小さくて優しい私の『ヒーロー』
『ぼくね、びょうきをやっつけて、ママのことまもれるようにつよくなる!』
『ほんと!ママ嬉しいなぁ!じゃあはーちゃんはママのヒーローだね!』
『うん!ぼく、ママのヒーローになる!!』
はーちゃんが亡くなって、8年が経った。
はーちゃんは5歳の頃、『急性骨髄性白血病』になり、2年間抗がん剤治療を受け、はーちゃんは病気と頑張って戦った。
けど…神様は、はーちゃんに味方しなかった。
あれだけ頑張ったのに、あんなに優しくていい子が…なぜと、はーちゃんが入院している頃は毎日思っていた。
「瑠美、大丈夫か?」
「あ、うん、大丈夫。ごめんなさいぼーっとしちゃって」
私は2年前からお付き合いしていた彼と結婚することになり、私は結婚式場の披露宴会場に居た。
彼との出会いは、職場の知り合いからの紹介だった。会って話しているうちに彼の誠実さに惹かれお付き合いしていたが、私はもう結婚はしないと決めていた。
私には、子供を産む資格も…母親になる資格もないと思ったからだ。
(きっとはーちゃん…怒ってるよね…。やっぱり、結婚なんて…)
「それではこれより、新婦様へビデオメッセージが届いております!会場へお越しの皆様、後ろにございますスクリーンにご注目ください!」
新婦、ということは私にってこと?
一体誰から…
会場が暗くなり、スクリーンに映像が映し出された。
「はると、喋ってもいいよ〜!」
--ママ、ぼくだよ!はるとだよー!--
(はー、、、ちゃん…!?)
スクリーンに写ったのは、8年前に亡くなったはーちゃんだった。
こんな映像が残されていたことを、私は今日まで知らなかった。
カメラで撮っているのは、私の母だと声でわかった。
はーちゃんは笑顔でこちらに手を振っていた。
すると私も、自然と手を振り返していた。
--ママ、げんきにしてる?--
(うん、ママは元気にしてるよはーちゃん…)
私は涙が零れそうになるのを必死に堪えた。
--ママ、ぼくね、かみさまにおねがいしたんだ--
(お願い…?)
--『 うまれかわったら、またママのこどもになれますか 』って --
私はその言葉で涙が溢れそうだった…。
-- ママは、びょうきのぼくのこと、きらいになっちゃったかもだから…いやかもだけど、やっぱりぼくのママはね、『ママ』がいいんだ。 --
(はぁ…ちゃん…)
--あとね、ママがね、けっこんすることになったらね、そのひとにぼくからおねがいがあるの --
すると、隣にいる夫が席から立ち上がり、真剣な顔ではーちゃんを見ていた。
-- ママはね、すっごくがんばりやさんなの。だからね、ママがないちゃいそうなときはね、よしよししてあげてね! そうするとね、すっごくげんきになるんだ!ママがぼくにしてくれたおまじないなの! --
そういえば…はーちゃんが辛そうにしている時は、いつも頭を撫でてあげてたっけ…。
夫は、はーちゃんに向かって『わかったよ』と笑顔で頷いていた。
-- あとね、ぼく、ママにいたいことがあるんだ --
(…なぁに、はーちゃん…)
--ぼくのママになってくれてありがとう。
ぼくをうんでくれてありがとう。
ぼくのあたまをよしよししてくれてありがとう。
いっぱい、い〜ぱい!しあわせになってね!--
その時、泣くのを我慢しているのが耐えられず、私の目から涙が溢れた。
私は、はーちゃんが入院している間…ずっと思っていた。
『私が産まなければ、この子は幸せだったんじゃないか…』
『私ではない母親から産まれてくれば…元気に走り回って、友達と遊んだり、勉強したり、もっとたくさん…たくさんできたはずなのに…』そう思ってきた。
スクリーンの映像は終わり、パッと会場は明るくなった。
すると会場は大きな拍手で包まれた。
泣いている私に夫は『お疲れ様、今までよく頑張ったね』と頭を撫でられ、私は顔を覆い隠し、会場に響き渡るくらい泣き叫んだ。
(はーちゃん…私は…ママは…幸せになっても…いいのかな…)
夫は私の頭を撫でてくれて、一緒に泣いてくれた。
私はその後、披露宴会場から出てブライズルームへ行こうとすると、扉の前で父が立っていた。
「これ、はるとからお前に」と、父から手紙を渡され、開いてみると…
『 ママ おたんじょうび おめでとう だいすきだよ 』
手紙を読んだ私は、膝から崩れ落ちそうになったところを父が支えてくれて、私はまた泣いてしまった。
はーちゃんが亡くなった3日後は、私の誕生日だった。
きっとはーちゃんは、私の誕生日に渡したかったのだろう。
「あの子はきっと、今もお前の側でずっと、お前のことを守ってくれているのかもな…」
「うん…うん、そうだね、はーちゃんは…世界で一番強くて、優しくて…かっこいい私のヒーローだね…!」
はーちゃん、私のところに生まれてきてくれてありがとう。
私をはーちゃんのママにしてくれてありがとう。
いっぱい!い〜っぱい!幸せになるからね!