タイヤで変わる日常
「使い道が色々あるって、どういうこと?」
エリーザの問いに、太一は得意げに笑った。
「まあ、見てればわかるさ。ちょっとした運搬ぐらいなら、このタイヤで驚くほど楽になるぜ。」
エリーザは不思議そうな顔をしていたが、
「それが本当なら助かるわ」と答える。
彼女は近くの村から薬草を売りに来たらしく、
帰りは山道を越えて大量の荷物を運ばなければならないという。
「じゃあ手伝ってやるよ。ただし、報酬は晩飯一回分でいい。」
「えっ、それだけでいいの?」
「おいしいご飯があれば、それで十分だ。」
こうして、太一は彼女の荷物運びを手伝うことになった。
エリーザの指示で山道に向かった太一は、荷物の山を見て思わず頭をかいた。
大きなカゴに詰め込まれた薬草や木材が山積みになっている。
普通なら馬でもなければ運べそうにない量だ。
「なるほど、これを運ぶのが大変ってわけか……よし、任せとけ!」
太一は近くの木を見つけると、
地面に手をかざしてスキルを発動させた。
次の瞬間、木材がみるみるうちに加工され、
簡単な台車と、それにぴったり合うタイヤが生成される。
「できた!これがあれば一発だろ?」
目の前に現れた台車を見て、エリーザは目を丸くした。
「すごい……これがあなたの力?」
「まあな。普通の荷車よりずっと軽いし、タイヤの動きもスムーズだ。ほら、試してみな。」
荷物を台車に載せたエリーザが試しに押してみると、重い荷物が驚くほど軽く動いた。
「う、嘘みたい……全然力がいらない!」
「だろ? タイヤが地面の抵抗を減らしてくれるんだ。これがあれば、道がどんなに悪くても楽に運べるさ。」
エリーザは感動のあまり涙ぐみ、「本当に助かるわ」と繰り返した。
エリーザの案内で村に到着すると、太一の作った台車は村人たちの注目を集めた。農作物を運ぶのに苦労していた村人たちにとって、タイヤ付きの台車は革命的だった。
「おい、それは何だ?こんな軽そうな荷車、初めて見たぞ!」
「本当にこんなにたくさんの荷物を押せるのか?」
村人たちは次々に太一に質問を投げかける。彼は一つ一つ丁寧に答えながら、簡単な台車をいくつか作り、村人たちに貸し出した。
「すげえ!これなら子どもでも運べるじゃねえか!」
「道具ひとつでこんなに便利になるとは……」
太一は村人たちの喜ぶ姿を見て、自分の技術がこの世界でも役に立つことを実感した。
その夜、村の宴で感謝される太一に、村長が一つの相談を持ちかける。
「実は、隣の町へ作物を運ぶ道が荒れていて、毎年大勢が怪我をしているんだ。君の力で何とかできないだろうか?」
荒れた道――それは太一がこの世界で直面する最初の大きな課題だった。
「道か……タイヤだけじゃなく、もっと根本的な解決が必要だな。」
太一は腕を組んで考え込んだ。そして、再び職人魂が燃え上がるのを感じる。
「よし、その道、俺が何とかしてやる!」
こうして、タイヤ職人・山田太一の「異世界インフラ革命」が始まることになる――。