■13:娼館召喚
引っ切り無しに聞こえてくる刺激ある効果音をBGMにあまりよく眠れない夜を過ごして、憔悴した朝を迎えた。
朝はすぐに一階のフロアに降りて女主人に昨夜思いついた疑問を投げかけてみる。
「ここは何時から娼館になっているのですか?」
女主人は美しい顔立ちのダークエルフだが、その美しい瞳を見て会話できない僕は薄い生地の下でゆらゆら揺れる薄いピンクの突起物と目を合わせているような状況だ。
顔を見ずに胸だけ見ているってまあまあ失礼な話かもしれないが、僕は女性が、特に美しい女性に対して苦手意識を持っている。
「カサンドラだ」その胸が喋った。
「え?」流石に顔を見た。
「私の名前さ…童貞の坊や」
「ど、ど、童貞じゃ…」ないですと否定する論拠なしで「童貞です…が…そうではなくて、質問に答えていただけますか?…ぶはぁ!」煙管の煙をもろにかけられて咽る…
「うふふ…私がココで娼館を始めたのは…3年前さ」
「ん?」ふと疑問が浮かぶ…
「どうかしたかい?」
「いいえ、その前のこの宿の女主人がいたはず、どうなったのか知っていますか?」
「死んだ」
「え?!」
「冗談だよ…怖い顔しなさんな。…興味ないから知らないヨ…それより『誰か部屋に呼んで』くれよ」
「いやぁ…」ついつい頭をぼりぼり掻く。
「何だ…オタク特有の処女厨か?双方初心者だとうまくいかねぇぞ?」
「そ、そんなことはどうでもいいじゃないですか…カサンドラさん」
「何だ…触りたいなら金取るぞ」ほれほれと乳を下から支えてこれ見よがしにタプタプさせている。何というエロさ…じゃなかった…ええと。
「そ、乳はいいので…えっと、三年前に何かあったんですか?」
カサンドラさんは少し思い出すようなしぐさをしてから煙管をカンと灰皿に叩きつけて「思い出した」と言わんばかりに体を揺らす。当然二つの果実もよく揺れる。僕の目線も揺れる。
「行きずりの冒険者がこの都市の裏街道で娼婦をしていた私を買い、えらく気に入ってくれたようでさ、まとめて金銀を渡してくれて…ソレで商売しろって紹介されたのがここさ」
「ナルホド…参考になります。ありがとうございます」
「礼はいいから、女買えよ…それと朝飯はどうすんだ?」
「はい、朝ごはんだけ頂きます」
ダークエルフのカサンドラさんは元からの娼婦で、三年前にここを譲り受けたということでデバッグ対象にならなそうだ。今はケンタが一生懸命最低金額でサービスは何処まで受けられるのか必死で聞いているけど…ヨーコさんにどつかれる未来しか見えない。「ぎゃっ!」ってどつかれてる…
「三年前って…ソフィアがレイドが現れたって言ってたのが十年と考えると…ずいぶん最近の話になるけど…」「もしかして、最初の数年はソフィアと村人たちで満足してたんじゃ…」とケンタ。まあ、村娘たちだけでも…毎日…と思わなくはないが…と想像してたらヨーコさんがまた般若の面になってた。
「最悪…隷属させてレベルアップして更に…ゲロキモだよ」
「そ、そうだね…」ウッカリ男のロマンだよハーレムって言いそうになって止めて置いた。
「とりあえず、正規のルートで手続きされている以上、この『渡り鳥の止まり木』を元の宿屋に戻すためには、デバッグ機能では修正が出来ない…それだとチートと同じになるからね…」
「いずれにしても、手続きしようにも僕たちには資金の問題で当面は稼がないとだから」「女も抱けないし」
ヨーコさんが最早定番になったようにケンタの頭を叩きながら「じゃなくて、装備も整えないとでしょ!私たちは冒険者なんだから」という。
まさにそれで、先ずは、冒険者ギルドでクエスト受注をしないとイベントが進まずちまちま近隣のモンスターを狩っても資金繰りに苦労することは分かっているので、昨日は疲労先行で宿屋優先したが、今日は改めて冒険者ギルドに向かうことにする。
朝食はスクランブルエッグにフランスパン、コーヒーが出てきた。想像よりずっと僕らに感覚が近くて驚いたが、よくよく考えたら自分たちが知らないものを設定に盛り込めないのだから、よほど料理にこだわり持って詳細設定したわけでもないし、比較的食べるもので苦労はしなさそうだ。
ここに来るまでの食事は粗食だったので、この改善はうれしい。
これから向かう冒険者ギルドには仕事の依頼と情報が集まる。まあ、そういう設定にしたのが僕なのだが…ちゃんと機能しているのだろうか?この宿を見ていると不安しかない。