河から導水路を通じて都市内へ水を引き込み、大きな貯水槽や噴水を経由して各区画へ配水。上流には魔法石で浄化する施設もあり、飲料水と生活用水を分けて供給している。
排水は地下に石造りの下水道が張り巡らされ、汚水は河川下流へ排出。魔法や菌を利用した浄化槽も設置され、悪臭や病の蔓延を防ぐ。
広場の中央にある噴水はこの都市の豊かさの象徴だが、公共の水源としての役目もあり、水筒に給水していく人々も絶えない。
…だが、ゲームで設定した際には単純にシンボリックに「中央広場に噴水」を設定していたに過ぎない。
「ご都合主義は僕たちとて同じことか…」
ゲームの進行に必要な設定をアイコンとして設置しただけでも、この世界はリアルたろうとして変化している。
「そういうものだと受け入れて、そういうものでは無いと判断したことを三人で話して解決する。それで良いじゃないのかな?サトルは何でも深く考えすぎじゃね?」ケンタは意外と核心を突く事を言う。
「考察も良いけど他の場所も見てみましょう」ヨーコさんはどんどん先に行く。
都市の東側は宿屋もそうだが、商業施設がある程度区分されてある。食堂、小物店、武器や冒険用具の小売は数店舗あり、薬局の代わりの薬草薬品店、床屋に書店、また、市場は屋台が立ち並び、日々の生活を支える主には野菜や肉が時間を区切って取引される。
僕たちの世界のスーパーやコンビニの様な何時でもどこでも…と言った利便性高い高度なシステムは当たり前だが存在しない。
齢は行かない子供達が働いているのも目立った。
子供は全員義務教育等と恵まれた感覚を持っている僕達には想像も出来ていないリアルがそこにあった。
都市に響く日常の雑音、臭い、肌に感じる感触。
そんな当たり前にある感覚を僕達は細かく設定してはいないのだ。
西側はギルド、病院、教会と神殿、役所等の都市機構を維持するための公共施設が並ぶ。
雑用をこなす冒険者とは別に、警察治安機構として自衛も兼ねた兵士もある程度の人数が存在しているがは、数は多くない。
モンスターはこの世界では野生動物とは別に忌避されるべきこの世界の闇の存在で、魔王以下魔族の影響を受けた侵略する勢力の尖兵という扱いだが、勢力図が変わることはあまり無い。
近隣に現れたら、冒険者か兵士が駆除に当たる。
城塞の外側は田畑が広がり、広大な農地が広がる。
横には水源でもある川が流れ、農地と都市に治水されて流れ込んでいる。
「良い街だ。理に適っている…さすが」ヨーコさんの方を見て言うと「ココまで補完されちゃうと、デザイナーとして何をすべきか?って考えちゃうけど、理想は絵としての美しさと生活とのバランス、機能美とのマッチが必要って改めて思うわ」
都市機能のバランスを考えれば、宿屋の地区が娼館がメインというのはやはり大きな違和感でそこからの需要のバランスて全体構造が歪になっているのは修正に値しそうだ。
ソレを確認できただけでも、見て感じることの大切さを理解出来た。ソレは僕たちにとって大切な儀式だったのかも知れない。