1話
この作品は「あの、神様余計な事しないでもらえます?」の後日談です。
先に本編を読んでからご覧になっていただけると嬉しいです
「はぁ〜……ダルッ……」
私の名前は井上一架。ちょっと前まで神様だった。詳細は本編を読んでもらえればわかるわ。
今は1人の人間として一から人生を歩んでいる。
あれから私は成長して今は中学一年生だ。
新年に入り、冬休みも残りわずかなのだけれど……。
「しょうがないよ、自業自得」
新春と言えど、雪国の1月はまだ寒い。
葉っぱの枯れた木の枝には、雪が積もり冷たい風が吹く。
私と、幼なじみ兼元神様だった橘落葉は公園のベンチで腰を休めて、暖かいココアで体の温度をあげていた。
落葉はスポーツやる時髪が邪魔ということで、男の子のように髪が短い。そのためスカートをはいてと男子に間違われる。
一方私は胸の辺りまで伸びた髪を右側から下ろしている。
「だって、せっかくなら目立ちたいじゃない」
「うーん、僕にはその気持ち分からないなぁ」
困ったように眉を寄せる落葉。
「でもさ、クラスメイトたちの心を読んで試験でいい結果を残そうってのは間違いかな」
「いやだって勉強ダルいし」
「それが学生の本分だから……」
そう、私はクラス中、そして学年中、はたまた上級生にまで存在を知ってもらいたくて、試験で不正をした。
その罰で、神様から心を読む力を没収された。
しかも剥奪されたタイミングが冬休み前の試験当日。
当日夢の中で神様(あの人)が出てきて「私利私欲のために使うならこの力は没収します」と言われ、起きたら心を読めなくなっていた。
当然私は、あの力頼みだったから試験勉強は全くしてない。
試験結果は国語以外点数1桁。
担任には「井上さん、あなた今まで成績良かったのにどうしたの?」と訊かれ、言い訳が思いつかなかった私は「神様から心を読む力を奪われました」と言ってしまった。
クラス中では笑いの嵐。
厨二病と言われ、ついたあだ名が「いち神様」だ。
「でも有名にはなれたじゃん?」
「悪い意味でね」
はぁ……。とため息が漏れた。
噂は伝染病のように広がり、今では校内一の有名人だ。
学校では私を見てニヤつく者や、ヒソヒソと小声で話してるのが聞こえて来る(なんて言ってるかまでは分からないけど)
おかげで学校では落ち着いて勉強ができない。
しかも、担任が両親(あの人たち)に連絡をして2人に私の正体がバレてしまった。
「誕生日だってのに、補習なんてうんざりよ」
今日は1月5日。いちに、いつ「か」だそうだ。
「まぁいいじゃん。お年玉と誕生日プレゼントほぼ同時に貰えるんだから」
それがあるから頑張れるようなものだ。
「さて、そろそろ行きますか」
落葉がそう言い立ち上がる。
私も彼女も飲み物を完飲し、休憩終わりだ。
これから図書館に行って勉強だ。
ガコン
ペットボトルを資源回収箱に入れて公園を去ろうとすると。
「いいから有り金出さんかい!」
男の怒鳴り声が聞こえた。
声質からして、10代くらいだろう。
「だから今持ってませんってば……」
おどろおどろとカツアゲされている男の子が恐怖で体を震わせていた。
見たところ、カツアゲしているのは3人。
この地域では底辺校の高校の制服だ。
対して、脅されている方は、この辺りではお坊ちゃまやお嬢様が通う金持ちの高校の制服だ。
「知らぬが仏。一架、行こ」
落葉が私にそう促す。
だけど私はそいつらの元にずんずんと歩を進めていた。
「ちょっとあんたたち!」
私の叫びで一同がこちらに興味を示す。
後ろで落葉が「はぁ……」とため息ついているのが何となくわかった。
「なんだぁ、お前」
「お金が必要なら真っ当な方法で手に入れなさい!バイトでもして!」
「こっちは今!金が必要なんだよ!バイトでチマチマ稼いでる暇はねぇ!」
リーダー格の男が私に詰め寄る。
ガタイがでかく、まともにやり合ったらまず私は勝てない。
けど怖くはなかった。
なぜなら
「ぐぇぇ!」
落葉が男の溝に飛び蹴りを放っていた。
そう、この子なら助けてくれると信じていたからである。
蹴りを食らわれたやつは白目を剥いて倒れていた。
「大丈夫ッスか!?」
取り巻きがそいつに駆け寄る。
「今のうちよ!」
おどおどしていたお坊ちゃまの手を取り、落葉と一緒にその場を離れた。