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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第一章
8/61

進化形紙芝居(アニメモドキ)

連続投稿2日目の本日投稿三回目です。

また明日投稿します。

 あれから数日、俺はお遊戯の時間をたっぷり取りながらも夜遅くまでお絵描きに励んだ。まあ、三歳児が起きていられる活動時間はあまり多くないんだけども…。

 とりあえず創作意欲と描画スキルに身を任せ、俺は初めての超大作…の第一話を完成させた。


 三歳児にしてやけに完成度が高いのはスキルの御蔭だ。それとなんちゃって同人誌を描いていた”テンマ”の努力の証でもある。それと…生理現象含め、甲斐甲斐しくあらゆる面倒をみてくれたルゥ兄ぃの御蔭である事は言うまでもない。


「…てことで、きょれより進化形紙芝居の発表会をはじめま~しゅ!!」

「わーい!ぱちぱちぱち~」

「うぅ…僕のシュテンがこんなに立派になって…」


 そんな俺達に囲まれた小岩がぼそり…


「………ウルサイ、ウザイ、ドッカイケ」

 

 ミュルンと並ぶ席で強制観客になっているガーグが、いかにも迷惑そうだ。


 ここは小さな泉の畔。

 泉の前に座り込んだチビゴーレムに、ウザ絡みしている子供三人の図である。


 進化形紙芝居とは、アニメを元にした紙芝居に漫画の技法であるコマ割りや擬音をふんだんに追加した、アニメーションモドキとも言うべき俺のオリジナルである。パソコンもテレビも無いのだから、アニメを再現しようと思えばアナログで頑張らないといけないのだ。



 専用の木枠に原画の束をセットしてスタンバイオーケー。

 その表紙にはでっかい文字でこう書かれている。


”銀牙 ―流れ星 銀―  第一話”


 ガーグ君やゴーレムの嗜好なんて判らないので、まずはミュルンに受けそうな犬系アニメを選んだ。陽キャで素直なミュルンの反応に、ガーグが釣られてくれれば儲けものだ。


 俺の合図とともにルゥ兄ぃがハープを奏で始める。

 そう、アニメといえばオープニングとエンディングのアニソンは欠かせない。寧ろ、このアニソンを響かせるために紙芝居を魅せると言っても、俺的には過言じゃないのだ。

 

『♪山が呼ぶー。空が呼ぶー。何かが遠く待っていると~♪』


 俺の歌にミュルンも真似をするが、うーうーリズムに合わせて唸るだけになっている。


 くく…ミュルンの掴みはばっちしだな。

 この世界の音楽は吟遊詩人の弾き語りが主で、地方の民謡でもこんなテンポの速い曲は聞いたことが無いだろう。何かと初めて聞く音楽は馴染むのに時間がかかるものだが、そこは俺の歌唱スキルで煽りまくって魂を震わせてやるぜい!


 そして…一分半のオープニングを終え、本話に入る。


 俺の仕事はナレーションと言えば聞こえはいいが、昔の講談師のようなもんだ。滑舌がイマイチなのは自分でも残念だが、重要な台詞は歌唱スキルを込めてしっかり言うし、男女の声色の変化も意識して行った。

 なにより、”テンマ”のアニメ愛を、俺の熱意に変えて演じられたと思う。ただのアニメ知識が実演することでこの身や魂に浸み込んでくるような…。


 全体の構成としてアニメの1クール(12話)は流石によく覚えてないし無理なので、起承転結の四話か起承転転結の五話とかにするつもりだ。納まり切らなかったら延長する感じで。

 銀牙~ の内容は熊狩りの宿命を背負った子犬が日本全国を巡って仲間を集め、殺人熊の王国を築いた赤カブトを倒すという物語だ。犬派には何かと響くストーリーなんだよ、これが。


 そして思った通り、ミュルンは鼻息荒く俺の語る話に前のめりで食いついている。


 だが…悪いな。第一話はもう終了なんだわ…。


 これからって時に終了を告げられたミュルンの絶望顔は…申し訳なくて心が痛いほどだった。

 しかし、これからもアニメモドキを楽しみたいなら、この辛さにも慣れてくれよ。


「それでは、またらいしゅうをお楽しみに~!」


 しょんぼりしたミュルンに染み入るようにエンディングを聞かせ、俺はここ数日の集大成を終えた。


 つ…つっかれたーっ!!

 三十分ほどの講談だったが、三歳児にはなかなかにキツイお仕事だった。

 だが、一喜一憂してくれるミュルンやハンカチ片手に目頭を押さえるルゥ兄ぃを見ると、頑張って良かったと心から思う。


 ちなみに肝心のガーグだが…俺と目が合うと慌ててぷいっとそっぽを向いた。


 表情は判らないが、最初から最後まで俺の講談を拝聴していたことは気付いている。まだまだ、これからどんどん惹き込んでやるから覚悟しておいてくれよな!


「ぐすっ、ボ~スぅ~…」

「んぅ、なんじゃい?」

「始めの歌をもう一回聴かせてっ!アレ…あたしも歌いたい!」

「ふむ…アンコールとにゃ?」

 

 正直、クタクタですぐにお昼寝したいんだが。

 しかし、話が終わっただけで泣いちゃう熱烈なファンの頼みとあらばもうひと踏ん張りするのも吝かではない。歌い手冥利に尽きるというものよ。


 ルゥ兄ぃもハープを掲げてオーケーしてくれた。

 ”テンマ”もこのアニソンは気に入っていて、よくカラオケで歌っていた。

 是非ともこの歌を覚えて、来週の第二話まで耐え忍んでくれたまえ。


『♪ 山が呼ぶー。空が呼ぶー。何かが遠く待っているとー ♪』


 こうして、俺のアニメ再現プロジェクト・進化形紙芝居(アニメモドキ)は大成功に終わったのだった。






 そして…二年の歳月が流れる。


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