タイヤ職人の迷い
ドワーフたちとの協力で鉱山の道を整備し、村や周囲の環境は少しずつ豊かになり始めていた。
村人たちから感謝されることも増え、太一は充実感を覚えていたが、そんな彼にも心の陰りがあった。
ある日、鍛冶場でタイヤの改良をしている最中、エリーザが訪ねてきた。
「太一、少し休んだらどう? ずっと働き詰めじゃない。」
「大丈夫だよ。俺がやらないと誰も動かないだろ?」
太一は苦笑いしながら答えるが、その目には疲れが見え隠れしていた。
太一は村の問題解決に尽力するあまり、自分一人ですべてを背負おうとしていた。
「俺ならできる」
「みんなのために動かなきゃ」
という思いが強すぎるあまり、他人の意見を聞き入れないことも増えていた。
そんな彼の態度に不満を抱く村人たちや、ドワーフたちとの間に小さな溝が生じ始めていた。
ある夜、ドワーフのリーダー・グレインが酒を片手に太一に声をかけた。
「おい、太一。お前、一人で突っ走りすぎだぞ。」
「突っ走る? 何言ってんだ、俺はただ村や鉱山を良くしようと――」
「だからだよ!」
グレインが鋭い口調で遮る。
「お前の技術は確かにすごい。けど、それを押し付けるようじゃ意味がない。俺たちにも考えがあるんだ。」
太一は反論しようとしたが、グレインの真剣な目を見て言葉を飲み込んだ。
数日後、太一は新たなタイヤを改良し、鉱山用の自動運搬車を試作した。
彼は村人やドワーフたちに試運転を提案するが、その準備を独断で進めてしまう。
「俺の計算通りなら完璧に動くはずだ!」
太一の言葉に、グレインやエリーザは不安そうな顔を見せたが、反対意見を言えない空気に押される形で作業は進行する。
ところが、試運転中に自動運搬車が岩場で制御を失い、荷物とともに崖下へ落ちてしまう。
幸い、けが人は出なかったが、周囲の信頼は大きく揺らいだ。
「だから言ったんだ、もっと慎重にやるべきだって!」
グレインが怒りをあらわにする。
「俺だって、最善を尽くしたんだ!」
太一は悔しそうに答えるが、周囲の視線は冷たかった。
その夜、村の広場で一人座り込んでいる太一に、エリーザがそっと近づいた。
「太一……少し、話せる?」
「何を話せばいいんだ? 結局、俺のやり方が間違ってたってことだろ。」
エリーザは首を振りながら静かに語る。
「間違ってたなんて思わない。でも、もっと私たちやドワーフたちの意見を聞いてほしいの。太一は一人じゃないんだから。」
太一は黙り込んだ。彼が目指していたのは、誰もが幸せになる未来だった。
しかし、そのために周りを置き去りにしていたことに気づき、胸が痛んだ。
「……俺、いつの間にか独りよがりになってたのかもな。」
エリーザは太一の手を握りしめた。
「大丈夫。気づけたなら、これから変わっていけばいいのよ。」
翌日、太一は村人やドワーフたちを集めて頭を下げた。
「みんな、昨日のことは俺のミスだ。これからは、もっとみんなの意見を聞きながら進めるようにする。だから、もう一度力を貸してくれないか?」
最初は沈黙が続いたが、やがてグレインが口を開いた。
「まぁ、謝れるだけマシだな。次は一緒に計画を立てるんだぞ。」
村人たちも頷き、笑顔を見せた。太一は安堵すると同時に、改めて自分の未熟さを痛感した。
太一と仲間たちは、ドワーフの知恵と村人たちの経験を総動員し、改良型の運搬車を再び作り上げた。
試運転は無事成功し、周囲の信頼も取り戻しつつあった。
「やっぱり、みんなと一緒にやるのが一番だな。」
太一は笑顔でエリーザにそう語る。
彼の胸の中には、一つの新たな決意が芽生えていた――技術だけでなく、人とのつながりを大切にすること。その道が、太一自身をさらに成長させるに違いなかった。