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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第一章
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歌唱スキル

連日投稿2日目の本日投稿二回目です。


シャッ、シャー…スー、ズズズ…


 画用紙に描く線が正確に思った通り描かれていく。

 使っているペンはルゥ兄ぃが俺の注文に合わせて作ってくれたペンで、羽ペンよりはよっぽど使いやすくなった。


 描かれる絵は、三歳児のお絵描きとはもう全く次元の違うものになっている。描くたびに”テンマ”の熟練度が消化されて描画スキルに反映されてゆく。俺は技術が上達してゆく快感もそこそこに鬼気迫る勢いでお絵描きに没頭していた。

 生まれて初めて罵倒された怒りと傷心のままに、あのチビゴーレムを見返してやるために…。

 しかし…


 年齢に似合わぬ絵を描いていた小さなムチムチお手てが、震えとともにペンを落とした。


「ありぇ?」


 腱鞘炎である。

 三歳児にあるまじき酷使の所為で、手首や指が攣ったように痺れている。多少の痛みはルゥ兄ぃの加護で治るだけに、よっぽど年齢に見合わぬ疲労が溜まってしまったのだろう。普段はスプーンさえ持たない幼児の手なのだ。


「お手てが…いたいよう。ふえっ…うえぇ…」


 集中が途切れ、年齢相応の精神に戻って泣きそうになる。

 …が、その直前に温かい掌に包まれた。


「シュテン、ほら痛くない痛くない…」

「あ…ほんとら。いたくない…」


 ハイエルフの生命魔法は万能なのだ。


「でも、無理はダメだよ。君はまだ幼いんだから、もっとゆっくり成長すればいいんだよ。僕にとっては短い時間だけど、君にとっては長く楽しい人生になることは確実だから」

「……うん」


 俺の一番の望みはルゥ兄ぃと同じ時間を過ごす事だけど、今は言うべきじゃないと口を噤む。実力が全く足りてないし、言ったら自然に逆らう行為だって反対されそうだ。


「さ、少し休憩しようか。今は星空が綺麗に見えるよ♡」

「はぁい…」


 ルゥ兄ぃの言葉を受け入れ、窓際に行って空を見上げる。

 この霊峰オーエヤムの中腹はいつも星がよく見えるのだが、今日はまた特別に綺麗に感じた。


「時間とともに何もかも移り変わるけど、この星空だけは変わらないでくれるんだよ。いつか夜空を見上げた時、この瞬間を思い出せたら…いいな」

「るうにぃ…」


 その時には隣に俺はいるのだろうか…。そんな運命と戦うつもりではあるが、現実的にルウ兄ぃを置いて逝ってしまう可能性は捨て切れないのだ。


 切ない想いが溢れ、俺は自然にメロディを口ずさんでいた…


『♪いつも通りのある日の事、君は突然立ち上がり言った。”今夜、星を見に行こう”♪』


 アニメ『化物語』のエンディング”君の知らない物語”の一節だ。

 しかし…いつもの滑舌の悪さは全く無い。メロディとともに自然に出た言葉。本来は日本語であるべき歌詞。

 それらの不思議は、不意に会得した歌唱スキルによって得られた奇跡の一端だった。


 戦闘系スキルにギリギリ引っ掛かるこのバフ系スキルは、余裕の無いこの世界ではあまり人気の無いマイナースキルだ。しかし今後、俺にとって闇夜に差した光のように希望そのものとなる。


 目を丸くするルゥ兄ぃの前で、俺は物凄い速さで”テンマ”の経験を熟練度として歌唱スキルに捧げていった。


『♪”たまには良いこと言うんだね”なんてみんなして言って笑った。明かりもない道を♪』


 凄い…信じられないほど声が通る。

 この星空に思い通りに声を…この魂の叫びを響かせられる。

 なんて爽快感だ!

 俺は隣で驚くルゥ兄ぃの事も忘れ、一心不乱に歌唱スキルをフル稼働させていた。


 やがて、第一パートを歌い終わり、第二パートへと進んだ時…


♪ピロ、ポロン…♪


「!?」


 背後から澄んだ旋律が流れてきた。


 振り返ると、ルゥ兄ぃがハープを弾きながらにっこり笑いかけてきた。

 すげえ!第一パートの耳コピでもうこれを弾けちゃうのか?

 絶対音感とか確実に持ってるよね?


 俺は驚きながらも、演奏が加わった悦びに更に声を響かせる。


『♪あれがアルタイル、デネブ、ベガ。君は指さす夏の大三角。覚えて空を見る♪』


 それからは夢のような時間をともに過ごした。

 胸に秘めた想いを打ち明けずに終わった、切なくも懐かしい想い出を歌った曲だ。

 今の俺の心境にもよく似てる。ルゥ兄ぃに反対されるから言えないけど、いつまでも君と一緒にいたいという気持ちと魂をこの曲に乗せて歌った。


 最後まで歌い終わった時、もう感無量としか言えなかった。この星空に初めての歌を捧げることが出来て本当に良かった。

 そして、天のどこかにあるという”叡智の宝宮”に感謝。

 俺に歌唱スキルを授けてくれてありがとう。


バタン!


 突然、隣の家の扉が開き、何かが飛び出してきた。


「ボス~ッ!!今の歌はなにっ!?すっごく良い歌だったあ!もう一度歌ってぇ~!」


 隣家まで50メートル近くあるのに…さすが獣人種、良い耳してる。

 しかしまあ、喜んでもらえて何より。うるさいとか言われたらせっかくの感動の夜が台無しになっちゃうもんね。


 俺は二階の窓からミュルンに声を投げかける。


「しゅまんが今日はこれまでなんよ。またあした聴かせてやるにょ」


 あれ?滑舌が元に戻っちまった?

 どうやら歌唱スキルの補整は、アクティブでしか働かないようだ。


「えぇ~~っ!もう興奮して眠れないよぉ~」

「アンコールは受け付けないのにゃ。アニソンのレパートリーはたっくさんあるきゃら、明日をきたいしてるのら」

「あにそん?」


 これからお前が毎日、口ずさむ事になる歌の総称だよ。

 ”テンマ”はアニソンしか知らなかったし、俺もアニソン以外を歌うつもりはない。それほどに俺の魂はアニソンと相性が良かった。


 描画スキルと歌唱スキル…この二つのマイナースキルでどうすれば俺の望みを果たせるのか。

 三歳にして、俺の人生なかなか面白くなって来たんじゃない?



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