バーンバーンバンバーン♪バーンバンバンバン♪
(シュテン視点)
「さあ、いよいよやってまいりました獣皇武闘会・決勝戦!今期はこれまで例がないほどの波乱万丈な大会でしたが、この一戦でやっと終わってくれるかとほっとする思いです」
「司会がそんなんでいいのか~!」
「でも、その気持ちもよく判るぞ~!」
「武闘ってよりもコンサートライブの認識なんだよな…」
「もう一回、一から全部歌ってくんねえかなぁ~」
「やめろ!これ以上、あの鬼っ子を調子に乗らせるんじゃねーっ!」
ふん、まだ試合も始まっていないのに騒々しい奴等だぜ。
ところで…鬼っ子って誰だ?
大舞台に上がると、向こう側から対戦者のセレスが姿を現した。
黒髪の白いドレスの女。見た目は成人女性である。
俺の肩にはスラリンのみ。あと…今日の必勝アイテムを手拭いに包んできた。
「お前が決勝戦の相手セレスか?まあ、お互い正々堂々と戦おうじゃないか」
「………」
俺が歩み寄って手を差し出すが、セレスは一歩退いて態度に示した。
「ふん…今まで卑怯な手段で勝ち上がっておいて、よくそんな事が言えますわね!それに敵と慣れ合う趣味もないですの」
「ちっ…」
やっぱそんな簡単にはいかないか…。油断してたら、速効で決めてやろうと思ったのに。
だがな…お前が俺のよく知ってるアイツなら、その弱点もよく知ってるんだぜ。
「そうか…せっかく祖獣通りの名物も土産に持ってきたのになぁ…」
「えっ、祖獣通りの名物?」
くくく…気になるだろう?一週間近く住んでいながら名物があるなんて知らなかったんだから。そして、あそこで名物と言ったら俺の描いた壁画を連想するはず…。
雑談からの慣れ合いを始めようとする俺に、司会の姉ちゃんから声がかかる。
「あの~…そろそろ試合を始めてもよろしいでしょうか?」
「だぁ~めっ!」
そんな事したら、俺が一瞬で叩き潰されちゃうでしょ!
俺は手拭いを解いて、さっき創った名物を披露する。
「じゃじゃ~ん!これぞ祖獣通りの新名物(予定)勇者ロボ・フィギュアだぜいっ!!」
「な、なにこれぇ!?」
現れたのは三十センチほどの二体のロボットフィギュア(石製)…ガオガイガーとブレイバーンだ。
時間がなくてやっつけだったが、そこはオタクの底力。ガーくんの土魔法で創造したソレは、リアリティ抜群の立体感を充分に醸し出していた。
いや、俺はブレイバーンだけでいいって言ったんだけどね。ガーくんがどうしても、と…。
「す、すごい!なんて精巧な…そしてカッコイイ!これを造った人は勇者やロボットというものをよく理解しているんですのっ!」
「………」
くくく…ガーくんが聞いたら身体中が痒いと言い出しそうだ。お互いに敵対心を燃やしてるけど、最も憎きライバルこそが一番の理解者って事なんだろう。
セレスはブレイバーンのフィギュアを俺からぶん盗り、穴の空くほど見つめている。
俺は至近距離で眼を凝らし、セレスの頭上を凝視する。
…と、ほんの違和感程度だが、僅かな景色のズレを発見した。
「ほら、こっちのガオガイガーも中々の出来なんだぜい」
「……ど、どうしてもと言うんなら確かめてあげないでもない…ですの」
無防備に空いた手を伸ばしてくるセレス。
その瞬間、俺はスラリンをむんずと掴んで、頭上の違和感へと投げつけた。
たぷんッ!
「ピポッ!?そんな…またお前かッ!?」
以前の既視感を視るように、何もない空間からスライムを纏った10センチ四方のキューブ(エンデオ爺さん)が現れた。
そして、ホログラムが解けたのか、妙齢女性セレスの姿が五歳の幼女セレスティアに縮んでいた。
「じ、爺やぁ!」
「うはははっ!正体見破ったり、セレスティアッ!」
元は偶然からの発見なのだが、エンデオ爺さんとスラリンの関係は”斬鉄剣とこんにゃく”の関係に似ている。おそらく爺さんの空間歪曲はアクティブ仕様であり、液体&生物の特性を認識できないんだと思う。更に推測するなら、これは彼等の故郷ナントカ星帝国がわざと残したセキュリティホールであり、向こうの軍隊が特殊なトリモチを使って制圧する仕様と思われる。お前等、どんだけAIが怖いんだよ!
……まあ、こんくらいの設定予測は、何年もアニメを見ていれば出来て当然なんだけどな。
「うぁああああん!爺やを放してよぉおおお~っ!!」
セレスティアが泣きながらスラリンを引き剥がそうとするが、ここまでは前回と全く同じ展開だ。
しかし、ここからは迅速に行動しないと…俺が詰む。
セレスティアが冷静になったら、俺があのマジックハンドで叩き潰されるからだ。今の内に、あのマジックハンドを封じる方法を探さねばならないのだ。
俺はそぉ~っとセレスティアの背後に忍び寄り、白いドレスの裾を掴んだ。
「マジックハンドを引っ剥がしてやるぜーっ!!」
「ひっ!?きゃああああーっ!!」
大袈裟な悲鳴をあげる幼女のスカートの中は、真っ白なモコモコのパンツだけだった。
あ、これ知ってる。
これアニメ”Dr.スランプ アラレちゃん”のアラレちゃんが穿いていた…カボチャパンツだ。
でも…確かコイツ等は科学至上主義だったから、魔法なんて使えないはず…。
まさか、このモコモコの中にマジックハンドがあんのか?
それとも、それを可能とする超科学の装置が?
なにはともあれ…
解:カボチャパンツを奪えば勝つる!
「おらあああっ!パンツよこせええぇーっ!!」
「んぎゃあああっ!?えっちぃ!変態いいいぃーっ!!」
互いに五歳児でなければ、ちょっと洒落にならない絵面だったかもな。
とはいえ片方は王女としてのプライドが懸かっており、こっちは失敗すれば半殺しor全殺しである。お遊びは一切なく、全身全霊でパンツの争奪戦を繰り広げた。
観客はセレスの正体が五歳児幼女に変わった事に未だ唖然としており、今のところ非難の声は小さい。いち早く使命感を取り戻した猫耳お姉ちゃんが、なんか叫んでるが…
「シュテン選手!まだ試合は始まっていません!直ちにパンツから手を離して下さい!いくら幼くとも、ソレは人として許されざる行為ですよ!」
「うっせーっ!こちとら命懸けなんだよっ!」
俺は知ってるんだぜい。
このヴォルセニア獣皇国において、犯罪が適用されるのは六歳以降である。それは幼少期の成長が遅い祖獣を考慮しての配慮なのだが、犯罪を理由に俺を止められないのも事実なのだ。俺がこの大会で反則ギリギリアウトで戦えるのも、そんな柵が無いからでもある。実際に法律を作った人にしっかり法の穴を教えて貰い、バッチリ対策済みなのだ。
「いやっ、いやっ!ほんとマジでやめてよぅッ!あっ…」
握力の限界だったのか、ズポッ!とパンツが引っこ抜けた。
「うおらぁ、カボチャパンツ獲ったど~っ!!」
「うぇえええええん!もう、お嫁にいけないいいぃ!ぴぎゃぁあああああん!!」
パンツを掲げて雄叫びをあげる俺と、スカートを押さえて泣き叫ぶセレスティア。
これで俺の勝利は…
「ふざけんなっ!さすがに今回ばかりは赦さんぞッ!」
「幼女をイジめるなーっ!」
「この人でなしーっ!」
「鬼っ子め、地獄に落ちろッ!!」
観客の罵詈雑言が凄いけど…さすがにお前等、五歳児に対して容赦なくね?
何故か観客席のミュルンやガーくんも俺の悪口を叫んでる気がするが、たぶん俺の気のせいだろう。ルゥ兄ぃが両手で顔を覆っているのも、美し過ぎるゆえの発作に違いない。
そう、この世は非情にならねばならない時がある。まさに今がその時であり、苦い勝利もまた戦いの常なのである。……試合はまだ始まってないけど。
まあ、マジックハンドを奪った以上、俺の勝利は動かないだろう。
しかし、そんな俺の勝利に水を差す呟きが、足元から…
「しくしく…パンツは関係ないのにぃ。”淑女の護り手”はドレスに付加された機能ですじゃ…」
「ぅえっ!?」
スラリンに蹂躙されたキューブ(エンデオ爺さん)が恨みがましく呟いていた。
つ…つまり、あのえげつない戦闘力は健在という事?
俺は脂汗を流して号泣しているセレスティアを見下ろし…そぉっとセレスティアの隣にパンツを置いた。
一瞬、土下座して謝ろうかとも考えたが、すっかり戦意と正気を失ったセレスティアが試合に復帰するとも思えなかった。
「おい、猫耳姉ちゃん!早く、試合を始めろ!」
「はあ!?とてもそんな状況じゃないですよっ!」
「なら、俺の不戦勝だよな?」
「んぐっ…」
司会の姉ちゃんは俺の思惑通りになるのがよっぽど嫌だったのか、セレスティアをあやしたり説得したりし始めた。
…が、これは俺の体験談だが、一度ガン泣きを始めた五歳児は梃子でも動かないのだ。
その程度でガン泣きがおさまるなら、ソイツは幼児の皮を被った大人か転生者だ。幼児のガン泣きを止めるには、ソレに見合う対価を差し出さなきゃならないんだぜ。
案の定、司会の姉ちゃんは対価を差し出すこともなく、早々に説得を諦めた。
「え~…努力はしましたが、セレス選手の戦意が戻ることはなく…誠に不本意ながら獣皇武闘会決勝はシュテン選手の不戦勝ということに…」
怒ド怒ドド怒オオオオオオオオオオーッ!!
「「「「「%&$#’=’$#””!%~=$#”%”」」」」」
うおっ!罵詈雑言が凄過ぎて、もう何を言ってるのか判んないぞ。
爆音ギャン泣きのセレスティアも加わって、司会の姉ちゃんが猫耳をおさえて蹲るほどだ。
俺も流石に罪悪感が半端ないので、そろそろこの事態を収拾しようと思う。
俺は一旦舞台を降りて、司会の姉ちゃんからマイクを掻っ攫った。
そして…マイクをオカリナに充て、思いっきり一番高い音を吹いた。
ピイイイイイイイイイィィーッ!!
何事かと閉口する観客の…一瞬の静寂を裂いて俺が叫ぶ。
「ワンニャン忍舞団、集合ーっ!!」
直後、俺の声に応えるように幼い声が吠える。
にゃおおおおおおぉん!
わおおおおおおおぉん!
両親の制止を振り切って、猫人ーや犬人などの幼い祖獣達が闘技場へと飛び降りて来る。
幼いニャンコとワンコが大舞台の周りに並び、片膝をついた。
その数、総勢約五十名。
ごっこ遊びとはいえ、仮初めでも俺は主君である。今日はその権限を行使させてもらおう。
ピー、ピー、ポゥ、ピー!ピー、ポゥ、ポゥ、ポゥ!
俺とコイツ等は不思議なほど心が通じているから、これだけで通じるはずだ。
とある曲の前奏だけを繰り返すと、意図を理解したニャンコとワンコも同じ部分だけを歌い出す。
『『『『『バーン、バーン、バン、バーン!バーン、バン、バン、バン!』』』』』
『『『『『にゃーん、にゃーん、にゃ、にゃーん!にゃーん、にゃ、にゃ、にゃ!』』』』』
『『『『『わーん、わーん、わん、わーん!わーん、わん、わん、わん!』』』』』
言葉足らずな子も多いのだが、音感さえ合っていれば問題ない。
要は決め台詞を言わないまま、延々と同じ前奏を繰り返すだけだ。これはこの歌を知る者にとっては、結構フラストレーションの溜まる行為である。ましてや、この曲を最推ししているアイツにとっては拷問にも等しい行為だろう。
いつの間にか、セレスティアのガン泣きが治まっていた。
その代わり、ぷるぷると怒りの波動が少しずつ膨れ上がっている。
俺はまた大舞台に上がり、エンデオ爺さんをスラリンから解放しつつセレスティアに歩み寄る。
溜まったフラストレーションより俺への怒りが大きければ、俺は半殺しにされるだろう。だが、俺はセレスティアがどれだけ熱いオタク魂をもっているか知っている。抑圧されて生きてきたのか、瞬間的な出力ならミューやガーくんを上回るほどだ。
この状況で推しの普及に貢献しないオタクは真のオタクではない!
マイクを差し出すと、セレスティアは涙を拭い去って俺をキッと睨み…ソレを奪い取った。
『『『『『バーン、バーン、バン、バーン!バーン、バン、バン、バン!』』』』』
大きく息を吸って、推しへの想いと魂を込めて…思いっきり吐き出す。
『……ブレイバーンッ!!』
魂の絶叫を合図に、ルゥ兄ぃとミューの超絶演奏がコロシアムに響き渡り始めた。
ワンニャン忍舞団の皆、バックコーラス頼んだぜ!
俺は魂を込めて必殺技を叫ぶ役だぜい!
『♪ この地球の 嘆く声を聴け
♪ (ブレイバーン ブレイバーン バンバン バーンブレイバーン)
♪ 安らぎを衛る 盾となれ
♪ (ブレイバーン ブレイバーン バンバン バーンブレイバーン)
♪ Go Dash 命はメロディ
♪ Wake Up 絆はハーモニー
♪ 戦士の眼差しで 貫徹け
♪ 愛を 生を 闘志を刃に 叫べ
♪ (ブレイブ斬!!)
♪ 抱いた可能性 掴め Just one 魂
♪ 剣 誇り 渦巻く大空に掲げて
♪ (ブレイブズバッシュ!!)
♪ 勇気 無限大 赤く 燃焼せ 燃焼せ 燃焼せ
♪ 未来を願う涙 笑顔に変わるまで
♪ バーンバーンバンバーン
♪ バーンバンバンバン バーンブレイバーン ♪』
改めて説明するが、このアニソンは”勇気爆発 バーンブレイバーン”のオープニング『ババーンと推参!バーンブレイバーン』である。放送当時はロボットアニメの伝統を受け継いだアニソンと、気持ち悪いと評判の男同士の絡みで話題になった作品だ。
何がそれほどセレスティアの琴線に触れたのか、このアニソンに懸けるアイツの想いは本物だ。ここにいる皆、セレスティアに何百回も熱唱を付き合わされてるからな。これに対抗しようと、ガオガイガーの『勇者王誕生!』を何度もリクエストしてくるガーくんに困らされたのは良い思い出だ。
だから、幼いワンコ・ニャンコのコーラスも、魂の熱さならプロ並みなんだぜい。
『♪ その声を 辿り救い出せ
♪ (ブレイバーン ブレイバーン バンバン バーンブレイバーン)
♪ 時空さえ 穿つ矛となれ
♪ (ブレイバーン ブレイバーン バンバン バーンブレイバーン)
♪ Break down 壊せよセオリー
♪ Don't cry 交わせよエナジー
♪ 使命を握りしめ 翔け
♪ 善を 悪を 運命を超えて戦え
♪ (ブレイブヴァニッシュ!!)
♪ 超弩級ファイト 刻め Last one 奇跡
♪ 炎 祈り人 絶やさず果てを 照射して
♪ (ブレイブシュババババーン!!)
♪ 勇気 爆発 希望 放出て 放出て 放出て
♪ 怒り 孤独 若さ 光に変わるまで
♪ バーンバーンバンバーン
♪ バーンバンバンバン バーンブレイバーン ♪』
宙に浮かんだエンデオ爺さん(キューブ)も、今やセレスティアの頭上で七色に光ってド派手な演出をかましている。
うわっ…AI編集なのか、上空に立体映像でバーンブレイバーンの合体シーンまで流してきやがった!あの機能、羨ましい!絶対欲しい人材?だぜっ!
な…なあ、もはや俺達はアニソン熱唱の一体感で繋がった仲間だよな?爆発した勇気に流されて、小さな恨みなんて洗い流しちゃったよな?
だから…パンツを剥ぎ取ったことはすっぱり忘れて下さい!何卒お願いしますぅ!
セレスティアってノリは凄くいいけど、ぐいぐい押しが強いとこがちょっと苦手なのだ。
『♪ 今だ 今だ 命 燃焼せ (バーンバーンバーン)
♪ 愛を 生を 闘志を刃に 叫べ
♪ (ブレイブ斬!!)
♪ 抱いた可能性 掴め Just one 魂
♪ 剣 誇り 渦巻く大空(そら)に掲げて
♪ (ブレイブズバッシュ!!)
♪ 勇気 無限大 赤く 燃焼せ 燃焼せ 燃焼せ
♪ 未来を願う涙 笑顔に変わるまで
♪ バーンバーンバンバーン
♪ バーンバンバンバン バーンブレイバーン ♪』
『『『『『………』』』』』
マイクを噛み砕かんばかりに歌い切ったセレスティアの姿に、観客も唖然としていた。俺みたいなバフこそ掛けられないが、胸に熱い魂を感じた奴は多いだろう。
さっきまでガン泣きしていた幼女が、勇気と自信に満ち溢れた表情で立っている。
怒り・同情・興奮・困惑…どんな顔をすればいいか判らなくて、俺への非難のきっかけを探す観客。
そんな時、セレスティアはやっと床に落ちたままのカボチャパンツに気付いた。
頬を真っ赤に染め、慌ててパンツを穿き直すと…途端に無表情になって俺へと向き直る。
「「「「「………」」」」」
そう…観客が期待しているのは、俺へのケジメである。
公衆の面前でパンツを剥ぎ取った俺が…誠心誠意の土下座をするか、大人しく一発ぶん殴られるか…おそらく、そんな展開を期待しているんだろう。
俺も土下座くらいしてやるつもりはあるんだが、果たしてその程度で赦してくれるのかが判らない。迂闊に地に伏せて、頭を叩き潰されては堪らない。
アニメじゃないんだから、幼女に超兵器なんか持たせてんじゃねえよっ!!
無表情で近付いてくるセレスティアの圧に負け、俺が踵を返してとんずらを考えた時だった。
咄嗟に俺の左手を捉えたセレスティアが、両手でがっちり握り締める。
「あの…不束者ですが、今後ともよろしくですの。私の旦那様…」
「んえ?ほわぁっつ!?」
全く意味不明だが、俺の人生において不吉なフラグなのは確信した。




