■18:制作者たち(ボクたち)の視点
「シルビアさんは、宿屋を再開する気持ちは有りませんか?」僕は食い下がる様に聞いてみる。
「そうですね…以前は、周囲の人達に支えられて、それなりに充実しておりました。しかし、時代が変わったのか私の感覚が古くなったのか…『もう、これまでのサービスは不要』と言われてしまって、客足も遠のいてしまいましたら、続ける意味など有りましょうか?」
シルビアさんは寂しそうにそう言って、買い出しに行かなければとその場を後にして立ち去った。
「思ったより簡単な話じゃ無くなったな…」正直言うと、途方に暮れてしまった。
僕たちはこの世界を創造し、人々が暮らす形を設計し、その世界に訪れるプレイヤーたる勇者を導く為のゲーム体験のために様々なルールを設定した。
所謂この世界の創造神とも言える。
だが実際はどうだ?ただの学生上がりのひとりの人間で、人生経験も豊富どころかタダの童貞オタクでしか無い。
その世界で生活をする人々が自由意思を持って活動するのを認めたのであれば、それはそのキャラを人として認めるのであれば、意思を無視はできないのでは無いか?
これまで、直近のアリシアさんの様に、本人の意思関係なく洗脳に近い、いや、洗脳そのものだが…は解いて上げて元の人としての意思を取り戻す事は出来る。
その事に関しては躊躇するモノでは無いが、本人がその世界での生活をしている中での決断を、神の視点で間違っていますと変えてしまうのは、レイドが行っている強制改変と何が違うのであろうか?
「それこそが力を持ったモノのジレンマだよな…」エンジニアとして論理的思考が得意なケンタもその点の問題に明確な答えがないと言う事に同意する。
「困った時の神頼み…で、神様がそれを叶えないのは、それの逆を願う人がいるから沈黙する…って聞いたことがあるわ」ヨーコさんもこの問題が簡単では無いと思ってくれている様だ。
「だからこそ、レイドの改悪は修正すべきだ。だけど、この世界で等身大で生活している人々の生活を無闇に干渉して変えてしまうべきでは無い…か」
「だとして、直近の宿屋の問題はどうするんだ?俺はこのままで耐えられる自信はないぜ?」それはストレスなのか、性欲なのか分からないが、ケンタは少し意地悪そうな顔をする。
そのケンタの言わんとする意味を理解しつつ「サイテー」と顔をしかめるヨーコさんだが、それは全否定と言うより、諦めに近い容認にも感じた。
「取り敢えず、ギルドに戻ってマックスにもシルビアさんの件は報告してから相談しよう」やや徒労に終わった感じもして戻ろうとすると、ヨーコさんは何か違う視点で感じたのか提案してくる。
「私はその前に、私はこの世界を、いえ、取り敢えずはこの都市全体を出来るだけ観察してみたいわ」
ヨーコさんの目には、何か決意したものの様な意志を強く感じた。
僕もケンタも互いに頷く。
「そうだね…僕たちはこの世界に召喚されてからこの世界で、自分たちが想定していなかった物事にも出会い、感じ、そして共に生活を通して体感してきた…自分たちが考えたゲームの世界を生身で経験できるなんて又とないチャンス捉えよう」
「まあ、俺たちは三人いるし…一人の考えではまとまらない、サトルみたいに頭のいいだけの理屈でただ考え込んで袋小路に入っても仕方ないしな…」
「い、言うじゃないか…ケンタだってこの世界の誘惑に何度も屈しそうになったくせに…」
「はは…そう返すか…俺は自分の気持ちにある程度素直なだけさ…むっつりスケベのサトルさんよ」
「そ、そんなこと…だって…僕だって…」
「ホント…男って何歳になっても変わんないわね…『厨二病』ってこういう時に使うためにあるんでしょうね…」
「ち、厨二病ってアレだろ…俺の右目に宿りし呪印の力が…ってみたいな奴だろ…僕は、そんなことは思って…」
「詳しいねぇ~その感じ、今は表に出さないけど左手に包帯とかリストバンドとかしてた口じゃね?」
「そういうケンタも!包帯とか…具体例知ってるってことは…経験あるんだろ?!」
「はいはい…まあ、ゲーム制作を生業にしようなんて私たち…少なからず厨二病をどこかで拗らせてないと目指さないよね…で、いいんじゃない?」
「ってことは、ヨーコもそんな感じ?!」「もう、この話題終わりにしない?」ケンタの執拗なツッコミに苦笑いして流すヨーコさん。
「でもよ、マックスの話聞いてると、少なくともレイドは厨二病全開って感じだよな…」
「ギアス使っている感あるからな…セリフもだいぶパクリ臭い…」僕もそこは感じていた。
「レイドって間違いなく鬼喪崎だよな…あいついいオッサンのくせにアニメとか矢鱈リファレンスで五月蠅く言ってたしな…」ケンタの指摘は、誰もが心に思い描いていた一致した見解であったが、出来れば認めたくもない話だったので、確証得るまで口にしないように意識していたのだが…まあ、その可能性は高い。
僕たちは、何を修復すべきか、これからどうすべきかを悩みつつも、とにかく現状を把握しないことには何も進まないという…意見で一致して街の中を探索することから始めた。