タイヤが守る村の平和
村の空気は重苦しかった。徴税隊が来るという知らせに、村人たちは動揺を隠せない。
太一も作業場でタイヤをいじりながら考え込んでいた。
「技術だけじゃ戦えない。けど、武力を使わずに村を守る方法があるはずだ……」
そんな彼に話しかけてきたのはエリーザだった。
「太一、あの道を整備したときみたいに、何か新しいアイデアはないの?」
エリーザの言葉に、太一は顔を上げた。
「……そうだな、考えはある。ただし、ちょっとした工夫が必要だ。」
その夜、太一は村長や村の有志たちを集めて作戦会議を開いた。
「まず、俺たちは戦うんじゃない。話し合いで解決する道を探す。でも、相手に舐められないようにする必要がある。」
村長が不安そうに尋ねる。
「だが、徴税隊は強引だ。交渉に応じるとは思えないが……」
太一は自信ありげに笑った。
「だからこそ、村の実力を見せつけるんだよ。」
彼が提案したのは、タイヤを使った防衛的なデモンストレーションだった。
具体的には、村に作った台車を改良し、荷物運搬だけでなく「防壁としての応用」を示すこと。そして、もしもの場合には「逃げ道を確保するための装置」を準備することだった。
「とにかく、まずは相手の出方を見て、それからだ。」
村人たちは不安を抱えつつも、太一の作戦に従うことを決めた。
翌日、ガイア帝国の徴税隊が村に到着した。
鋭い目つきをした隊長が馬にまたがり、威圧的な声を響かせる。
「ここが徴税を拒否しているという噂の村か? お前たち、帝国に逆らうつもりか!」
村人たちは怯えた表情で後ずさりするが、太一は冷静だった。
「いえいえ、逆らうつもりなんてこれっぽっちもありません。ただ、取引を提案したいんです。」
「取引だと?」
隊長は眉をひそめるが、興味を引かれた様子で馬を降りた。
太一は手を叩き、村の中央広場に用意していた台車を指差した。
「これを見てください。この台車は通常のものとは違います。どんな重い荷物も軽々と運べるんです。さらに、これを応用すれば――」
そう言うと、彼は台車を素早く横に倒し、簡易防壁として配置した。
さらに手をかざし、新たなタイヤを生成して装着する。
タイヤには金属のトゲが施されており、見た目からして頑丈だ。
「戦争なんてしたくありませんが、村を守る力は十分にありますよ、とお伝えしておきます。」
隊長はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「ほう……この技術はなかなかのものだ。だが、これが何になる?」
太一はさらに畳みかける。
「この技術を使えば、帝国の物流を劇的に改善することも可能です。たとえば、税金ではなく、技術提供という形で協力するのはどうでしょう?」
隊長は目を細め、じっくりと考え込んだ。
「面白い提案だな。だが、上に相談しなければ判断はできん。ひとまず徴税は保留としよう。」
こうして、村は徴税の危機を一時的に回避することができた。
その夜、村の宴は再び開催された。太一の機転と技術に感謝する村人たちの顔は、安心と喜びに満ちていた。
「これで一安心だな。」
村長が笑顔で言うと、太一は首を振った。
「いや、これからが本番だ。帝国に目をつけられた以上、この村の技術を発展させて、さらに強い基盤を作らなきゃな。」
エリーザも太一に笑いかける。
「あなたならきっとできるわ。私も手伝うからね。」
こうして、太一はタイヤ職人としてだけでなく、「技術を通じて世界を変える男」として、さらなる挑戦に向かっていくのだった――。