■11:城塞都市フォルティス
城塞都市【フォルティス】は、序盤の物語の起点になる都市で、何度も往来することになる設定だった。今はどうなっているのか分からないが…たどり着くと廃墟…という事はなくちゃんと存在していた。
実はイベントでは、森を抜けて何も持たずに入ろうとすると、『怪しい旅人め!』と門番に言われて入場できない。
だが、北の森の魔女のアイテムを預かっていると証明するとすんなり入れるのだ。
要は北の森の魔女のクエストは、森を迷わず抜けられればそのままイベントをこなさずとも通過はできるのだが、そうなるとゲーム的な都合でフラグが足りないので足踏みしてもらう…というよくある設定である。
僕たちは当然それを知っているので、無駄な往来無しに入場は許された。
城塞なのは、ここを起点に更に北に行くと王都【オーダリア】、東に行くと貿易都市【トレイダス】西に行くと魔物の棲む森【モンスウッド】と交流と戦闘の交錯地点であるからだ。城壁に囲まれた街は許可なきものは入れないという訳だ。
…まあ、僕がそう設定したからなんだけど、その設定は生きていてよかった。
「レイドが変更した仕様は、主に人々の生活に関するもので、女性に対する性的な搾取が目立つ」多分目に付く女性を片っ端から隷属させるための改造をしていったと考えれば合点がいく。
「北の森ってったって、城塞都市からみたら南だよな…」とケンタがぽろっと言ったが、確かに…むしろこの城塞都市から見る視点の方がはるかに多いことを考えると安直なネーミングはすぐに破綻するなと反省。ただ、名称の変更は、紐づく仕様面でのバグが起きそうなので修正するのも憚れた。
「戻れたら、ちゃんと直す」と約束してチケットを切っておく。
チケットとは、開発段階において修正や変更項目に対してシートで管理する場合にチケットと言って項目を管理するのだ。デバグ工程では下手をすると100枚チケットが溜まるとか普通にある。…大手の大作RPG等は数千に及ぶことがあると噂で聞いたことがある…恐ろしい。
石造りの強固な城塞内部は様々人種と施設が並び、ゲームの起点となるための必要な条件をすべて入れ込んで設定してあるので、そのままであれば僕たちもしばらくはここを基点にしてクエストをこなしていく必要がある。
城塞内は活気があり、NPCがマネキンの様に突っ立って決まったセリフを延々と垂れ流す…ということは、もう無さそうである。ちゃんと自立して日々の生活を営んでいるように見える。
逆に言えば、最初の村スターティアで換えた人々に対する仕様変更がこの世界に対して一律に実行されたことに他ならないので、より慎重にスキルを使って修正を行わなければと思い直す。
まあ、幸いにも僕たちは三人の同意がないと実装に行き着かないので、脊髄反射で修正は実行まではいきつかない可能性が高いが、それでもきちんとしたメンバー協議は必要だと思う。
ちょっとこれまではヨーコさんのセクシャルに対する過剰反応で調整してしまうことが多かったが…この辺りの判断基準は一度話し合っておいた方が良さそうだ。
とにかくここまでに十分すぎる消耗をしていたボクたちは先ず優先は宿屋の確保だ。
町の中央に噴水があり、そこを中心に放射状に大通りが広がりその景観に合わせて壮大に見えるのが城塞都市の中央宮殿だ。
この辺りは設定が大きく変わっている印象は無い。その横の道を東に進んでしばらくすると繁華街があり、その一角が宿屋兼酒場の「渡り鳥の止まり木」がある。
本来は、冒険者ギルドで登録するのが先だが、疲れててとりあえず休憩したかった僕たちは有無を言わさず直行した。
「いらっしゃい~」宿屋兼酒場の主人が迎えてくれたのだが…
「え?間違いました!」と思わず引き返してしまった。
外に出てから看板を確認する。「渡り鳥の止まり木」うーん…ちゃんと合っている…
思わず三人で目を合わせる。
「えっと…酒場で、宿屋…のはずだよな…」と僕「そうだね…」ケンタも応じる。「まあ、例によって例にパターンなのか…しら?」と額にやや青筋立てながらヨーコさんがキレ気味で頷く。
中で見た酒場のラウンジは…下着とは名ばかりのスケスケの衣装を着た女性たちがピンクの薄紙で覆われたランタンで怪しく照らされており、甘いにおいが充満していた。どう見ても娼館かオッパブのソレだった。…行ったことないけど。