2話
「ここまで来れば安心ね」
しばらく走った後、私たちは歩を緩める。
「はぁ……!はぁ……!お二人共になんで平気なんですか?」
おぼっちゃまが息を切らして私たちに問う。
「僕は陸上部だし」
「私は体型維持のために朝晩ジョギングしてるから」
「はぁ……!はぁ……!そうなんですね……」
男なのに情けないわねぇ。
「あの……!お二人にお礼をさせてください!」
しばらくして息を整えた彼が提案する。
「お礼なんていいわ。そんなつもりで助けたんじゃないから」
手を振り去ろうとするが。
「いえ、受けた恩は恩で返せ。受けた仇は仇で返せが祖父の教えなので!」
どうする?
アイコンタクトで落葉に聞く。
彼がそうしたいんなら尊重しよう。
落葉の回答。多分。
「じゃあ、お願いするわ」
「わかりました!」
そういうと近くにあったATMへ走っていった。
「ねぇ、お礼ってもしや……」
「私もそんな感じがする」
数分後、彼は札束が入った封筒を私によこした。
「おふたりに50万ずつです!」
ドヤッと当たり前のように差し出された。
「「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!」」
ハモる私達。
「こんな大金受け取れるわけないでしょ!?」
「え?100万程度が大金なんですか?」
ポカンと聞き返された。
はぁ……。頭痛がしてきたわ。こめかみを抑えながら彼の素性を確認することにしよう。
「あんた、何者よ?」
「あ、まだ名乗ってなかったですね。失礼しました。僕は紫雲亮介です」
紫雲……?紫雲……。どこかで聞き覚えが……。
あっ!
「あんたもしかして紫雲グループの!?」
「会長の孫です」
ヘコヘコとお辞儀を繰り返すおぼっちゃま。
ていうか、ガチのマジのおぼっちゃまじゃない!
紫雲グループ。主に食品、洋服など、私たちの暮らしを支える一大企業だ。
どれくらい大きいかと言うと、任○堂やSO○Yとためはれるくらい。
金持ちの中の金持ちだし、オドオドしてるし、不良からしたらいいカモだ。
私たちが口を開けてポカーンとしていると。
「あ!そろそろ家庭教師がうちに来るので、それじゃあ!」
私と落葉に50万ずつ押し付け、走って帰って行こうとするが
「待ちなさい!」
ダッとおぼっちゃまに追いつき、肩を掴む。
「これは受け取れないわ」
「うんうん」
「どうしてですか?」
「まずお金で解決しようとするのが間違いなのよ」
「うんうん」
「でも僕の周りの人はお金渡すと喜びますよ?」
「そりゃあ、お金貰えれば嬉しいけど、お金は人を変える魔力があるの」
「人を変える……?」
キョトンとする相手。
「そう。あなたがお金を恵んでくれるとなると、砂糖に群がるアリのようにあなたのお金を求めてくる。そして所持金の底が尽きたら、あなたは用無し。ボロ雑巾のように捨てられるわ」
「うーん……」
いまいちピンと来てない様子。
「私たちは親から貰ってる小遣いで十分なの」
そう言い、封筒を2人で彼に押し返す。
「じゃあ、次から変なのに絡まれないようにしなさい」
手を振りダッと彼が追いつけないであろう速さで私たちの走り去った。